第十四話 【VS食人植物戦】
「シュアッ!」
数匹の食人植物が、ディルモットに向けて真っ直ぐ一斉にツルを伸ばした。
鋭く、棘が幾重にも付いたツルは、凄まじい早さでディルモットのロングコートに穴を開ける。
「隠れろ!」
濡れたロングコートを広げ、内側にアールスタインを引き込んだディルモットは、食人植物のツルをダガーで切り払っていく。
四方八方からツルの攻撃を受け、辛うじて致命傷は免れているが、ディルモットの頬や腕は血の一線が引かれていた。
「うわっ!?」
アレクを抱き締めたまま、アールスタインは突如として差し込まれるツルに悲鳴を上げ、一層コートを強く握り締める。
「こいつら……っ!」
真っ赤な花弁を広げドロリとした液体を垂れ流す食人植物に、ディルモットはホルダーから拳銃を抜いた。
食人植物はど真ん中を撃ち抜かれると、緑色の液体を撒き散らしぐったりとその場に倒れ込む。
だが、その奥から新たな増援が現れ、敵の数は一向に減ることがない。
「くそ、キリがない……!」
何発か撃ち込んだ後、ディルモットは弾倉を口で引き抜き、腰の弾倉を装着する。
数が減れば増やせばいい。
そんな安直な魔物の考えは、冒険者に対してには無意味だろう。
しかし、こちらは只の運び屋。
「……逃げよう!」
アールスタインの言葉に、ディルモットはハッと我に返り息を飲んだ。
瞬間、白馬の胴体にツルが刺し込む
「ヒヒィンッ!?」
「馬鹿! 待て!!」
同時に、手綱から離れた白馬が勢いよく食人植物の真ん中を蹴散らし、凄まじい早さで突き抜けていった。
手を伸ばそうとしたディルモットは、襲ってきたツルに手のひらを裂かれ、雨の宙に血が舞う。
心配をよそに、白馬は見事敵のど真ん中を抜くことに成功すると、森の奥深くへと走り去ってしまった。
「……自分の馬ながら、賢い奴だねぇ」
ツルをダガーで切り落とし、弾を惜しまず食人植物を撃ち抜いていく。
それでも状況は変わらず──。
「お前だけでも走り抜けろ。真ん中を開ける。逃げろ」
「ぼ、僕だけ!?」
「いいから! 後先考えずにガキは言うことを聞け!」
ディルモットの強い言葉に、アールスタインは身体を震わせた。
その瞬間だった。
「ぐっ……!」
呻き声を上げるディルモット。
二匹の食人植物のツルが、目を離したディルモットの左肩へ貫いたのだ。
歓喜する食人植物はそのツルを一気に引き抜くと、ディルモットの肩から大量の血が噴き出す。
「ぐあぁぁぁっ!!」
痺れるような痛みと共に、赤黒い血がボタボタと水溜まりに落ちていく。
青ざめた表情でディルモットはダガーを振り回すが、拳銃を落とさないだけで精一杯だ。
「ディルモット……!」
悲鳴をあげるディルモットに対し、顔を青くするアールスタイン。
食人植物が「キシャシャ」と、不気味に笑うなか、舌を打ちディルモットは鋭く睨み付ける。
そして、拳銃を持つ手を無理矢理上げようとしたディルモットの横を、何かが通り過ぎた。
食人植物のツルではない。
丸く、赤い物体。
「アレク!!」
しっかり抱き締めていたはずのアレクは、アールスタインから離れ飛んでいた。
丸い身体を小さな翼で持ち上げ、ディルモットを守るように両手を伸ばし、食人植物へ立ち阻かったのだ。
「クフッ! グアァッ!」
「キシャ? フシャシャッ!」
アレクの勇敢で無謀な姿を嘲笑うかのように、食人植物はツルを緩やかに揺らし煽っていく。
「どいつもこいつも……!」
痛みのせいか苛立ちを露にするディルモットは、アレクを掴もうと手を伸ばし、空を掴んだ。
アレクがさらに前へと出たのだ。
「シュアッ!!」
食人植物のツルが一斉にアレクへと襲い掛かっていく。
「アレクっ!!」
それを助けようと前に出るアールスタインを、ディルモットは寸でのところで襟首を掴み引き戻す。
同時に、ツルはアレクの身体を貫こうと凄まじい勢いで向かっていった瞬間。
「グルラァァアア゛ア゛ッ!!」
今までの可愛さからは考えられないほどの咆哮と共に、業火の炎がアレクから吐き出されたのだ。
ブレスと化した炎は襲い掛かるツルを燃やし尽くし、驚きで逃げるという選択を失った食人植物が、一気に灰と化していく。
「ガルァッ! グラァッ!!」
凶悪な顔つきで牙を剥き出しにし、ブレスを吐き終えたアレクは、未だ周りを囲もうとする食人植物に威嚇をする。
数は多けれど、流石に焦りを見せた食人植物は面白いほどに逃げ始め、ディルモットたちを置いて消え去ったのだった。
「か、勝ったのか……?」
呆然と立ち尽くすアールスタインの言葉に、ディルモットは気の抜けた笑いを漏らす。
炎のブレスは雨のおかげか、森全体を燃やすには至らず、アレクはゆっくりと表情を柔らかくしながら振り返った。
「流石、伝説の……ドラゴン様だこと、で」
「ディルモット!!」
気が抜けたせいだろうか。
膝を折り、水溜まりに身体を倒したディルモットに、顔を歪めたアールスタインが直ぐ様しゃがみ込んだ。
心配そうにディルモットへ寄っていくアレク。だが、途中で体制を崩したアレクは、ディルモットの背中へと落ちていく。
「アレク! ディルモット!」
残されたアールスタインは悲鳴にも似た叫びで彼女たちを呼び、今にも泣いてしまいそうな表情でディルモットの手を握り締めた。
雨が強くなっていく。
強くなればなるほど、ディルモットの出血は止まらない。
手当ての仕方などわからない。
誰かに助けを呼ぶことも出来ない。
「……くそ、くそっ!」
運ぼうと腕を持ち上げるが、子供のアールスタインには全く歯が立たない。
アレクの呼吸も浅く、容態は徐々に悪化していか一方だった。
絶望的な状況。
戦うことも、助けることも、何も出来ない自分を恨む。
「おやおや、やはり貴女様でしたか」
突如、頭上から降り注がれた男の声に、アールスタインは泣き顔を上へと晒した。
そこには、恰幅の良い“変態”が二重顎を撫でていたのだった。




