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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter1 魔臓器奪還編
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第二十五話 【野郎共!船の準備だ!】



「何者だ! 止まれ!」



 螺旋階段を下りてくる三人の影に、王国兵は槍を突き出し制止させた。


 だが、その行動はすぐに正される。



「ミリア隊長!? まさか、その者は……」


「はい。王子誘拐の犯人です。王子の身柄も無事保護致しました」



 戸惑う王国兵に、ミリアはディルモットの両手を掴み階段を下りさせる。


 さらに後ろには無傷のアールスタインが怖々と付いて来ており、王国兵は感心した様子で頷いた。



「早速サルヴァン様にご報告を!」



 興奮気味に仲間と共に駆け下りていく王国兵に続き、ミリアはディルモットを軽く押して進ませていく。


 下りきったところで、出迎えたサルヴァンは眉間にしわを寄せて歯軋りをした。



「……何のつもりだミリア。まさかテメェが一人で捕らえたなんて言わねぇよなあ」



 開口一番に言ったサルヴァンに対して、ミリアの表情が強張る。


 そんな彼女を庇うように、前で捕らえられていたディルモットは鼻を鳴らして口を開いた。



「可愛い女性には弱いもんでねぇ。あっさりお縄さ」


「戯れ言を」



 怒りを膨らませるサルヴァンは、睨みを利かせ首の骨を鳴らす。



「テメェの趣味はどうでもいいが、こんな出来の悪い女が、易々と捕まえられるような奴じゃあないことは確かだ」


「随分知ったような口を利くじゃないか」



 大剣を下ろし前に出るサルヴァンは、ディルモットの言葉に反応することはなかった。


 代わりに、凄まじい殺気と怒りが爆発寸前まで膨れ上がり、サルヴァンは真っ直ぐミリアを見据える。



「一つだけ質問する。この女が王子誘拐犯だと、誰から聞いた。この町にいる警備隊にはまだ伝達されていないはずだ」


「そ、それは……」



 サルヴァンの質問は的確だった。


 まずい、と思った時には既にサルヴァンの表情は柔らかい笑みに変わっていた。



「裏切ったな? 王国を……この俺を!!」


「逃げろ!!」



 蛇の如く睨みから大剣を軽々と切り上げたサルヴァンに、ディルモットが強く叫び前へ飛び出た。


 大きく前に踏み込みサルヴァンを蹴り飛ばしたディルモットは、吹っ飛ぶのと同時に灯台の外へ出る。


 アールスタインも素早く王国兵をすり抜け、続いて灯台から脱出していく。



「ミリア!」



 残されたミリアは、大盾と大型ランスを構えて王国兵数十人と対峙していた。


 すぐさま助けに戻ろうとしたアールスタインだが、横からサルヴァンの大剣が一閃し、咄嗟に腕で頭を庇う。


 ガンッ、という金属同士のぶつかり合う音が耳元で響いたと思えば、アールスタインは横腹を蹴られ大きく外へ転がっていく。



「王子を蹴るとはな。暴行罪も追加だァ」


「緊急だったもんでねぇ。それに、暴行罪ならアンタも……だろうっ!」



 ダガーと拳銃で大剣の横薙ぎを防いだディルモットは、力任せに押し返し銃口をサルヴァンへ向けた。


 灯台の中では、王国兵と戦っているミリアの姿が横目に見える。だが、助けに行くなど到底出来ない。



「隊長なら、下っ端なんて軽く捻られるだろうさ」



 独り言のように自分に納得させ、ディルモットはダガーを逆手に持ち替えた。


 

「さあ、前のように助けてくれるヒーローさんはいねえ。たっぷり殺り合えるな」


「趣味が悪いねぇ。しつこい男は嫌われるよ?」


「しつこさと強さが取り柄でなあ。女は好きだろう?」


「押しの強さと守る強さとは、正反対だけどねぇ」



 ニヤリと笑みを浮かべたサルヴァンが地を蹴り、風を切る音を鳴らして大剣を振り下ろした。


 大振りな攻撃は余裕で躱すことが出来る。問題はここからだ。


 右へ躱したディルモットに続けて横薙ぎを繰り出し、さらに突きへ派生させる力任せの連撃は、避けたつもりでも頬に赤い一線が浮かび上がる。



「ぐっ!」



 とにかく力と振りの早さを集中させ作り上げたサルヴァンの攻撃を、受け止めたところで凄まじい痺れが腕にまで広がっていく。


 

「相変わらず……馬鹿力だねぇ!」



 町人が悲鳴をあげる中、ディルモットは大剣を弾き返し距離を取った。


 流石の隊長クラスといえるが、これだけ派手に振り回しているにも関わらず、サルヴァンにはスタミナ切れという概念が無いらしい。



「楽しませろ! 女ァ!!」



 横一閃からの掬い上げ、さらに肘打ちから大剣の突き攻撃。


 サルヴァンの狂気的な圧力と相まって、ディルモットは全く反撃出来ずただ逃げるのみ。



「ど、どうしよう……」



 擦りむいた膝の痛みを堪え、アールスタインはゆっくりと立ち上がり辺りを見回していた。


 あのままでは、ディルモットがやられてしまう。その前にここから脱さなければ!



「僕が、何とかしないと……でも……っ!」



 サルヴァンや王国兵は、目の前の敵に集中しているためか、こちらには目もくれず戦い続けている。


 今しかチャンスはない。


 アールスタインは、集まり始めていた町人や漁師たちの方向へ走り始めた。


 走ってくる姿を見て一部の町人は逃げ出すが、顔見知りの漁師たちは真っ直ぐアールスタインを見つめている。



「あ、あの!! 船を貸してくれませんか!」



 荒い呼吸で必死に船を指差し訴えたアールスタインに、捻り鉢巻の漁師は腕を組んで黙って眼を閉じる。



「お願い! どこでもいいから、僕たちを連れ出してくれないか!?」



 拳を作り前へ踏み出したアールスタイン。

 しかし、周りの漁師たちは戸惑うばかりで誰も動こうとはしなかった。


 相手が王国の者なのだ。

 さらに、こちらは王子誘拐犯とその王子ご本人ときている。どちらに着けば良いのか、漁師たちも悩んでいるのだろう。



「……俺らは王国の許可があって漁が出来る。規制されちまえば終わりだぁ」


「それは、分かってる……けどこのままじゃあ」


「皆まで言うな王子様よぉ。俺らは漁師である前に男だ。男は、恩を仇で返すような真似はしねぇ!」



 焦りを見せていたアールスタインは、捻り鉢巻の漁師の言葉に目を丸くさせ、息を飲んだ。



「野郎共! 準備に掛かるぞー!」


「お、おおーーーー!!!」



 海賊の如く腕を高々と挙げた漁師たちに、アールスタインは唖然として捻り鉢巻の漁師を見上げた。



「時間が掛かるんでさ、稼いでもらえれば船を出しましょう! 王子様も男なら、頑張って下せぇ!」


「わ、分かった!!」



 捻り鉢巻の漁師が駆け出し、アールスタインは力強く頷いて魔法剣を胸の前で構えた。


 どれくらい掛かるかは分からない。

 それでも、出来ることは他にもあるはずだ。



「僕だって……!」






 

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