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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter2 奴隷オークション編
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小話3 【王子と少女】



 目が覚めた時には、既にベッドの中であった。


 あの港町ではないことは、潮の香りがしなかったことですぐに分かったが、ここがどこなのかは、今のアールスタインには分からなかった。


 部屋自体は明るいシャンデリアのおかげで綺麗に見れる。食事をするための小さなテーブルやタンスが並んでおり、広さ自体もそこそこだ。


 しかし、窓は板を釘打ちされているため、外の景色は全く見えない。



「はあ。なんで僕が……」



 ベッドの上で自らの姿を一瞥したアールスタインは、深い溜め息をついてディルモットを思い出した。


 あれだけ警戒していて、食事に睡眠薬が盛られているなどと微塵も思わなかったことは、やはり甘いことだと理解してしまう。


 おかげで誘拐され、今やアールスタイン王子ならぬ、姫になりつつあった。



「……あいつら、僕の性別間違えてるのか?」



 シルク生地で仕上がったドレス。

 桃色と白のレースがふんだんにあしらわれた物に、アールスタインは包まれていた。


 金髪に飾られた髪飾り。

 頬に塗られたチーク。

 靴は辛うじて革靴だが、顔にまで化粧を施されるとは思わなかった。


 鏡で姿を見た時には、失神してしまいそうな程だ。



「ふえぇぇぇんっ!!」



 突如、部屋の外から少女の泣き声が聞こえ、アールスタインはビクッと肩を震わせた。



「あー! うるさい! 大人しくしろ!!」



 続いて男の怒鳴り声が響くと、部屋の扉が乱暴に開け放たれる。


 同時に、白い仮面の男が一人の少女を部屋の中に放り投げたのだ。



「危ないっ!?」



 咄嗟にアールスタインは前のめりに腕を伸ばし、間一髪で少女を抱き止めた。


 

「おうおうカッコいいじゃねぇか。んじゃ、そのままお守りも頼むわ」


「おい! 待て──っ!?」



 白の仮面は愉快に笑い、怒るアールスタインを嘲笑うかのように部屋の扉を閉めた。


 奥歯を噛みしめ、アールスタインは泣きじゃくる金髪の少女を宥めながら、閉められた扉を睨み付けた。


 

「うう……ふぇ」


「……泣くなよ。僕だって泣きたいんだ」



 あやし方など知らないために、ワンワン泣いている少女をゆっくりと抱き締めた。


 泣き声が伝染したのか、アールスタインも不安で涙を滲ませてしまう。



「──大丈夫。絶対、助けに来るよ。だから泣かないで」



 涙をグッと堪え、少女の背中を優しく一定のリズムで叩いていく。


 魔臓器はディルモットが持っている。

 自分の価値などどうでもいいと思うなら、ディルモットは来ないかも知れない。


 それでも、ミリアは来てくれるかも知れない。連れられてディルモットも来てくれるか。



「ふえ──ふぅ」



 ゆっくりと揺らすアールスタインのあやし方が良かったのか、単に泣き疲れたのか、少女は寝息を立て始めた。


 

「良かった」



 小さく呟き安堵したアールスタインは、自分もその場に倒れ、少女を抱いたまま意識を闇の中に溶かせていった。


 きっと、助けに来てくれると願って──。





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