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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter1 魔臓器奪還編
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閑話 騎士団長と王



 リムドル王城内の王室にて、二人の影がろうそくの灯りによって揺らめいていた。


 気難しそうで豪奢な赤外套に身を包んだ者が、髪色と同じ茶の髭を撫で、目の前にいる男を見据える。



「よもやここまで逃がすとはな。これは騎士団長の判断ミスではないか、ジークフリード君」



 ジークフリードと呼ばれた男は、厳めしい表情で深々と頭を下げた。


 シンプルな白を基調としたプレストアーマーに、毛皮の外套を靡かせ、青黒い短髪を後ろに撫でつけた男。

 その背には、身の丈ほどの長身な剣を携えている。



「申し訳ございません。サルヴァンで事足りると判断した私の失態であります」



 下げた頭を上げることなく、ジークフリードは胸に手を当てた。



「まさかあの狂犬の妹が裏切るとは──」


「過ぎたことなど構わん」



 言い訳に聞こえたのか、ジークフリードの言葉を遮り王は鼻を鳴らす。



「あの魔臓器は必ず取り戻さねばいかん」



 天窓付きのキングベッドに腰掛け、本棚やアンティークの装飾、絵画を見回し、王は小さな丸テーブルに置かれた一枚の紙を手に取った。



「四つ王国にそれぞれ託された代物だ。我が国だけが奪われたと知られれば……どうなることか」



 震えた手で紙を置き、王は何度も首を左右に振る。


 少しだけ頭を上げ、ジークフリードは小さく溜め息をついた。



「このジークフリード。必ずや王子と共に魔臓器を奪還致します」


「頼むぞ。最悪、魔臓器だけは必ずだ」



 王の言葉に、ジークフリードの眉間に深いしわが刻まれる。



「必ずや」



 ジークフリードは含みのある言い方をしたが、気にする素振りなど全くない。


 やはり、王は継承権など無いアールスタインなど、どうでも良い存在と考えているのだろう。


 だからこそ、王子の判断は正しい。

 だが、ジークフリードに手や策はない。

 せめて連れ帰る姿だけ見せ、別の王国に保護を求めるべきだろうか。



「して、クレンスの灯台にいた盗人頭は捕まえたか?」



 王の問い掛けに、内心安堵をしつつジークフリードは頭を振った。



「いえ、血の痕は残されていましたが、姿は既にありませんでした」


「逃げたというのか!?」



 報告の内容に肩を落とし、王は額に手を当てる。



「そばには銀の長い毛髪が落ちておりましたので、第三者が連れ去ったのやも知れません」



 淡々と話すジークフリード。


 対して王は深い溜め息をつきながら、何度も首を左右に振る。



「貴重なサンプルデータが取れると予定していたのだが、つくづく運がない……」



 嘆く王の呟き、ジークフリードの眼が冷たく変わっていく。



「……では、追ってそちらも調査致します」


「う、うむ。頼んだ。このような事案、騎士団長の君にしか頼めん」



 再び頭を下げたジークフリードに、ほんの少し余裕が出来たのか、王はベッドに潜り込む。


 掛け布団を正し、小さく息をついた王の姿に、ジークフリードは何をするわけではなく、ゆっくりと後ろへ下がった。


 揺らめく蝋燭の炎を吹き消し、静かに王の寝室から退場していく。



「……朝一で騎士会議を開く。各隊長に伝令を」


「承知致しました」



 待機していた伝令兵は、素早く頭を下げ長い廊下を早歩きしていった。



「……私も準備せねばな」



 ジークフリードは胸に手を当て、王子の安否を願う。叶うならば、この醜い争いから少しでも早く抜けられるようにと……。




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