表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter2 奴隷オークション編
42/63

第三十八話 【男装の麗人】



「つまり、今回のオークションは男女ペアでないと駄目ということですか?」



 作戦を一通り聞いたミリアは、困ったように小首を傾げた。


 ベルガンの説明を簡潔に纏めると、子供を欲しがるのは夫婦と決めているため、会場入り出来るのは男女ペアとなるらしい。



「そう。だから、お前らのどっちかとオレがペアで潜入するんだ」



 好青年が白スーツを正して、さも面倒臭そうに腰に手を当てて二人を交互に見つめる。


 満更でもない様子だが、あからさまに嫌そうな態度を見せるディルモットは、肩を竦めて壁にもたれてしまう。


 こうなれば、必然的に選ばれるのは決まってくる。



「……え? わ、私ですか?」



 全員の視線がミリアに集まり、困ったように今度は眉をひそめた。


 どうやら好青年の相手をするのは、ミリアも嫌らしい。



「……オレ、そんなに駄目か?」



 落ち込む好青年に対してミリアは慌てているが、否定の言葉が出てこないということは、そういうことだろう。



「男用のスーツはあるか?」


「在庫はあるでしょうが、まさか男装でもするおつもりで?」



 ディルモットの問い掛けに、ベルガンは顎髭を撫でて踵を返した。



「身長は?」



 と、衣装部屋へと足を向けながらベルガンは問うた。



「180もないくらいだろうかねぇ」


「ふむ、胸はどうするのかね?」


「どうにかするさ」



 二人は似合うスーツやシャツを探して奥へと進んでいく。


 途中、ミリアら好青年に何度も頭を下げ、さらなる追い討ちを掛けていた。



「……遅いな」



 打ちのめされた好青年は、腕を組んで指を叩き苛立ちを表していた。


 ディルモットが着替えに取り掛かってから、既に半刻が過ぎようとしていたのだ。


 ベルガンも途中で出て来たために、今の状況は分からない。

 黒服たちは潜入の準備を始め、残っているのはミリアを含めた三人だけだ。



「やっぱりあの胸はどうにもならないだろ。いくらサラシでも巨乳だからな」


「た、確かに巨乳ですが……って、どこを見ているんですか!」


「いや、見てるというより見せられてるってのが正解でしょうよ」



 ミリアに咎められ、好青年は頬を掻いた。


 しかし言いたいことは理解出来る。

 背も高く、声音もどちらかと言えば低い。挙動や仕草、言動などを総合すると男性に近い。


 なのにも関わらず、胸だけが異様に女性らしさを出しているため、あれさえ潰すことが出来れば完璧だろう。潰せるのならば。



「様子を見て来ます──っ!?」



 三度のノックから部屋の扉を開けたミリアは、何かにぶつかって後退してしまった。


 

「いっ──大丈夫か?」



 声を掛けてきたのはディルモットであった。


 額と顎がぶつかったようで、ミリアは慌てて顔を上げ、硬直した。



「え? あ、ディル……さん?」


「ん? ああ、そうだが。そんなに変かねぇ」



 ミリアの反応に、ディルモットは後ろ首を撫でて眉をひそめる。


 奥を見れば、驚愕している好青年と、何度も頷くベルガンが拍手を送ってきていた。


 ポニーテールはそのままに、軽く化粧を施し縁無しメガネを掛けたディルモットの格好は、まごうことなき男装であった。


 紺の紳士服に白のシャツ、赤の蝶ネクタイで決め、巨乳は見事に潰されている。

 紺のパンツと、金で装飾された黒のロングブーツがアクセントとなり、旦那というよりは執事のような見た目だ。



「ここまで完成度が高いとは、お見事ですな」



 ベルガンの感心した様子を見て、ディルモットは鼻を鳴らす。



「これなら、潜入も出来そうですね!」



 喜ぶミリアは、少し頬を赤くさせ手を合わせた。

 

 だが、そんな彼女の横でディルモットは微妙な面持ちで、柔らかく喉に指を触れる。



「流石にここは真似出来ないねぇ」


「そこまで真似されちゃあ男のメンツ丸潰れだって」



 若干引き気味で吐き捨てた好青年に、ベルガンも同感しながら髭を撫でた。



「ふうん。なら、こうすればどうかな?」



 と、ディルモットはミリアを軽く抱き寄せた。


 突然のことに驚き口をパクパクさせるミリアを余所に、ディルモットは優しく微笑んだ。



「頭が丁度喉に来る。それに時刻は深夜だろう? こうしていれば夫婦にも見えないことはないだろうしねぇ」


「まあ、端から見ても違和感はありませんが。中に入る前にお嬢さんが倒れてしまいそうですな」


「……?」



 ベルガンの言葉により、ディルモットは首を傾げて手を離した。


 瞬間、髪色程に顔を染めたミリアは、その顔を両手で覆いしゃがみ込んでしまった。



「だ、駄目です。その格好でこういうことは駄目です!」


「アタシは女なんだがねぇ。何をそんなに照れることがある?」


「だから、その格好じゃ説得力ありません!」



 頭を振って顔を上げようとしないミリアに、ディルモットもしゃがみ込んで無理矢理顔を合わせようとする。


 好青年が悔しそうに舌を打ち、頭を掻いて黒服たちの方へと歩いていってしまった。



「まあまあ良いでしょう。中に入ればこちらの勝ちです。一瞬の我慢ですよ」



 一度大きく頷き、ベルガンは踵を返して客室の方へと戻っていった。


 どうやらミリアの件は強行するらしい。

 慣らせろ、ということでもあるだろうか。



「これならあの男に頼んだ方が良かったかねぇ」



 今更ながら好青年に任せればと後悔したディルモットは、深い溜め息をついて立ち上がった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ