7話 先輩2人と後輩2人
異世界の聖女学園の廊下の中。
俺は、自分の人生への葛藤をなんとか済ませて、目の前の扉へと手をかけた。
そして、優しい世界で萌え4コマみたいに過ごす為に、まずは目の前の扉を開けたのだった。
扉の向こうに広がっていた景色。
そこは、普通の食堂の一室という感じの場所だった。
部屋の入口から少しだけ進んだ所に、四角くて細長くて大きなテーブルが一つだけ置かれてある。そしてそのテーブルを囲むように、椅子が幾つか置いてある。そしてその場所よりも奥の空間は、台所という感じの場所になっていて、作業台とかフライパンとか食器置き場とか、料理をする為に必要なものが一通り置いてあるのが確認出来た。
そして……。
そのテーブルの椅子には、2人の女の子が座っていた。
その2人の女の子は、俺達と同じヒラヒラとした制服を着ていて、並んでテーブルに座っていて、パンとスープを食べている所だった。
「おはようございます。テレザ先輩、エビラ先輩」
スズネさんが、その2人に対して挨拶をする。
「お、おはようございますっ……」
俺も続けて、とりあえずまずは挨拶をしておく。
「……え、誰?」
「……ど……どなたですの……?」
俺を見た2人の表情には、当然のように疑問が浮かび上がってくる。
「この人は、メルルさんと言います。凄く突然な話なのですけれど、昨日の深夜に、この学園に入学する事になったんです」
「……よ、よろしくお願いしますっ」
仲良くなりたい。
ただ、仲良くなりたい。
そんな一心だけで、俺はとりあえず、目をつむりながら深々と頭を下げる。
「……ど、どゆこと?」
頭の上からは、びっくりした様子のそんな声が聞こえてきていた。
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その後、とりあえず色々な事を説明した。
俺が魔法を使える事。記憶がなくて、自分がどこから来たのか全く分からない事。昨晩スズネさんと知り合った事。先生と話をして、今日からこの学園に転入する事になった事。そんな事を、俺は頑張って話し続けた。
「……という事なんです」
「昨日、そんな事あったんだ……」
「突然の話……ですわね……」
俺の説明に対して、2人はただ戸惑いを見せる。
……確かに、これは本当に当然の話だ。だからいきなりこんな事を言われても、驚きの方が優ってしまうのだろう。
自分が受けいられるかどうか。そんな事に早くも暗雲が立ち込め始めていて、俺は緊張で頭が一杯になってくる。
けれどそんな中。スズネさんが隣から、ニコニコとした笑顔のままで、俺へのフォローを挟んでくれる。
「確かに、突然の話でびっくりするかもしれません……。ですが、メルルさんは絶対に悪い方ではありません。ですので先輩方も、どうか仲良くしてあげて貰えると嬉しいです……」
そしてその言葉を聞いた事で、その2人も少しだけ態度を和らげてくれる。
「……そっかー。とりあえず、悪い人じゃないんだね」
「正直、戸惑いますけれど……。スズネさんがそう仰るのなら、まあ、そうなのでしょうね……」
……どうやらスズネさんは、この2人から大きな信頼を貰っているらしい。
エビラ先輩と呼ばれた人と、テレザ先輩と呼ばれた人。その2人は、スズネさんの言葉のおかげで、戸惑いながらも俺を受け入れるような空気になってきてくれた。
「あの……ありがとうございます……。みなさん……」
俺はそれが嬉しくて、もう一度ぺこぺこと頭を下げる。
「あはは、お礼なんていいよー」
「そうですよ、メルルさん」
「なんだか……親近感が沸く方ですわね……」
3人はそんな俺に対して、どこか微笑ましそうな表情を向けてくれる。
とりえず、ファーストコンタクトは成功した。そう思ってよさそうで、俺はまずは少しだけ、そんな事にほっと胸をなで下ろしていたのだった。
そうして、とりあえず俺の最低限の事情説明が終わった後。
「……という訳ですので。先輩方、まずはメルルさんに、自己紹介してあげて貰えませんか?」
スズネさんが、その2人へとそんな提案をする。
「自己紹介かー」
「まずは、そうですわよね……」
その2人は、スズネさんのそんな提案を好意的に受け止めてくれてから。
「んじゃテレザ、まずは私からしていい?」
「ええ、構いませんわよ」
「ん、分かった」
そんな話し合いをして、そして改めて俺へと向き直ってくれる。
「じゃあ、まずは私からねー」
そしてまずは、のんびりした感じの方の人が、俺へと自己紹介を始めてくれるのだった。
「えーっと。とりあえず、私の名前はエビラって言うよ。学年は5年生だから、メルルちゃんの1つ先輩になるねー。
好きな事はのんびりする事で、嫌いな事はとりあえず、それを邪魔するような事とかかなー。
……正直、突然の話過ぎてまだびっくりしてるけどさ。スズネちゃんが良い人だって言うなら、悪い人じゃないんだと思う。だからよろしくね、メルルちゃんー」
のんびりした感じの人……エビラ先輩は、まったりと俺へと向かって微笑む。
……この人が、スズネさんが昨日話してくれた中の一人の、5年生のエビラ先輩ならしい。
確かに、なんというか、楽しそうな感じの人だと思う……。
俺はエビラ先輩の自己紹介を聞いて、とりあえずまずは、そんな印象を抱いていたのだった。
「えっと……よろしくお願いします……」
改めてもう一度、俺は頭を下げておく。
「あはは、そんなに畏まらなくていいよー」
後輩で、ほぼ初対面。そんな俺に向かって、エビラ先輩はただまったりと微笑んでくれる。
……なんというか、一緒にいると癒されそうな人だな。
俺はエビラ先輩という人に対して、そんな印象も抱いていたのだった。
そうして、エビラ先輩の自己紹介が一段落した後。
「それでは。次はテレザ先輩、お願いしますね」
スズネさんが、エビラ先輩の隣にいる人に対して、そんな風に声をかける。
「分かりましたわ……」
テレザ先輩と呼ばれたその人は、まずは椅子から立ち上がる。
そして、少しだけ深呼吸をした後……。意を決したような様子を見せてから、俺へと向き直って、自己紹介を始めてくれるのだった。
「え、えっと……。お初にお目にかかりますわ。
私の名前は、テレザ=リベリオ。学年は6年生、この学園では最上級生に当たりますわ。
好きな事は、人に認められる事。嫌いな事は、……人に認められない事。
それと、その……。私は貴族ですけれど、まだ、あまり立派な人間ではないのです……。
ですから私は、日々立派な人間になれるようにと、せめて心がけるようにしているのですわ。
そして、ええっと、それから……。私も正直、唐突な話で、内心ではまだ戸惑いがありますの……。ですけれど、スズネさんが悪い方ではないと言うのなら、私もそれを信じさせて貰いたいですわ。
ですから、これからどうか、よろしくお願い致しますわね。メルルさん……」
口調や佇まいは、上流階級の人みたいに、優雅でお嬢様然としながら。
しかし会話の内容や仕草は、まるでどこか俺みたいに、おどおどとしながら。
そんな不思議な自己紹介を終えた後。テレザ先輩は俺へと、丁寧に深々とお辞儀をしていた。
「よ、よろしくお願いします……」
さっきのエビラ先輩とは、対照的な人。
そんな感じの印象が、俺がその人へと抱いた第一印象だった。
几帳面さとか気品とか、そんなものを感じさせる優雅な部分。臆病さや気弱さとか、そんなものを感じさせる弱々しい部分。そんなものを同時に感じさせる、なんとも独特な感じの人だと思った。
そうして、テレザ先輩の自己紹介も一段落した後。
そのやりとりを眺めていたエビラ先輩が、茶化すように俺達へと話す。
「実はねー、テレザはねー、ものすっっっごーく優しい人なんだー。おまけにしかも格好良いんだよー。……だからメルルちゃんも、安心して、テレザと仲良くしてあげていいからねー」
エビラ先輩のその言葉に対して、テレザ先輩は恥ずかしそうな表情を見せる。
そしてスズネさんは、とても微笑ましそうに、クスクスと小さな笑みを漏らす。
「エビラ……。褒めてくれるのは嬉しいですけれど……、私は正直、そこまでではないですわよ……」
「ええー、全部事実だよー」
「……はぁ。メルルさん。エビラはこういう子ですから、あまり全部の言葉を間に受けないであげて下さいね……」
認められるのが好きだと言っていた割りには、ここまで持ち上げられると気恥ずかしいらしい。
テレザ先輩は少しだけ嬉しそうにしつつも、やれやれという感じで、エビラ先輩の話す言葉をやんわりと否定していた。
「……仲いいんですね、先輩達」
2人の近しそうな距離感を見ながら、俺はただそんな事を思う。
「うん、私テレザ大好きー」
エビラ先輩はそう話した後。隣にいるテレザ先輩へと、ぎゅーっと幸せそうに抱きつく。
「はいはい……」
テレザ先輩は、やれやれという感じの様子を見せつつも、そんなエビラ先輩の事を引き剥がそうとはしない。
……そんな様子を見ていると、テレザ先輩もエビラ先輩の事が、まんざらではないくらいには好きそうに見えた。
「テレザ先輩もエビラ先輩も、とても良い方達です。ですからメルルさんも、きっと仲良くなれると思いますよ」
スズネさんが俺に対して、改めてそんな事を話してくれる。
「……そうなれたら、嬉しいです」
のんびりとしていて、だらーんとしている感じのエビラ先輩。
キリっとしていて、少しだけおどおどともしている感じのテレザ先輩。
そんな2人は対照的だけれど、2人ともとても仲が良さそうで、そして悪い人ではなさそうに見える。
……こんな人達と仲良くなれたら、きっと楽しいだろうな。
目の前の2人を眺めつつ。俺は改めて、とても深く、そんな事だけを感じていたのだった。
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そうして、2人の自己紹介が完全に終わった後。
「それじゃ、メルルちゃんも朝ごはん食べるー?」
エビラ先輩が、テレザ先輩へと抱きついたまま、そんな事を俺へと提案してくれる。
「あ、はい。頂きたいです……」
「ん、分かったー。それじゃ、こっちに……」
そして、エビラ先輩がテレザ先輩から離れて、食堂の奥へと進もうとしたその瞬間。
ギギ……っという音を立てて、食堂の扉が再び開いた。
俺は自然と、その扉の方へと視線を移す。するとそこには、俺達と同じ、ヒラヒラとした制服を着た、2人の女の子が立っていた。
「……誰?」
「……ど、どちら様ですか」
片方の子は、じとっとした目で。もう片方の子は、ぱっちりした目で。それぞれ、俺の方を見つめていた。
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その後の流れは、さっきの再現みたいな感じになった。
俺が魔法を使える事。記憶がなくて、自分がどこから来たのか全く分からない事。昨晩スズネさんと知り合った事。先生と話をして、今日からこの学園に転入する事になった事。そんな事を、俺はもう一度、2人へと頑張って話し続けた。
「そんな事があったんですね……」
「そっか……」
2人は当然、さっきの2人と同じように戸惑いを見せる。
そしてそんな2人に対して、さっきと同じように、スズネさんが隣からフォローを挟んでくれる。
「テレザ先輩とエビラ先輩にも言いましたが……。メルルさんは、絶対に悪い方ではありません。ですから、ミリアさんも、ユラさんも、どうか仲良くしてあげて貰えると嬉しいです」
そして、そんな言葉を聞いた後。これもさっきと同じように、その2人も少しだけ態度を和らげてくれる。
「記憶がなくなったりしたなんて、色々大変そうですもんね……」
「……まあ、この学園に来るならそうするしかないよね」
……スズネさんは、この2人からも大きな信頼を貰っているらしい。
ミリアさんと呼ばれた人と、ユラさんと呼ばれた人。その2人は、とりあえずまたスズネさんのおかげで、戸惑いながらも俺を受け入れるような空気になってきてくれた。
「えっと、俺も敬語で喋った方がいいんですか……?」
この2人は、俺より年下という事になる。けれどスズネさんは、当然のように2人へと敬語で喋っている。
だったら、俺もスズネさんみたいに敬語で喋った方がいいのだろうか……?
俺がそんな事を思っている中。ユラちゃんと呼ばれた子が、俺の質問に答えてくれる。
「スズネ先輩がそうしてるから、自分もそうした方がいいかと思ってるんだよね? ……スズネ先輩はそうしてるけど、別に必ずそうしないといけないと決まっている訳じゃないよ。だから、自然な話し方でいい」
「そ、そっか……」
どうやらとりあえず、敬語は使わなくていいらしい。
そんな事を確認した後。俺はその2人へと、改めて頭を下げる。
「えっと……。よろしくね……、2人とも……」
……この学園にいる人達全員と、俺は仲良くしてみたいと思う。
「おお、頭下げられちゃいました……」
「……よろしく」
「……あ、私もよろしくお願いします」
2人はそんな俺に対して、軽く頭を下げ返してくれる。
とりあえず、この2人とのファーストコンタクトも悪くない感じで出来たと思う。俺はそんな事に、また一つ、ほっと胸をなで下ろしていたのだった。
そうして、その2人とも最低限の面識を済ませた後。
「……という訳ですので。お2人も、メルルさんへと自己紹介してあげて貰えませんか?」
緩和した空気の中。スズネさんが2人へと、そんな事を提案してくれる。
「あー、自己紹介ですか」
「そうだね……」
そしてその2人も、スズネさんの言葉を好意的に受け止めてくれる。
「えっと……。それじゃあまずは、私からさせて貰いますね。自己紹介」
そして、まずは明るそうな方の子が、俺の前へと一歩だけ歩み出てくる。
そしてそのまま、改めて俺へと向き直ってから、自分の自己紹介を始めてくれるのだった。
「私の名前は、ミリアって言います。学年は2年で、メルル先輩の2つ下みたいです。
えっと……。私はよく、聖女にしては明るいって言われたりしています。そして、それはたぶん、私の家族が私の事を愛してくれているからなんです。
私の実家は、一家でトウモロコシなどを育てたりしているんですけれど、その家にいるみんながですね。……私の、お父さんと、お母さんと、お兄ちゃんと、お姉ちゃんがですね。4人がみんな、私の事を大切に育ててくれたんです。
……だから私は、家族のみんなの事が大好きだったりするんです。
えっと……。とりあえず、こんな感じでいいでしょうか?」
明るそうな子……ミリアちゃんは、俺へとそんな事を話し終えていた。
「うん……。えっと、ありがと……」
俺は返事をしつつ、頭の中で思う。
自分の自己紹介をしろと言われて、真っ先に家族の話題が出てくる子。そんな子はあまりいないと思う。
この子が、明るくて純粋そうな性格である理由。それがそれだけで、何となく分かる気がする。
昨日スズネさんが話していた通り、一目見るだけで、明るくて純粋そうだと分かるような子。
……俺はミリアちゃんに対して、とりあえずまずは、そんな第一印象を抱いていたのだった。
「あっ、そうです」
俺がそんな事を思っている中。ミリアちゃんは、何かを思い出したようにしてから、俺に向かって改めてぺこりとお辞儀をする。
「えっと。これからしらばくの間、よろしくお願いしますね。メルル先輩」
そしてわざわざ、そんな言葉を付け足してくれるのだった。
……なんというか、本当に良い子なのだろうなと思う。この子。
「えっと……。こっちこそよろしく、ミリア……ちゃん……」
俺は、ペコリとお辞儀を返しつつ、ミリアちゃんという呼び方でその子の名前を呼ぶ。
……よく考えたら、初対面でいきなりちゃん付は馴れ馴れしいだろうか。
そんな事を、俺は一瞬だけ思ったけれど。
「はいっ」
ミリアちゃんは、そんな事は一切気にせず、俺へと嬉しそうに笑ってくれる。
……やっぱり、なんか凄い良い子そうだな。
俺はそんなミリアちゃんに対して、改めて、ただそんな事だけを思っていたのだった。
そうして、ミリアちゃんの自己紹介が終わった後。
みんなの視線が、自然と、ミリアちゃんの隣にいる子の方へと注がれる。
「それでは、最後にユラさんも、自己紹介をどうぞ」
スズネさんが、その子へとそう促して。
「……うん」
その一番身長の低い子は、改めて俺へと向き直る。
そしてそのまま、じとっとした感じの目を俺に向けつつ、最後の自己紹介を始めてくれるのだった。
「……ユラだよ。学年は1年。
好きなものは、静かな場所と素直でいてくれる人。嫌いなものは、うるさい場所と、欺瞞に満ちた人……かな。
……私は正直、好きな相手しか好きになれないような部分があると思う。だから、メルル先輩。あなたが嫌な人じゃなかったら、私はいいなって思うよ。
……よろしく」
じとっとした目をした子……ユラちゃんは、俺へとそんな事だけを話してくれていた。
ちょっとだけ短かったが、どうやら話すことはそれだけならしい。
……なんか、賢そうな子というか、良くも悪くもミリアちゃんとは真逆みたいな感じの性格の子に見える。
よく分からないけれど、なんかちょっとだけ怖い感じの子。
そんな感じのものが、俺がユラちゃんに抱いた第一印象だった。
「……うん。……よろしく、ユラちゃん」
俺はとりあえず、そう挨拶を返しておく。
ユラちゃんはそんな俺に対して、特に嬉しそうにもしないし、何か他の感情を抱いたような様子も見せない。
ただユラちゃんは、じーっと、俺の事を見つめてくる。
……その仕草はまるで、俺の事を、どんな人間か見定めようとしているようにも見える。
えっと……。本当に小5なんだよな……? この子……。
俺はただそんな事だけを思いながら、ユラちゃんにじとーっと見つめられ続けたのだった。
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そうして、ユラちゃんの自己紹介も終わった後。
「はい。みなさん、ありがとうございました」
スズネさんが、まずは明るくそう呟く。
そして、みんなの注目が自分へと集まったのを確認した後。この場をまとめるように、落ち着いた声色で話す。
「……私たちは、このルリミピス聖女学園で繋がった、大切な学友同士です。ですから私は、今までもそうであったように、これからもみなさんで一緒に仲良くしていけたらいいなと、そんな事を思います。……ですからみなさん。どうか、メルルさんを歓迎してあげて貰えたら、私も凄く嬉しいです」
そうして、そんなスズネさんの言葉を受けた後……。
「うん、そだねー」
エビラ先輩が、のんびりとそれに頷いて。
「はい、勿論ですっ」
ミリアちゃんが、明るく元気にそれに頷いて。
「そう……ですわね……」
テレザ先輩が、神妙な様子でそれに頷いて。
「……そうだね」
ユラちゃんも、じとっとした態度のままだけれど、その言葉にはしっかりと頷いていてくれた。
……俺は、そんなみんなを改めて見渡す。
こうやってみると、みんな個性的というか、一人一人特徴的な感じの人だと思う。
そして正直、……みんな、スズネさんに負けず劣らず、かなり可愛いらしい容姿をしていると思う。
「…………」
他人と接するという事に対して、不安や緊張の気持ちはある。
けれどそれ以上に、とても大きな期待が、改めて胸の中へと湧いてくるのが分かる。
本当に、ここは女の子しかいない学園ならしい。そしてこれからここにいる女の子達と、俺は学園生活を過ごす事になるらしい。
「あの……みんな……」
だから、俺はただ強く願う。
もし許されるなら、そんな輪の中に自分も入ってみたいと。
萌え4コマみたいに、優しい世界の中。そんな場所に自分の居場所が出来たら、それはどれだけ夢のような事なのだろうと。
「……よろしく、お願いします」
そんな思いと、願いを込めて。
俺は改めて、その場にいる全員へと、深々と頭を下げる。
「うん、よろしくねー」
「よろしくお願いしますね、メルル先輩」
「こちらこそ、よろしくお願い致しますわね……」
「よろしく」
「……私も改めて、よろしくお願いしますね。メルルさん」
その場にいる5人は、俺へと言葉を返してくれる。
俺と仲良くしたいという、そんな意思。そんな夢のような言葉を、俺へと向かってかけてくれるのだった。
萌え4コマというのは、凄くキャラクターを大切にするジャンルだ。
普通の物語でもキャラは大切にするが、萌え4コマのそれはなんていうか、その事が占めている度合いみたいなものがもう一段階くらい違うと思う。
『萌え4コマが凄くキャラクターを大切にする』という事。あれは、分かる人なら分かると思う。
……そして、この人達もきっと、それみたいになるのだと思う。
俺はこれから、とても長い時間をかけて、この人たちの事が大切になっていく。そしてきっと、俺はこの人達と、とても長い付き合いにもなっていく。
何となく、そんな予感を感じつつ……。
聖女学園の食堂の中。俺はまずは、この学園にいるみんなの顔と名前を、しっかりと頭の中へと刻み込んでいたのだった。