たまには真面目に純文学を書くか。
夢でも忘れられないようなものがある。しかし、そのほとんどは薄れてゆくもので、なんだったのかさえわからなくなることが多い。たまにいつまでも覚えている夢の中にはしょうもないものが多かったりする。
(さて、本題に入ろうか。夢のことは忘れてほしい)
これは今朝の目覚めが良くなかった話から始まる。いつものように、朝食を軽く済ませて、二十代の前半をインターネットの小説投稿サイトで読み書きする人生を送っている僕の話だ。いつか苦労が報われると本気で信じている。長編小説なんか三本も書き上げた。これで映画化の話が舞い込んで来てもおかしくはあるまい。なんてわりとプロの小説家になりたいという思いは、この二年もの間、有意義に費やして来たと思いたい。
(これは僕の話であって、読者の話ではない)
母親からおつかいを頼まれた。あまり執筆以外のことに時間は使いたくないのだが仕方ない。外は初夏の兆しである。心地よい暑さと風が脳をリフレッシュさせる。
さて、渡されたメモを読もう。
「たまには外へ出なさい、母より」僕は少しポカンとした。それからいつぶりに外へ出たのかを思い出そうとした。あれ? 思い出せない。じわりじわり汗が全身を包む。
せっかくなので散歩をすることにした。それにしても町の風景が違うような……いや、同じか。何かないかな、小説のネタになるようなもの。しかし、歩けど歩けど人とすれ違わない。
しばらくして、僕は自宅に帰ってパソコンを立ち上げる。何もなかった。でも、今日の感覚を小説にするのもいいなと考えた。そして家の中にも誰も居なくなっていることに気が付いたのは夕方のこと。僕はついに小説のネタにありつけた。たまには真面目に純文学を書くか。題名は「僕の家族とかその他が居なくなりました」これはいけそうだ。これを長編で書き上げたら映画化、間違いなし!
(どうやら夢だったようだ。布団から暑さで跳ね起きた)
あれ?
僕の二年間は何もしていない?
全て夢だった?
夢オチと思いきや、二年間の努力はそもそも夢の話。
初めから主人公は夢を見ない青年だったのです。