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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter1 魔臓器奪還編
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第四話 【些細なすれ違い】



 食事を終え、のんびりとした時間を過ごすディルモット。


 先にいた行商人たちはいつの間にか店を出ており、酒場は静かな空間となっている。


 そんな中で、アールスタインはやけに落ち着かない様子でいた。



「ギンムガムにはどれくらいで着くんだ?」



 真剣な表情で問うたアールスタインに、ディルモットは面倒そうな表情をしてから、欠伸を噛み殺して考えた。



「列車で行くなら、滞りなく着いたとして一週間。金や食糧の問題、それにチケットがあるから、二週間。事故に巻き込まれたりしたとして、一ヶ月はみておけば確実ってとこだねぇ」


「一ヶ月!?」



 頬を掻いて答えるディルモットに対し、アールスタインは椅子を転ばせる勢いで立ち上がった。


 対してディルモットは驚くこともなく、腕を組んで椅子の背にもたれた。



「父上が魔臓器を取り返しに来るかも知れないんだぞ! こうしちゃ居られない。今すぐにでも出発するぞ。僕は野宿でも構わな──」


「断る」



 険しい表情で焦りを見せるアールスタインに、ディルモットは肩を竦めて拒否を示した。


 まさか拒否されるとは思わなかったのだろう。アールスタインは一瞬何を言われたのか分からず固まり、すぐに首を左右に振った。



「な、なんでだよ! お前は運び屋だろ。依頼者の願いを聞くことが運び屋じゃないのか」



 怒りをぶつけ、無茶苦茶なことを言うアールスタインに、ディルモットは鼻で笑い憐れみの眼差しで少年を見据えた。



「何を勘違いしているのかは知らないが、これは正式な依頼じゃない。それに、運び屋は忠誠心の高いペットでもない。何でもかんでも言うことを聞く訳じゃないさ」


「それでも! 僕の依頼にお前は答えたからここにいるんだろう!」


「ああそうだねぇ。ならここで契約を解消しようか。アタシのやり方に文句があるなら、それしかない」



 ディルモットは余裕の表情だ。


 何故すぐにでも出発してくれないのか。理由を話してくれることもなく、アールスタインは苛立ちを見せるばかり。


 

「金もまだ貰ってないしねぇ。お試し体験ということで、ここで終わりにするかい?」


「……僕を脅しているのか。只の運び屋が?」


「脅しに聞こえたなら失礼。当たり前のことを言っているだけで、焦っても仕方ないってことさ」



 ディルモットの言うことは、アールスタインも理解している。


 焦っても仕方がない。

 まさしくその通りだが、納得出来ないのは焦りのせいか、単に子供であるからか。



「僕は一刻も早くギンムガムの王にこれを持って行かなきゃいけないんだ! どうして分からないんだ!」



 アールスタインはテーブルを思い切り叩くと、怒鳴り声をあげながら勢いよく酒場を出て行ってしまった。


 酒場が一気に静まり返り、配膳娘がチラリとディルモットを一瞥すると、厨房の方へと逃げてしまう。


 一人残されたディルモットは、僅かな麦酒を飲み干すと、一息ついて懐から煙草を取り出した。



「行っちまったか。……ガキの扱い難しいねぇ」



 頬杖をつき、ディルモットは煙と共に溜め息を吐いて肩を竦めた。


 魔法が使えない人間に移植すれば、誰でも魔法が使えるようになる。それが魔臓器だ。


 精霊遣いの心臓とも言われ、悪用される以外の使い方を、未だディルモットは見たことがない。


 

「ギンムガムに持って行ったところで、向こうの方がよく使われてる代物だろうに」



 目を閉じ、頭を掻いて深い溜め息をつく。


 列車で行くとすれば、この大陸なら検問を越えなければならない。しかも、検問の数は三つ。無事に通れる可能性は低い。

 チケットの問題は、まあ何とかなるだろう。という根拠も保証もない程度だ。


 アールスタインが捕まればこの運びの依頼は失敗に終わる。


 ここまで説明をしたところで、世間知らずの王子は納得などしないだろう。

 現実を突きつけるにも、今のディルモットには材料が足りない。


 どうしたもんかと悩むディルモットの耳に、酒場の扉が開く音が聞こえた。



「外にいた男の子、一人だったのかしら?」



 酒場に入店してきたのは冒険者の一行だ。席につきながら、心配そうに酒場の外を一瞥して女の子が呟く。



「貴族っぽいけどな」


「外に行かなければ大丈夫だとは思うが……」



 少年少女の会話内容に、少し離れた位置で聞いていたディルモットは表情を曇らせる。


 魔除け花より外側へ出なければ、魔物に出くわすことはないだろう。


 しかし、アールスタインが早まった行動をしているのであれば、無事では済まない。


 王族といえば、剣や弓やと鍛練しているイメージはあるが、あの様子では実践経験など皆無のはずだ。



「……はぁ、面倒くさい」



 ディルモットは暫く考え込んでいた。

 だが、それもほんの数秒のこと。



「ごちそうさん」



 パンツのポケットから銀貨数枚を取り出し、テーブルの上に置いて配膳娘に声を掛けると、ディルモットは重い腰を上げた。


 もうすぐ夕日が現れ始める時間だ。

 活気づいてきた酒場の中で、ディルモットは一人静かに出て行きながら、村の外を一瞥する。


 アールスタインが死ねば全てが終わる。

 折角手に入れたチャンスを、無駄にすることもないだろう。

 目的のためならば、守ってやろうじゃないか。



「本当に、厄介な王子様なことで……」




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