お前のようなデカい中坊がいてたまるか!! だってよ
今流行りという異世界転生ものを連載してます!
テコ入れとして新キャラ大量追加しました!これできっと人気間違いなし!!
よろしくおねがいします!!
オレの名前は洞月桐緒、地方都市の高校に通ういたって普通のHFMだ。
だが今からおよそ4か月前──とあるネットゲームに妹と従妹の3人で参加していたら、ひょんな事から中世ファンタジー風異世界に来てしまった。
あれ以来、オレ達は元の世界へ戻るためコツコツと頑張ってきたが、今の所収穫はゼロ。
毎日がゲームになったあの日から4か月。
異世界勇者としてダンジョンへ潜る傍ら、帰還へ向け共闘する仲間を募る・・・というのが今のオレ達の日常だ。
その日も、オレ達は【混沌の塔】で一稼ぎした後、冒険者の宿へ向かう小型ピックアップトラック──人呼んで【転生トラック】──に揺られ、まどろんでいる所だった。
『フフフ・・・フハハハハ・・・ハァーッハッハッハッハ!!!』
突如、王城から高らかに哄笑が湧きあがり、無残にブチ破られたステンドグラスから黒衣の怪人が飛び出してきたのだ。
こんな異常な光景を目の当たりにしたら、「何事!?」なんて驚いて見せるのが普通の反応だろう。
だがしかし──異世界勇者は動じない。
今の光景はこの世界へ来た初日に見せられたものだし、それ以降も数日に一遍のペースで王城のガラスはブチ破られているからだ。
その度「ああ、またか」的な反応を返すのがオレ達であり、この変な世界における日常風景なのであった。
──などと胡乱な事を考えつつ、ドレス姿の女性らしきモノを小脇に抱えた怪人──【魔王ダーク・ロード】──を眺める。
空飛ぶ魔王サマは王城の周囲をあざ笑うかのように2・3周すると、スピードを上げ遠目にそびえ立つ【混沌の塔】の黒々としたシルエットへと進路を取った。
ドップラー効果で低くなった高笑いをBGMに、オレは頬杖をついたままその光景を眺める。
あのイケメン魔王はこうして毎度、王城から出てくるけど・・・今の所、逆に【塔】から飛び出した所を見た事が無い。
一体どうやって移動してるのやら。
──尤も、それを言うなら勇者降臨のたびに生える(そしてさらわれる)王女の存在も謎だよな。
毎回登場する彼等がそれぞれ別個の存在なのだとしたら、その度に宇宙の質量は人間1個(2個?)分増大している事になる訳で。
いつの日か増大した質量によって宇宙は埋め尽くされ、世界が滅びを迎える日が来るのかもしれない。
人類最後の日、終末の世界を覆いつくすのは王女様。右を向いても左を向いてもびっしり。そして空には山盛りのイケメンが高笑い──なんちゃって。
「・・・んなワケ無いか。──待てよ?」
──などと阿呆な事を妄想していた所で、はた、とある事実に気付く。
あのイベントが起きたという事は、今王城にはこの世界へ来たばかりの新米勇者が居る、とう事。
現在とある事情から、オレ達パーティは新メンバーを鋭意募集中だ。
これはひょっとすると、チャンスかも知れない。
「・・・王城に、寄ってみるか」
駄目でもともと。
でも、もし有能で──できれば『秘密』を共有できる相手なら。
そんな事を、その時のオレは考えていた。
その行動が、オレ達の運命を大きく動かすことになるとも知らずに──
・ □ ◇ ・ ■ ◆ ・
午後4時半、王城前。
普段は通行人もまばらなこの場所が、にわかに賑わいを見せていた。
広場をたむろする人々の服装を見る限り、大半が異世界勇者達のようだ。王城の通用門をまばらに取り囲むように、十数人程の姿が見える。
【転生トラック】から途中下車したオレ達3人は、丁度その場へたどり着いた所だった。
それを見つけたのか、野次馬どもの中から見知った顔が片手を上げて挨拶を寄越してくる。
15.6歳程のよく日に焼けた、快活な印象のある少年だ。
「──町内会長!」
「見た顔だと思いや、洞月の坊主か。愛実ちゃんに直里ちゃんも、こんな所にどうしたね?」
「こんにちわ、鯖江のおじさん!」
「こんちわー!」
日焼けした少年──【鯖江貫太郎】──は口元に人好きのする笑みを浮かべると、けらけら笑いながらオレの肩をばしばし叩いてきた。痛い。
外見のわりにやけに老成した感じの少年だが・・・まあ、彼についての説明はまたの機会に。
今は町内会長のオッサンより、新米勇者だ。
「いてて・・・さっき、通りから魔王様見かけたんで。また新人でも来てるのかなー、っと」
「ハッハハ、坊主も魂胆は同じか。かく言う俺っちも野次馬共の尻馬に乗ったクチだがよ」
「そーなんすか。・・・えーとそれで、肝心のニューフェイスは?」
そんなふうに町内会長と言葉を交わしつつ、王城前にたむろする人々に視線を走らせる。
見たところ──前線攻略組の大手PTに属する連中が多数を占めるようだ。奴等もどうせ目的は同じだろう。
だとすれば、そいつらが話しかけている相手が目当ての新人かもしれない。
そう当たりを付け、更に首を巡らせると──居た。
「だがちっと来るのが遅かったかもな。丁度『ファランクス』の連中がコナ掛けてる所だぜ」
「うげ・・・あいつ等かぁ・・・」
町内会長の言葉通り、ツンツン頭の背の高い男が二人組の少女へしきりに声を掛けている所だった。
男の方は見覚えがある、確か大型前線攻略PT『ファランクス』所属のスカウトマンだ。
あちこちのPTへヘッドハンティングを仕掛けるせいで方々から煙たがられてる、嫌な野郎だ。
何故そんな事を知っているのかと言うと、実は連中に目を付けられそうになった事があるからだ。
その際ついでとばかりに直里がコナを掛けられ、愛実が噛みついて(物理的に)喧嘩別れになった経緯がある。
それ以来、連中には意図して近づかないよう心掛けていたのであった。
スカウト現場へと目を戻す。ツンツン頭が弛緩した顔で詰め寄るのに対し、少女二人のうち片方がもう一人をかばうようにして応じているようだ。
年齢はオレと同じくらいだろうか。セミロングの茶髪にセーター、キュロットスカートからは健康的なフトモモがのぞいている。
しつこく話しかけるツンツン頭に対し一歩も引かぬ姿勢といい、意志の強さを感じさせる眼差しといい、相当に勝気な印象の少女である。
(おぉ・・・結構好みかも)
見てみれば、なかなかの美少女である。
『ファランクス』のスカウトマンでなくとも、思わず一声掛けたくなるのも仕方ないかも知れない。
そう思いつつ彼らの様子を見ていると、僅かな違和感を感じる。ツンツン頭の視線が茶髪の少女を向いていないのだ。
では一体どこを──?
そう感じ視線を横へ滑らせると、茶髪の少女の背後──じっと顔を伏せているもう一人に突き当たった。
こちらもオレと同年代の少女のようだ。背は若干だが茶髪の少女より高く、ロングの黒髪を両側でおだんごにして留めている。あの髪、下ろしたら結構な量になりそうだ。
どうも、男の目当てはこちらのように見えるな。
では一体、彼女の何が男の眼に止まったのか──
そんな疑問を抱いた時、少女が伏せていた顔を上げ、茶髪の少女と一言、二言言葉を交わした。
その横顔に目が釘付けになる。遠目からでもはっきりとわかった。美人だ。それも掛け値なしの。
なめらかな鼻梁、ほんのり桜色に色づいた唇。タレ目気味の大きな瞳はわずかに伏せられ、物憂げな光を湛えている。
そしてでかい。
着衣の上からでもはっきりわかる程のボリューム。豊かな曲線を描く肢体は落ち着いた雰囲気の薄桃色のジャケットに包まれていた。
見たままの印象で語るなら、どこかの旧家のご令嬢とでも言った感じの──柔らかな雰囲気を纏った美少女であった。
改めて見回すと、周囲の野次馬共もだらしなく鼻の下を伸ばしている。丁度今のオレのような感じに。
新米勇者目当てで集まった所が、思わぬ高嶺の花を前に牽制し合ううちに、トンビに油揚げを浚われそうになっていた・・・というのが今の状況なのだろう。
「ふわ・・・」
「とってもキレイ・・・」
直里達もぽかんとした様子でため息を漏らしている。
あのスカウトマンの気持ちもまあ、わかる。まともな感性を持つ男なら、一度でいいからお近づきになりたいと思う、それほどの美少女だ。
だがそうは問屋が卸さない、とばかりに彼女の前には鉄壁のガードが立ちふさがっている。
状況はなんとなくわかった──が、あまり良くない感じだな。
このままだと『ファランクス』にゴリ押しされて二人とも連れて行かれそうだ。
ぐぬぬ、貴重なおっぱいが・・・
そんな事を考えていた時だった。
「よーーーーぅ、待たせたなお前等。で?外はどんな感じだ?・・・んん?」
王城の通用口から若い男の声が響く。まだ仲間が居たのか?
野次馬達の視線もそこに集まる──が、声の主が出てくると想定したより数段高い位置に、のっそりとそいつは姿を現した。
少年だ。
・・・確かに少年だ。ただしその前に、『並はずれてデカい』が付く。
2mはゆうに超えているだろうか、通用口のひさしスレスレを実に窮屈そうに通り抜け、ズンズンと擬音が聞こえそうな足取りで少年は広場へと向かう。
その様子に気付いたツンツン頭の口元がヒクついたのが見えた。いい気味だ。
デカい少年へと目を戻す。年齢は──オレと同年代?それとも少し上だろうか?
縮尺が違いすぎて判別がつかない。とにかくデカい。デカすぎる。
胸も脚も、パンと張った筋肉が詰まっていかにも力強そうだ。デニム生地のジャンバーに包まれた上半身には脱がせるまでもなく、6つに割れた腹筋が鎮座しているだろう。
先程はつい重厚感タップリの歩行SEを付けてしまったが、改めてその足の運びを見るとしなやかで、あたかもネコ科大型肉食獣のようだ。
欧米の血でも入っているのか、やたら彫りの深く濃い顔立ちで、硬質の赤毛を短く刈り上げ活発な印象に纏めている。
底知れない爆発力を秘めた、高性能炸薬のような──そんな印象の男だった。
「お宅ら何やってんの?ナンパ?」
「あ、徹──」
やはり少女達の知己だったのか、少年が片手を軽く上げ挨拶をする。それを見た少女達の表情が目に見えて安堵したものに変わった。
対照的にツンツン頭は苦虫を噛みつぶしたような表情に早変わりだ。ざまあ。
デカい少年──徹、と呼ばれた方──はそんな様子を思案するように、顎に手を当て小首を傾げ観察している。
そうして二人の少女と『ファランクス』の面々の間を視線をさ迷わせた後、納得がいった、とばかりにぽんとひとつ手を叩いた。
「じゃ、後は若い者に任せて──」
「違うでしょ!?お見合いの席じゃないんだから助けなさいよ!そこは!!」
くるりと背を向けどこかへ行こうとした少年に、茶髪の少女から喰い気味のツッコミが刺さる。
再び180度振り返った徹少年はにこやかにサムズアップすると、白い歯を輝かせた。
「──うん、今のは85点!ナイスツッコミ!いいねいいね、新天地でも相変わらずキレッキレだわー、めぐちゃんマジナイス」
「何の採点をしてるのよ!?あとめぐちゃん言うな!!」
「「「えぇ・・・(当惑)」」」
唐突に始まったツッコミ漫才に、オレを含め周囲の全員が顔を見合わせる。
スカウトマンの彼なんか泣きそうになってるじゃないか。ざまあ──じゃなくて、かわいそうに。
今回の新米勇者達は、ちょっと・・・いや、かなり変わった連中なのかも知れない。
「──楽しそうだな、私も混ぜてくれないか?」
その時だった。
鈴が鳴るような音が聞こえた。
いや、それは若い、女の声だった。そう思った次の瞬間、幻のように──
『それ』は姿を現していた。
少女だ。彼女もまた15~6歳頃といった所か。その身長は女性という事実を加味してもなお小さく、並はずれてデカい彼と並ぶとそれこそ子供のようだ。
『月が産み落としたような』──と、そう形容するしかないような姿。
腰まで届く艶やかな黒髪、抜けるように白い肌、うりざね型の慎ましやかな顔立ち。アーモンド形の静かな光をたたえた双眸。
濃紺のセーラー服に身を包んだ──それは、意識の間隙を縫うようにいつの間にか広場へ降り立ち、その場に居た全員の視線をたちどころに奪っていた。
今、この場に集った3人の少女。
最初の一人は勝気ながら見目麗しく、美少女だと評するに足る容姿であった。
二人目はたおやかな雰囲気とその美貌に、周囲からため息が漏れた。
最後の一人は──ため息すら漏れなかった。あまりに規格外すぎたのだ。
完成された美のような、いささか現実感のないその容貌に男は言葉を失い、女は嫉妬を忘れた。
時が静止したかのような広場で──それを意に介さず行動できたのはただ一人であった。
巨躯の少年はすっぱい物でも口にしたような表情で彼女を一瞥すると、やれやれと肩をすくめてみせる。
「──お前ね、一体どこをほっつき歩いてやがったよ?いつの間にやら姿消してやがって。探す方の身にもなれってんだ」
「そうか、それは済まなかった。では今度から見つけやすいよう鈴でも付けておこうか?」
「お断りだ。古今東西、鈴を付けて許されるのはニャンコ先生と相場が決まってンだよ。てめえは却下だ、却下」
「おや、それは残念」
ころころと笑ってみせる少女に向け盛大に顔をしかめて見せると、一転、徹少年は真剣な表情へと戻す。
「で、なんか変な所に来ちまったんだが。──ここなのか?」
「何が?」
「すっとぼけんじゃねえよ。てめえが事ある毎に語ってたアレだ。忘れた訳じゃねえだろうな」
「ああ──」
少年の言葉に、少女は嫣然と微笑んでみせる。
その様子をオレ達は固唾を飲んで、夢見るように眺めていた。
両手を広げ、くるりと反転し唄うように少女は続ける。
「──それは、是であり否でもある。ああ、そうだ、赤松徹。稀なる星の下に生まれついた少年よ。私は今一度おまえに告げよう」
「私はずっと──刻を待っていた。一日千秋の想いで、那由多の頃より、世界の隔たりを越え──今ここへと至った」
「故に」
「刻は来た。これよりわたしと、おまえは──この世界を救済し、数多の民をくびきより解き放つのだ」
訂正。もの凄くアレな連中だった。
色々と衝撃的な状況にオレの頭が真っ白になりかける一方。
並はずれた長身を屈めるようにして腕を組み、うんうんと唸りながら話に聞き入っていた彼はと言うと。
ひとしきりうなづいた後、朗らかに笑いこう告げたのだ。
「やだね!誰がやるかよそんなモン!!」
・ □ ◇ ・ ■ ◆ ・
「──で、ナンパ?それとも勧誘?どうなん?」
「え・・・はっ?えっ!?」
「えぇ・・・?あの流れでそれ続けちゃうんだ・・・」
相も変わらず王城前、通用口前広場。
茫然自失のまま、雁首並べ様子を見守る野次馬ども(オレ含む)の前で、ちょっと前にされた質問を再びくり返され茶髪の少女が盛大にキョドっていた。
その横では両目を『==』の形にしたもう一人の少女が呆れた様子でため息を付いている。
更にその数m向こうには、宝○歌劇団もかくや、という情感たっぷりの告白を断られた少女が、そのままの姿勢でフリーズしていた。
大丈夫なのかな、あれ。
そんな野次馬共の心配なぞ関係ないといったふうに、徹少年はつかつかと歩み寄るとスカウトマンをのぞき込むような姿勢で質問を始めた。
それなりに長身のスカウトマンだが、自分をはるかに越える相手に文字通り見下ろされ口の端をひくつかせる。
「で?どうなん?もしかして二人はラブラブ?既にゴールイン済みってなら大人しく身を引くのもやぶさかでは無いんだが。そこんとこkwsk、くーわーしーく」
「──はぁっ!?そんな訳ないでしょ!さっきからしつこく付きまとわれてメーワクしてただけよ!・・・なんか目つきもやらしいし!!」
「ま・・・待て!話しをしよう!俺の話を聞いてからでも遅くないぞ!──あんたらがこのまま、ここで暮らすつもりならいい話があるんだ!」
「はい、聞きましょう」
旗印の悪さゆえか、焦りを滲ませた様子のスカウトマン。
明らかに苦し紛れに放った一言に対し、こくんととうなづいた徹少年は待ちの姿勢に入った(何故か正座で)。
断られると思っていたスカウトマンは目を白黒させたまま、「え、いいの!?」と二度聞きした後、気を取り直したように説明を始める。
(説明中───)
「──つまりだ。ここは地球とは異なる世界で、あの国王の言うとおり俺達は『異世界転生』の結果、勇者となった、と」
「そ、そうだ」
「転生してないじゃん」
そこに突っ込んじゃうかー。
徹少年のある意味当然の一言に対し、オレ含め野次馬の面々からため息が漏れる。・・・みんな気付いていてあえて突っ込まないでいた事実だからな。
NPCに聞いても話をはぐらかされるし、HELPにも書いてないし。世の中答えの出ない疑問なんて掃いて捨てる程あるのだ。
人生、あきらめが肝心よ?
「・・・まあ、いい。それで──『ファランクス』だっけ?あんたらについて行けば生活は安泰、未来はバラ色、ドラフト1位並みの高待遇で迎えてくれると」
「そ、そうだ!我々に協力すればいいことあるぞ!沢山だ!」
「そっかー、うんうん」
屈託のない様子で朗らかに微笑む徹少年。
何となく怖そうな外見の彼だが、こうして見るとイイ奴そうな感じだな。
そうしてひとしきりうなづいた後、彼は何か思案するよう小首をかしげるとそのまま視線を巡らせ──何故かオレと目が合った。
──かと思えば視線は外されていた。今のは一体・・・?そんな疑問が脳裏をかすめるが、視界の端では徹少年とスカウトマンの交渉が続く。
「まあ、なんだ。お誘いは実に魅力的なんだが──実は先約があってだな」
「な、なに!?」
その一言に驚いた様子のスカウトマン。この流れだと交渉は失敗に終わりそうだな。ざまあ。
それにしても、先約かー。一体誰なんだろうな?
そんな事を考えていると、フッと陽の光が遮られた。
無意識に陽が出ていた方向へ向くと、やけ大柄な人物の胴体が目に入ってくる。
やたらと身長のデカい奴だ。視線の高さが胸の下らへんにしか届いてない。
──何だか嫌な予感がする。
そのまま体の中心に沿って視線を上げると、何故か至近距離からオレを見下ろす徹少年とばっちり目が合った。
改めて見ると彫りの深い顔立。ハーフだろうか?
イケメンでは──決して無い。
無いのだが、一度見たら忘れそうにない、実に印象的な顔立ちだった。
そんなふうに半ば現実逃避気味に観察していると、ファーストミットと見まごうばかりに肉厚な両手でがっしと両肩をつかまれる。満面の笑顔だった。
「──そういう訳で兄弟!これから宜しくな!!」
「え・・・はっ?えっ!?」
気のせいです、人違いです。
そう否定する間もなく、がっちりホールドされたオレは広場の外れへずるずる引きずられていった。
その後にはやれやれ、といったふうに苦笑いを浮かべた少女が二人。足音を消し影のようにもう一人。更に顔を見合わせ、慌てて後を追いかける年少組が二人続く。
彼らが去った後の広場には、状況について行けずぽかんとした『ファランクス』の面々と、野次馬達の姿が残されていた──
・ □ ◇ ・ ■ ◆ ・
「先程はまことにご迷惑をお掛けしました」
「土下座っ!!?」
見事なDOGEZAであった。
綺麗に掃除されているとは言え、板張りの床に平伏しているやたらとデカい少年。
意味不明な状況にオレはキョドりつつ、謝る必要は無いと告げると「あ、そう?」とあっさり立ち上がり、服に付いたホコリを払い落とし始める。
わけがわからないよ。て言うか生まれて初めて見たよ土下座。
改めて説明すると、現在地は王都の一角──オレ達3人に割り当てられた冒険者の宿の一室だ。
本来は5人部屋らしく、ゆったりとした室内には和風な調度品や家具が設置されており、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
来客の面々も気に入ってくれたのか、めいめいに掛け軸を眺めたり軽く雑談したりしているようだ。
ホスト側のオレ達としては好印象な様子にほっと一息といった所だが、ふと気づくと空間を占めるフローラルな香りが普段よりも増している。
──よくよく考えればこの部屋、男女比率偏ってるもんな。いいにほひ。
そんな感じに鼻の下を伸ばしていると、愛実からローキックされ直里から膨れッ面で睨まれてしまった。
すいません、悪気は無かったんです。
「──まあそんな訳で、あの場からうまい事理由を付けてずらかる口実にさせて貰った訳だ。悪かったな」
「いきなり説明台詞!?・・・ああいや、途中言ったが気にしなくてもいいぜ。オレも『ファランクス』の連中は好きくないしな」
「あの、トンガリ頭の人達だね・・・確かにやな感じだったかも」
オレの言葉に相槌を打ったのは二人の少女の片割れ──【尾上真白】──というらしい。一言で説明すると、大きい方だ。何がとは言わん。
彼女の言葉に「ねー」と顔を見合わせるのは【佐方恵】、活発そうな印象の茶髪の少女だ。この二人が揃うと実に華やかで、つい表情が緩んでしまう。
妹と同じ読みだが、うちのアレとは大違いだな。眼福眼福。
そんな感じにだらしなく二人を眺めていると背後から『じとっ』とした視線が突き刺さった気がして、慌てて姿勢を正す。
──危ない危ない。
今のオレは彼等の恩人的なポジを占めているようだが、あまり気を抜くと痴漢予備軍に降格されかねない。
見知らぬ世界で最初に知己となった頼れる隣人として、節度ある態度をとらねば。
決して従妹様の視線が痛いからではない。
そんな俺達のやりとりを眺めカラカラと笑っているのは徹少年──改め、【赤松徹】──何がとは言わないが、デカい方だ。全体的に。
彼は二人から若干離れた位置で、逆向きにした椅子の背もたれに頬杖をついているが──座っていてもやはりデカい。
この少年、広場では突飛な行動を見せたり、先程は唐突に土下座してみせたりと、中々に行動の読めない人物であるようだ。
そしてもう一人──
極力直視しないよう、そっと壁際へと視線をずらすと、ちょこんと正座したままの小柄な少女が視界に入った。
その眼がこちらを向いたような気がして、あわててぐりんと首を戻す。──危ない危ない。
彼女──【日野鎮籠】──もまた、彼等と共にこの部屋へ招かれていた。
ここへ来る途中も、付かず離れず影のように付いてきていたのは気付いていた。現在玄関には一揃え、彼女の靴が置かれている。
が、今の所言葉を交わすような事はしていない。
他意がある訳ではない。だが彼女の声は一種の催眠術のようで──聞いていると意識がぼうっとして来るのだ。
その美貌といい雰囲気といい、あまりに異質すぎるお蔭か──この場の誰も、彼女に近寄ろうとすらしていなかった。
否。
唯一徹少年だけが、彼女とまともに言葉を交わし、真正面から顔を向き合い接していた。
彼もまた、どこか異質な存在だからだろうか・・・?
「──さて」
ぱん、と両手が打ち合わされる音に、部屋中から視線が集まる。
先程まで朗らかな表情を見せていた徹少年は、口元を引き締め居並ぶ面々を見渡しており、それにつられたように部屋から歓談の声が止む。
それを見てひとつうなづくと、徹少年はそのまま真剣な様子で続けた。
「こうしてここへ来たのにも理由があってだな。──おい、ストーカー女。自信が無いから確認するが、全員なんだな?」
「そうだ」
「──?」
オレ含め、聴衆の面々にいぶかしげな表情が浮かぶ。
一方その言葉に首肯して見せたのは彼女──【日野鎮籠】だ。壁際で瞑目したまま彼女は続ける。
「3人共に、何らかの『異能』を宿している。・・・恐らく能動的に力を扱う事も可能であろう」
「「「──!?」」」
ぎくり、と背筋を冷たいものが走る。
『異能』。
普通は漫画かアニメの中でしか耳にしない言葉だが──オレ達には心当たりがあった。
つとめて動揺を表に出さないよう伺うと、徹少年がじっとこちらを観察している様子が目に入り、あわてて視線を明後日の方向へ向ける。
「え~~~っと、ゲームか何かの話かな?オレ、そーゆー話題にとんと疎くてだな・・・」
「今の反応で俺にもわかったぜ。──まあ、そう身構えなくていい、そっちのちびっ子どももな」
今のは直里達に対しての言葉か。
──彼女達もまた、緊張した様子で身を固くしている気配を感じる。
安心させるため後ろ手で軽く手を握ると、かかとの辺りを蹴り返された。
──しまった、こっちは愛実だったか。
そんな様子を見ていたのか、彼は少し困ったように後ろ頭をかいた後──ポケットから何かを取り出して見せた。
「まあ、端的に言うとだ──俺達もそうなんだわ」
豆電球だった。
右手親指と人差し指でつまんだ、何の変哲もない豆球にぽう、と明かりが灯る。
種も仕掛けも──配線も無かった。目の前の並はずれてデカい少年は、電源ひとつ使わず点灯に必要な電流を発生させて見せたのだ。
「改めて紹介するぜ。赤松徹、年齢14歳。得意分野は動くことと考える事。んで、俺が持ってる異能は──発電能力、だ。」
「な──!?」
あまりのことに、思考が停止していた。
突然の状況、異質な少女、巨躯の少年。わけもわからず放り込まれた異世界で、告白された事実。
それよりも、何よりも──
「お前、そのナリで中坊かよォォォ!!!??」
──お前のようなデカい中学生が居てたまるか!!!
どうでしたか?
大きい人が新登場です!何がとはいいません。大きいことはいいことですよ!!・・・一部絶壁な方も居たようですが。
次回も読んでください!!




