小話2 【悪党の隣】
砦を抜けてから早三時間ほど経過していた。
荷物はほとんど持ち出せてはいないが、あの騒動だ。当分は追って来れないだろう。
港町に着く前に、ティーチは掘っ立て小屋の中で休憩をしていた。
もうじき雨が降る。
雨が降れば、追って来るにも時間が掛かるだろう。小屋の中で漏れ出す夕日を眺めながら、ティーチは隣に座る一人の女性を一瞥した。
「こんなに上手くいくとはなぁ。やっぱりお前はスゲェよ」
ティーチが喜びを露にするなか、美しい銀髪の女性は一瞬だけ彼を見て、ふっと笑みを漏らした。
銀髪の女性は立ち上がり、ティーチの持つ魔臓器を見据えた後、どこか遠くの方へ視線を移す。
「……ふぅん、お前さんにはどうでもいいってか?」
「ええ、そうね」
鼻を鳴らすティーチに対し、銀髪の女性は遠い景色を眺めたまま肯定した。
奇妙な女だ、と思う反面、何故このような情報を持ってきたのか。
何故、自分のような悪人に話を持ち掛けてきたのか。
ティーチにはそれが理解出来なかった。
「……まぁいい。俺はこれでギンムガムを潰すための実力者を探すだけだ」
「あら、ギンムガムを潰すの?」
ティーチの夢物語に食い付いた銀髪の女性。
その食い付きに調子を乗ったティーチは、鼻を擦りニヤリと口角を上げた。
「そう! ギンムガムは魔物の王国。そこを潰したと知りゃあ、待遇は素晴らしいもんだろうさ」
無謀とも思える夢を語るティーチの話に、銀髪の女性は驚いた表情を見せ、溜め息混じりに肩を落とす。
「で? お前の目的はなんだぁ? 俺に魔臓器を奪わせて何をさせたい」
鋭い目付きで睨み付けるティーチ。
銀髪の女性は睨みを無視して妖艶に微笑むと、軽い身のこなしで立ち上がった。
「私は、あの人に──ディルモットに会いたいだけよ」
恍惚な笑みを浮かべる銀髪の女性は、掘っ立て小屋の軋む扉を開き、今にも降りだしそうな雨雲の空を見上げる。
ひんやりとした風が吹き抜け、ティーチは一度身震いすると、肩を竦めて魔臓器を見ることに専念し始める。
「会いたいなら勝手にすりゃあいいさ。俺の邪魔さえしなけりゃあそれでいい」
「ええ、勝手にするわ。勝手に、利用させてもらうだけ」
ティーチの言葉に負けじと答えた銀髪の女性は、風に靡く髪を押さえ微笑んだ。
あえて、彼女は言わない。
ディルモットがどういう女であるか。
目的のためならどれだけのリスクを負ってでも達成する、その執念深さを。
そんなディルモットを求める、自分自身のことまでも。
……あくまで利用するだけなのだから。
「さあ、どこまで楽しめるかしらね」




