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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter2 奴隷オークション編
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第三十四話 【先輩と後輩】


 ミリアは暫く呆然と二人の姿を見つめていた。


 リーシェがディルモットに抱きついており、猫のように頭をうずめて甘えているのだ。



「先輩とこんな所で出会えるだなんて! これは間違いなく運命ですよね!」


「あーはいはい。運命かも知れないねぇ」



 リーシェの熱烈な言葉に対して、ディルモットの反応は冷え切っていた。



「えっと、お二人はどういう関係で──」



 怪訝そうに尋ねようとしたミリアは、少女の手首に装備された腕輪を見て納得した。



「先輩と同じく運び屋だよ!」


「そう、厄介な後輩さ」



 ディルモットの呟きに、再びリーシェが強く抱き締める。柔らかい胸に顔が埋まり、幸せそうな顔を浮かべている少女は、端から見れば変態にも見えた。



「あと一人先輩がいたはずだが?」


「うん、いるよ。多分」



 肩を竦めるディルモットに、リーシェは渋々離れて荷馬車に指差した。


 

「おいおい、通るだけにえらい騒ぎだな……って!?」



 荷物置き場からのそのそと降りてきた髭面の男に、リーシェは頬を掻いて手を振る。


 

「おまっ、ディルモットか」



 レザーベストにライフル銃を担いだ男は、あからさまに嫌そうな顔をして地面に降り立つ。



「やっぱりアンタもいたか。変わらないねぇ、ダジエド先輩」


「てめぇのそれは嫌味だろうが」



 互いに皮肉めいた言葉を交わし、ダジエドは大きく溜め息をついた。



「んで? なーんでこんなとこに居るんだよ」



 ダジエドが天然パーマの茶髪を掻いて、気怠く問い掛ける。


 ディルモットはミリアと目を合わせると、続けて不信感を露わにしている後ろの兵士を一瞥した。



「通行証が無くて困っているのです」



 先に答えたのはミリアだった。

 続けてディルモットも説明に入る。



「ここから町に戻って通行証を発行しないといけない……ってところさ」



 困ったように息を付いたディルモットの表情に、リーシェが胸を張って拳を叩いた。



「それなら私にどーん! と任せて下さいよ。運び屋だから通行証もバッチリですよー!」



 元気よく答えてくれるリーシェは軽い歩調で兵士まで歩み、通行証を見せながら後ろを指差す。



「後ろの人たちも仲間なの! 通っていいよね?」



 リーシェの言葉に、兵士二人は顔を見合わせた後、少し眉をひそめて小さく頷いた。



「悪い人では無さそうですので、今回は特別に。今度は持ってきて下さいね」



 穏やかな兵士が頭を下げると、互いに左右へ足を横へ踏み出し道を開ける。

 同時に、重たい鉄扉が内側へ開き始め、関所の道は示された。



「やった! ありがとう! 先輩いこっ!」


「おっ!? ちょっと待っ──」



 開くと共にディルモットはリーシェに腕を掴まれ、一気に駆け抜けて行く。



「おいおい! 荷馬車を置いていくんじゃねぇよ!」



 驚愕するダジエドは、頭を乱暴に掻いて面倒臭そうに荷馬車へと戻る。



「おい嬢ちゃん、後ろ乗れ!」


「えっ!? あ、はい!」



 不意に声を掛けられたミリアは驚きながらも、荷馬車の荷物置き場に鎮座した。


 先に入り走っていくディルモットたちを迎えたのは、太陽をも隠す巨大な影であった。



「あれが、グレアデル貴国……趣味が悪いねぇ」



 関所の囲まれた壁など無意味なように、雲を突き抜けんとする巨大な塔国は、影のせいで外観はよく見えない。


 しかし、太陽が当たっていると思われる部分からは、凄まじい光が反射し、こちらへ漏れていた。



「先輩はどうしてここに? リムドルの方で何かあったんですかー?」



 関所を抜けながら手を離したリーシェは、沸いた疑問を素直にぶつけた。


 一瞬、躊躇うディルモットだが、一度目を閉じてグレアデルの塔国を見上げ口を開いた。



「荷物を、盗まれてねぇ」


「えっ!? 大変じゃないですか!」



 驚愕な言葉に分かり易く眉をひそめたリーシェは、ディルモットの手を取って少し後ろへ下がる。



「お、おいおい! 止まれ止まれっ!」



 勢い良く走ってくる焦げ茶の馬は、ダジエドの手綱を強く引かれて制止する。


 ミリアも止まったことに胸を撫で下ろしながら、荷物置き場からぴょんと下りて合流してくる。



「私も犯人探しする!」


「悪いが断る」



 リーシェの宣言に、ディルモットは真剣に首を左右に振った。


 思ってもいなかった簡潔な答えに、リーシェは一度制止して頬を膨らませる。



「どうしてですか? 先輩、顔怖いですよ?」



 懲りることなく問い掛けるリーシェ。


 だが、ディルモットは今度ばかりは無視をして歩き始めた。



「もー! 折角恩を売ったと思ったのにー! 先輩待ってよ~」



 しつこさは一級品か。

 リーシェはディルモットを追い掛けていく。


 それを見ていたミリアは、胃を押さえて深い溜め息をついた。



「なんだか、苦労しそうな予感がします」


「予感じゃねぇよ。苦労するんだよ。俺はいつもアレといるんだぜ?」



 胃を押さえるミリアが「ご愁傷様です」と、労いを呟いて再び荷馬車へと乗った……。







 

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