いきなり魔王 だってよ
今流行りという異世界転生ものを始めました!
更に今話題というVRゲーム・・・は止めて、ARゲームを題材にしました!
初作品です!よろしくおねがいします!!
──困った。
何を困っているのかというと、こういう場合どう答えていいのか、さっぱりわからなかったからだ。
オレこと洞月桐緒は、自分で言うのもなんだが平凡な高校生だ。
まあ、ちょっと他人には言えない事情の一つや二つくらいあるが、それでも今の状況はキャパシティを遥かに超えている。
あたりは白亜の宮殿、目の前には明らかに高貴な方々。
これにどうリアクションするのかと質問されたら──逃げると答えるな、普段のオレなら。
て言うか、逃げていいよね?
そう、答えを期待するように背後をチラ見すると、こちらを見ていた大きな栗色の瞳と視線がぶつかった。
少しタレ目気味のくりくりとした眼、小さな鼻ときゅっと不安そうにつぐまれた口元。
瞳と同じく明るい栗色の髪は、背中あたりまで延ばされており、よく手入れしているのか艶やかな光沢を見せている。
年齢は・・・確か11歳。今でも可憐な一輪の花といった容貌だが、将来さぞかし美人に育つであろう。
彼女の名前は【高階直里】、何を隠そうオレの従妹である。
その隣には、オレの妹である【洞月愛実】が、なぜか肩をいからせて王様一行を睨みつけていた。
こいつは──まあ、妹だ。
おかっぱ頭の黒髪に、ユ○クロのTシャツ(Sサイズ・アニメプリント白)、ジーンズ(Sサイズ・紺)、某スポーツメーカーのスニーカー。しめて5,980円なり。
シスコンでも妹愛でも無いオレとしては、特に語るべき事のない相手である。
むしろ、家でオレを見つけると睨みつけるか、唸るか、視線を外したスキにケリを入れて脱兎のごとく逃げていく相手でしかない。
・・・うん、仲が悪いんだ、オレ達。
そんな相手だけに、オレに見られている事に気付くと、歯をむき出して威嚇を始めた。猿か。
オレは軽く肩をすくめると、振り返って王様一行へと視線を戻した。
相変わらずの歓待ムードだ。
両サイドの兵士の皆さんも、先程から微動だにしていないが、遠慮がちにこちらをチラ見する視線を感じる。
・・・どうしたものやら。
軽く頭痛を感じながら、とにかく何か言おうと口を開いたその時──
そいつは現れたのだった。
「フフフ・・・フハハハハ・・・ハァーッハッハッハッハ!!!」
突如、辺りに響く哄笑。かと思うと、壁の一面を覆っていた華美なステンドグラスが蜘蛛の巣のようにひび割れ、砕け散った。
その場に居た全員が何事かと目を向けると、割れたステンドグラスの奥からすさまじい豪風がごう、と音を立て、オレは目を守るよう咄嗟に腕でガードした。
「御機嫌よう、人間ども。とるに足らぬ矮小なる身で何やらつまらぬ小細工を弄している様子だが──喜べ、見に来てやったぞ」
若い男の声だ。
頭上から聞こえたのでそちらを見やると、5m程の高さを浮遊する怪人の姿がそこにあった。
「闇の公主・・・」「魔王だ・・・」
その姿に、周囲からどよめきが上がる。
イケメンであった。
背は170cm台後半くらいか、漆黒のマントに身を包み、金髪碧眼眉目秀麗の文句のつけようもない美男子が空を飛んでいる。
それだけでもズルいのに、脳を蕩かすような美声であった。
池袋あたりに現れたら、興奮のあまり鼻血を吹いて気絶する腐れ同人女で道が埋め尽くされるであろう。
(あいつは敵だ)
理屈ではなく、本能でそう理解した。
決して僻みとか、彼女いない歴=年齢だとか、そういうのでは決してない。決して。
穢れの無い純粋な怒りを視線に込め、推定・魔王を睨みつける。
するとイケ怪人は、面白い見世物を見つけたような表情でこちらを一瞥した。
「【異世界転生の儀】か。よもや我が挑戦を投げ出し、どこの馬の骨とも知れぬ輩を頼るとは──見下げ果てたものだな、王よ」
イケ怪人はやれやれ、といったふうに息を吐き、推定・王様を馬鹿にしたように見やる。
推定・王様はわなわなと拳を握りしめると、錫杖を掲げ空中の怪人をびしりと指した。
「おのれ・・・魔王ダーク・ロード!【混沌の塔】まで出向くまでもない、今すぐそのそっ首落としてくれよう!!」
真っ赤になってまくし立てる王様っぽい人。
イケ中年はこういう仕草をしても絵になるのでズルいと思う。
・・・なんて事をぼーっと考えていると、つかつかと歩み寄ってきた王様はがっしとオレの両肩を掴み、期待に眼を輝かせ至近距離見つめてきた。近い!近いよ!!
「──この、勇者様が!!!」
「・・・へあっ?」
思わず変な声が出てしまった。
気づけば部屋中の視線がオレに集中している。
ジェスチャーで「オレ?」と示したら、後ろで茫然としている従妹・妹ペアを除く全員から肯定が返ってきた。
嘘だろおい。
「ククク・・・面白い冗談だ。この闇の公主──」
「魔を総べる王を、その雑魚が?」
突如、男の気配が膨れ上がる。
それまでちょっとイタい人くらいに思っていた怪人は濃密な死の気配を纏わせ、宙よりこちらを睥睨している。
息ができなかった。
不用意に声を上げようなら次の瞬間には己が肉塊へ化しているかのような、凄まじいプレッシャー。
碧い瞳を冷たい炎のようにゆらめかせ、魔の王は続ける。
「──そして、改めて失望したぞ、王よ。国中の兵をかき集め、我が【塔】の踏破も能わず、次に縋ったモノが、コレか」
次の瞬間、怪人の姿がかき消える。
どこへ消えたのか慌てて視線をさ迷わせると、また次の瞬間には再び姿を現し──その腕には、王様の後ろに控えていた筈の小柄な肢体があった。
「故に、代償を払ってもらおうか。これは我を失望させた罰だ。自らの不明を悔いるがよい、王よ」
「──お父様っ!?」
金髪碧眼イケメン魔王によってガッチリとホールドされ、金髪碧眼超絶美少女姫が悲痛な声を上げる。
緊迫した状況とはいえ、あまりに絵になる情景に思わずごくりと喉が鳴った。
それにしてもこの二人、全く対照的な立場とはいえ、似ている。
「きさまっ!!娘を──ルナを返せ!!」
王様は手にした錫杖を振り回しながら、手の届かぬ我が娘を案じ、顔面を蒼白にさせながら頭から湯気を上げるという器用なリアクションを返す。
懇願するようわななく手を伸ばすが、その手は中空の怪人には届かない。
一方、美姫を手中に収めた魔王はつまらなそうに部屋を見渡し、こう続けた。
「これより姫は我のものだ。返して欲しくば──我が居城、【混沌の塔】にて待つ」
第一層 尖塔の遺跡
第二層 混沌の森
第三層 巨兵の庭
第四層 嘆きの回廊
第五層 永遠の牢獄
【混沌の塔】全五階層
「その総てを踏破し、我を打ち倒してみよ」
「──できるものならば、な」
言うべきことは言った、とばかりに、怪人はマントを翻えす。
再び豪風が巻き起こり、次の瞬間には高笑いを残し怪人は姿を消していた。
残されたオレ達は茫然と、無残に割れたステンドグラスから覗く、抜けるような青空を眺めているのだった──
どうでしたか?
姫様、浚われましたね。誠に残念ですが、彼女の出番は当分ありません!!
次回も読んでください!!