そして伝説は始まる── だってよ
今流行りという異世界転生ものを始めました!
更に今話題というVRゲーム・・・は止めて、ARゲームを題材にしました!
初作品です!よろしくおねがいします!!
そう、今の状況が何なのか知らないが、所詮はゲーム。
──その、筈だ。
仮想現実ゲームのようにログアウト一発で現実へ、という訳には行かないが、それならばゲームの【外】に出てしまえばいいのだ。
拡張現実ゲームであるUGは、ゲームフィールドが立体映像が投影されている所までしか存在しない。
歩いて外まで出てしまえば、そこには普段と変わらない街並が広がっているだろう。
ただ──
(これがゲームだとしても、慎重に行動すべきだと思うんだよな)
このイベントがいつまで続くのかはわからないが、少なくとも攻略スレッドには情報のカケラも載っていなかった。
突発的なゲリライベントか、参加者が口止めされているか。
はたまた──
「本気で異世界へ来ちまった、とかな」
「・・・お兄さん?」
ぱちくり、と大きな眼がこちらを見つめている。
頭の上にハテナマークを浮かべた直里に何でもない、と笑いかけた。
無いわー、自分で言ってなんだが流石にそれは無いわー。
「UGのイベント何か知らんが、こんなのはオレも聞いたことが無い。何があるかわからんし、しばらく様子見で頼む」
「う、うん・・・そうだよね。めぐちゃんも、それでいい?」
「──クソ兄の言いなりはムカつくけど、了解」
誰がクソだ誰が。
相変わらず我が妹は口を開けばバカだのクソだの酷いものだ。
ただまあ、一時期に比べ大分マシになってはいる。
オレが中学へ上がる前はそれはもう、視界に入れば噛みつかれるわ蹴られるわの毎日だったのだ。
それもこれも直里が間に入ってくれているからだろう。
全く、我が従妹様には頭が上がらない。
尤も、先程のシーンで直里と会話するオレを我が妹はがるると唸りながら睨んでいたのだが。
歳も住処も近い我が妹と従妹はすこぶる仲が良く、あくまでオレは邪魔者に過ぎないのであった。
頑張れ直里。
オレが言うのも何だが、この妹との和解はちょっとハードル高い気がするぞ。
「オホン!・・・それでは勇者様方、よろしいかな?」
咳払い一つ、慌てて視線を上げたそこには、王冠を被ったイケ中年こと王様(推定)が佇んでいた。
彼の存在をスッパリ忘却していた事実に気づき、若干ばつの悪い気分で愛想笑いを浮かべるオレ達。
三者三様の視線が集まった先で、娘を連れ去られた悲劇の王は情感たっぷりにこう続けた。
「皆様にお越し頂いた理由はもはや説明するまでも無いでしょう。今や我が【ファルシティ王国】は未曽有の危機に直面しております。我が娘──愛くるしいルナティアを浚い、哄笑と共に飛び去ったあの怪人が、その総ての元凶なのです!」
「奴の名は【魔王ダーク・ロード】!何処からか現れ、大胆不敵にも我等に挑戦状を叩きつけおったのです!!」
「・・・あれを、ご覧ください」
錫杖を持っていない方の手をかざした先に目を向ける。
無残に砕け散ったステンドグラスの向こう、青々と広がる空の彼方に、天を突くようにそびえ立つ黒々としたシルエットがあった。
塔だ。それもかなりでかい。先程のシーンで気づかなかったのがおかしい位のサイズだ。
「あれなるは【混沌の塔】──ファルシティ建国より遥か昔より、この地に存在する謎めいた遺跡です。彼奴はある日、かの塔を占拠しこう言い放ったのです」
我こそは闇の公主、貴様等人類を滅ぼす者である。
従う者は黙して運命を受け入れよ、抗わんとする者は我が【塔】を登れ──
「それ以来、幾多の英雄・豪傑が塔に挑みました。しかし誰一人として帰る者は無く、全ての望みは潰えたかに思えた──ですが!!」
急にトーンを上げた王様に直里がビクッと硬直し、小動物めいた動きでオレの背後に隠れる。
その様子を見ていたのか、我が妹の唸りと視線が背中に突き刺さるのを、オレは苦笑しながら受け止めた。
何だか緊迫したシーンだが、オレ達3人はこんな時でも平常運転である。
「希望は残されていたのです!我が城秘伝の古文書に記されし【異世界転生の儀】・・・」
「その秘術を以って、勇者は降り立ったのです──今!ここに!!」
王様は「今」で猛ダッシュし、「ここに!!」でがっしと両手をホールドしてきた。
近い。
目の前にはハリウッドスター顔負けのイケ中年が、興奮に頬を紅潮させつつ、息を荒げ眼をカッと見開いてはらはらと涙を流している。
「勇者様!悪しき魔王を打ち倒し、どうか我が王国を救ってくだされ!!」
容赦なくかかる唾に顔をしかめていると、ピコーン、と間の抜けた音が聞こえた。
同時に、右手方向に半透明の窓が開く。
《グランドクエスト:伝説のはじまり を受諾しますか?
はい / いいえ》
【アンダーグラウンド】でも使われていた立体投影ダイアログだ。
やはりここはゲームの中?そんな疑問が首をもたげるが、とりあえず返答を返さなければならない。
──さあ、選択の時だ。
《グランドクエスト:伝説のはじまり を受諾しますか?
ピッ
はい / ニア いいえ》
どうでしたか?
そこは「はい」だろ!断るのかよ!!
次回も読んでください!!