いじめられた側は決して消えない傷を負う。たとえ転生したとしても...
2017年4月8日俺は17年という短い人生に自ら幕を閉じた。
グシャという鈍い音と同時に全身に痛みがはしる。
(あぁ、これが死ぬってことなのか。体中熱いし痛いなぁ。せめて一回くらいあいつらにやり返してやりたかったよ。ははっほんっとにろくな人生じゃなかったよな。せめて俺に力さえあれば...)
薄れていく意識の中で先程までの熱さは突然冷めていった。いや、正確には急に暖かくなったのだ。
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「暖か....い?」
目を開けるとそこは何も無い真っ白で病室のような不思議と暖かい奇妙な場所だった。
ここがあの世というものなのかと考えさせる暇もなく突然後ろからとても小さな声が聞こえてきた。
声の聞こえる方を向くとそこには大きな翼の生えた、いかにも天使って感じの女の子が立っていた。
「あのー、本城勇希様...ですよね?わたくし天界案内人の天使ヤクミと申します。死後早々で大変申し訳ないのですが~これよりあなたには次の人生を決めていただきます。」
怪しすぎる。こんなこと突然言われて信じる奴なんてまずいない。だが実際今まで身体中にあった傷がなくなっているのに気づきここは死後の世界なのだと俺は思った。そうしてニコニコと笑っている天使に思い切って返事をした。
「あの、来世を決めるのはいいんですがどういう決め方をすればいいんですか?」
「あ~!具体的なこと何1つ言ってませんでしたね!申し訳ございません。これより勇希様には来世を決めるにあたって3つの選択肢が与えられます。
まず1つ目はリセット転生です。これはまた同じ人間に生まれ変わり人生を一からやり直すということになります。
2つ目はランダム転生。まぁ詳しいことは何1つわからないんですけどランダムで選ばれた生き物に転生するということだそうです。
そして3つ目、異世界転生です!まぁこれは簡単に説明させていただくと異世界へ行って魔王討伐をしていただきまーす!さぁ!お選びください!」
さっきまでえらくかしこまった感じだった天使が急に馴れ馴れしくなったことなど気にならないくらい3つ目のおかしな来世の選択肢に思わず声が出た。
「異世界で魔王討伐ってなんか、それだけ理由がありそうですしもう少し詳しく教えていただけませんか?」
「異世界転生をお考えですか!?いいでしょう教えて差し上げましょう!まず異世界転生の場合ゼウス様より『3つの魔法が授けられます』。2つ目は『記憶、身体がリセットされないこと』。そして3つ目が『魔王討伐に成功した者にはその2つを失うことなく再び人間界へ戻ることが許される権利』が与えられます。ご理解頂けましたか?」
そういうとまたニコニコと天使はこちらを見つめて早く決めろと言わんばかりに体を左右に振っていた。正直リセット転生以外であればどれでもよかったのだが3つ目の異世界転生のクリア後の権利とやらに1つの希望を抱きまた、口を開いた。
「もし、もしも魔王を倒せたら俺は!現世で...元いた世界であいつらに復讐することができますか?恨みを晴らすことはできるん...でしょうか」
そういうと先程までニコニコしていた天使の顔が急に真顔になる。その表情に俺は思わずぞくりとした。俺はこの表情を知っている。これは俺が悪いことをした時にいつもあいつらがする顔だ。だが天使は何も言わずゆっくりと頷いた。
「俺は...異世界へ転生します。そして絶対に魔王を殺して必ず現世へ戻ります。こんなことのために転生するのはいけないってわかってるんです。でも、こうでもしないと俺は!」
そこまでいうと天使はすこし悲しそうな顔をしていたがすぐに笑顔になった。
「わかりました!魔法は転生と同時に脳に直接送り込まれる仕組みになっています。
それと、...今まで見ているだけで何もできず、ちからになれなくてほんとうにごめんなさい。信じてもらえるとは思ってませんが、私はいつもあなたの味方でした。私にはあなたの復讐を止めるら権利はありません。天使っぽくないかもしれませんがそれでもあなたには幸せになっていただきたいです。救えなかったその命。せめて...せめてどうか今度こそ幸せになってください。」
そういうと彼女は涙を流しながらも俺に精一杯の笑顔を向けた。
どうやら彼女は俺の今までの人生を知っていたようだ。今までの馴れ馴れしい態度はどうやらこの気持ちを紛らわすためだったらしい。久しぶりにこんな人に出会ったなぁ。そういえば現世でも妹だけはヤクミさんみたいに俺のためにいつも泣いてくれていたっけ。あいつにはお礼も言ってあげられなかったなぁ。せめてこの人にだけは心を込めて...
「ヤクミさん、色々とありがとうございました。俺は絶対に戻ってきます。それと身体中の傷治してくれてありがとうございます。では、またいつか...」
ヤクミはは照れくさそうに頷くと何も言わず俺を異世界の扉へと案内した。
扉を開け涙を流しながらも優しく微笑んでいるヤクミさんにお辞儀を最後に異世界へと足を踏み入れた。
こうして俺の復讐のための異世界生活は始まった。