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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
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64部目

一年以上、更新してなかったですね。

遅筆で申し訳ないです。

 現在、正位置。


 検証が済み、青衣が持っていたリモコンの同定が終了した。

 結果、作用は全て朱音が持っていたリモコンと同じもので、それの橙・黄・藍のバージョンだった。特定された直後、そのタイミングを狙っていたかのように、正解と言わんばかりに全てのリモコンのボタンが発色した。今秀虎が持っている、朱音から預かったリモコンも含めて、だ。


「私達に無駄な時間を使わせて……どこまで人をおちょくれば気が済むのかしら」


「まーまー、朱音が戻るまでの暇潰しだと思えばさ、な?」


「だとしても腹立たしいわ」


 そうは口にするものの、仮に最初からリモコンのボタンが発色していたとしても、どっちにしろ検証することになるということは分かっていた。

 だからこそ、こうもあっさり答えを開示されると自分達の努力を否定されているような気分になる。嘲笑われながら監視されているということに他ならず、それをまざまざと実感させられるからだ。


「このあと、どうする? そろそろ、朱音が帰ってくる頃だと思うんだけど……」


 そう話題に上がった瞬間、黄色のドアノブの扉が開いた。

 

「お帰り。なんでそんなに疲れた顔してるのよ……」


「いや、も、聞いてよ! 私が一生懸命説明してるのにSったら全く理解してくれないの!!」

「いや、お前の説明がヘッタクソだったに一票だな」


 秀虎の大きな呟きにカチッときた朱音の顔色から、疲れの色が吹き飛ぶ。

 口喧嘩勃発の予兆を感じ取った悠武が「それよりも朱音」と無理矢理話題転換を促す。


「Sは? どんな感じだったの?」


「この二人の言う通り、外ずっとウロウロしてたって」


「諦めて私達と同じルートを辿る、なんてことにならなかったのは幸いだったわ」


 朱音は大きくウンウンと頷き、「ちゃんと青衣の言いつけ守ってたよ!」となぜか誇らしげだった。


「それで、なんて伝えたんだ?」


「だから、頑張って中に入って、頑張って正解の窓探して、頑張ってハクん所行ってねって」

「お前端折りすぎじゃね!?」

「実際はもっとちゃんと説明したよ!!」


 「いや、何言ってんのか分かんなかった」と揃って口にするS二人の姿が容易に想像ついただけに、朱音の言葉は説得力が皆無だった。


「……まぁ、アイツらがちゃんと汲み取ってくれてると信じて、俺達は部屋の検証と鍵の奪取に」

「そのことなんだけど、ちょっといい?」


 秀虎の方針に待ったをかけたのは青衣。

 メモ帳にペンを走らせては、ページをめくったり戻したりして見返している。


「鍵の奪取のことなんだけれど、ちょっとこれ見て。一緒に確認してくれないかしら?」


 手帳サイズのメモ帳に書かれていたのは、大きな丸とその外周を8等分する線、丸の内側にはその線と対応するように色の名前が書かれており、丸の外側には線と対応するように四角が8つ描かれていた。

 その図が5ページに渡って描かれているが、全て丸の内側に書かれた文字の位置が異なっていた。


「この部屋の模式図?」


 悠武の指摘に「ええ」と肯定を返す。

 青衣は、今いる部屋の正位置及び各リモコンを一回使った時の扉と部屋の関係を図にしていた。


「私の考えが正しければ、リスクを回避しながら時間を大幅節約できるわ」


***


「意外と脳筋ばっかじゃねーな」


「少ししか話してないけど、Aのあの三人はちゃんと賢いよ」


 思考して、行動する。

 力がある人ほどそれをせず、正面突破でバカ正直に正攻法を辿ろうとする。それでもどうにかなるという確固たる自信があるからだ。


「もーちょい血の気の多い奴らだと思ってたんだけどなぁ……」


「プロフィールのハッキングだけじゃ分からないこともあるんだよ〜」


 飄々と行いを揶揄する瑠璃に対し、ハクは愉しそうに舌打ちを返した。


「まぁでも、ある程度鍵が揃って、リモコンの仕組みが分かった時点で普通は考えるよな。『鍵、全部集めなくてもよくね?』って」


 そう。実は、今開けられる扉とリモコンを駆使すれば、全ての鍵を収集せずとも、全ての部屋を調べることが可能なのだ。

 青衣はそれに気づいたのだろう。これ以上戦闘によって体力を削る必要性もなく、かつ鍵を持つ幹部の探索に余計な時間を割くこともない。非常に合理的である。

 現に、モニターには次々に部屋を回しては扉を開けて部屋を検証する朱音・秀虎・悠武と、結果をメモにとる青衣の様子が映し出されている。


「ねぇ、他の部屋ってどうなってるの?」


「ん? あぁ、別に普通の部屋だ。オオカが戦った部屋と全く一緒の造り」


「また拍子抜けな」


「元々、各グループに割り当てられた作業部屋だ。大型機械の撤去とか大変だったんだぜ?」


「それ以上細工を施す時間と元気がなかった、ってところ?」


「一番なかったのは金だけどな」


 「へー、金ね……」と瑠璃が虚言をあしらうような口ぶりで呟くと、それ察したハクが「お前なぁ」と反論を始める。


「変な誤解されてるようだから言っとくが、この建物は、謎解きアミューズメントの施設として建設予定だった。それを俺達が占拠したわけだが、あの回転部屋とか今東志波の奴らを監禁している檻とか、大まかな仕掛けはその時からほぼ完成形だった。あとはそれをチョチョイとイジって、俺好みに仕立てたってわけだ。一銭も使ってない」

「いや、普通はチョチョイなんてイジれないからね、こんな大掛かりな装置」


 「そうか?」と本気でそれが普通であると思い込んでいるハクに「これだから天才は……」と瑠璃は呆れかえる。


「あとは……ソウミさんも言ってたけど、窓ってどうなってるの? この部屋のは本物だろうけど」


「夜には定期的にイルミネーションイベントやるみたいだったからな。プロジェクションマッピング……とはまたちょっと違うが、光とか映像の出る特殊ガラスをはめ込んだフェイクの窓が沢山ある。勿論、開けられないし、割れないようにできている。この部屋の窓も含め本物の窓もあるが、それにもそのガラスが使われている。まぁ、位置的にこの窓をどうこうするのは無理だろうけどな」


「なるほど。じゃあ、もしSがその窓を特定したとしても、割って侵入することはできないってこと?」


「そうなるな。けど、この部屋に繋がる窓があるのも本当だ。しかもわりと手近な位置に」


「そうなの? ぱっと見見当たらないけど」


「外の廊下に緊急脱出用の窓がある。ソウミが言ってたのはそれのことだ。今は外から誰でも開けられるようにしてある」


「それも、この建物に元々あったもの?」


「あぁ。非常灯は外したけどな」

「えっ、バカ? 自慢げに言うこと?」


 目深に被ったローブで見えないが、おそらくドヤ顔をしているに違いないハクを横目に、瑠璃はモニターを眺める。

 部屋の検証も終盤に近づくAクラスとは対照的に、やっと外周を覆うシートの内側に入れたSクラスの様子も映し出されている。


「まさか、これもトライアンドエラーさせる気じゃないよね?」


「本当はそうさせるつもりだったが……そうも言ってられなくなったな」


***


「まさか、建物内で電波妨害とはね。どうりで連絡が取れないわけだよ」


 ヒロトが、電波良好な自分の携帯を見てから、信じられないとばかりに建物を仰ぎ見る。よくある、赤茶色のレンガ調だ。

 Sクラスともなると、遠征で圏外エリアに足を伸ばすことも少なくない。僅かしかない電波を頼りにやっと連絡が取れたということも何回か経験済みだ。しかし、東京のド真ん中においてそのような経験をさせられるとは夢にも思わなかった。


 青衣に「外から攻めて」と言われたものの、他に入口らしい入口が見つからず、立ち往生していた。もういっそのこと、正面から建物内に入ってしまおうという考えが何回も頭を過り、そのたびに「青衣が勝算なく中に入るなと言うわけがない」と仲間を信じ、お互いを叱咤し合い奮い立たせた。

 建物は、普通の人が外周を普通に歩いて1周しても、15分かかるかかからないかぐらいの、がっつり幅間のあるものではなかった。なんなら、東志波の外周の方がその倍以上あるのではないかという感覚だ。

 外周を血眼になりながらじっくりと5周ぐらいしたところだろうか。いきなり、ヒロトの携帯に着信が入った。朱音からだった。正直、説明は時系列しっちゃかめっちゃかで理解と整理にいらない時間をとられたが、外周を覆うシートの内側に入るための手掛りと、これからまた連絡が取れなくなるということは伝わった。


「よく叫ばなかったな、アイツ」

「うん。同感だよ」


 どのような思考回路が働いたのか、朱音は叫ばなかった。

 一部始終を見ていたのは瑠璃とハクだけだが、朱音は窓から身を乗り出して、携帯を建物の外に出した状態で通話をしていた。建物内でなければ電波妨害を受けないのではという読みをしていたかどうかは定かではないが、それは当たっていたのだった。


「さて、次どうする? これ」


 コウマは、現実に向き合うように、外壁に規則正しく張り巡らされた無数の窓を見遣る。

 朱音からの話によれば、この中の一つだけ、ハクへの直通ルートがあるという。


「そうだね……スイッチは手探りでどうにかなったけど、こればかりは……」


 シートを通過するためのスイッチは、手探りというなんとも地道な方法で見つけ出した。というのも、朱音の話を聞いているときから、既に違和感らしき場所を数カ所ピックアップできており、あとはそこを重点的に調べるだけの作業だった。伊達に5周もしていない。

 しかし、この状況において手当たり次第というのは効率が悪すぎる。大半は向こう側に部屋など存在しないフェイク窓であるという事実を知らされてなくても、相当運が良くない限り、特定には時間がいくらあっても足りない。


「朱音が連絡を取るために利用した窓も分からないのに……まぁ、見つかっても意味ないけど」


「しかもこれ、絶対ぇ割れねぇやつだ」


 コウマが自分の拳をコツコツと窓ガラスに当てる。

 強度を誇る音が立てられ、それが余計に絶望を煽る。


「ここまで来てまた手詰まりかぁ……」


 ヒロトが静かに肩を落とす。

 こうして雑談している間にも、時間は無情に過ぎていく。それがまた非常にもどかしい。


「とりあえず一周してみるか? それとも……」


 そこで言葉を切ると、コウマは視線を右に流す。

 その先には、建物の角。


「そこに隠れてる奴に吐かせてみるか?」


 ヒロト以外にも聞こえるように、わざと声を大きくする。

 無論、誰かの気配についてはヒロトも前々から気づいていた。ただ害を与える気配もなかったので、そのまま放っておいただけだ。


「……流石だな」


 滑舌の良いハッキリとした中性的な声が聞こえると、相手は特に抵抗するわけでもなく、あっさりとその姿を現した。

 どちらかといえば細身の男子。しかしそれは貶し言葉ではなく、スタイルという意味では神がかって均衡がとれている。白い肌に、一瞬目を奪われるほどに整った中性的な顔立ち。纏うオーラは、一切合切の無駄という無駄を削ぎ落とした、澄み渡る高潔さを思わせるほどだった。


「だが、穏やかではないようだな」


「ああ。こちとらとっとと終わらせてぇもんで」


 真緑、よりはエメラルドグリーンに近い色の丈の短いチャイナ服に黒のズボンを合わせた男子と、コウマが真っ直ぐに対峙する。

 チャイナ服の男子が無表情なのに対し、コウマは緩く好戦的な笑みを浮かべていた。


「……一つ聞いていい?」


 コウマを腕で制し、ヒロトは二人の間に割って入った。


「君、なんで出てきたの? そっちからすれば、俺達をここで足止めしてる方が都合がいいんじゃないの?」


 ヒロトの問いは最もである。

 敵方だって、相手する人数が少ない方がいいに決まっている。相手が外から攻めてくることを逆手に取ってそれを罠として機能させているのであれば、今この状況は成功以外の何でもない。事実、絶望を植えつけるのには十分だ。


「ハクの指示だ。詳しくは聞いてないが、中にいる奴らが想像以上に賢明で、状況が変わったと言っていた」


 中にいる奴ら。つまり、Aクラスのことだ。

 長い付き合いだ。あの三人がちゃんと頭が回る人であるのは、ヒロトもコウマも正確に理解している。そう、ちゃんとAの中でも全員ではない、ということを含めて。


「よく分からないね、君達の教祖は。人を攫っておいて捜査が進むように誘導したりとかさ」


「確かに、ハクの行動は矛盾だらけだ。俺達もよく振り回されるし、反論しても意固地なことが多いな」


「矛盾……ね。理由とか聞かないの?」


「聞いたら答えてはくれるが、毎度煙に巻かれる。アイツの思考回路は、俺達の理解の埒外だ」


 嘘は……言っていないように見える。

 無表情を貫いてはいるが、ほぼ反射の領域で出てくる刹那の微表情からは、苦労人特有の哀愁が漏れていた。


 つまり、教祖の考えを聞き出すことは不可能だった。


「けど、目的なら知っている。お前達東志波全員を、稜鏡団員にすることだ」


 いつぞやに、タイクが瑠璃に言った言葉でもある。

 幹部二人以上が同じ目的を口にしているということは、東志波に狙いを定めてからは、これが指針になっているに違いない。


「東志波にそこまで執着するメリットは?」


「戦力増強、危険因子の排除。これが同時に成果として得られ、かつ復讐も遂げられる。そしてなにより……アイツが掲げる理念の達成に、大きく近づく」


 キッパリと、迷いなく言い切る。

 色々思う節はあっても、絶対的に信じられるものがある。そんな目をしていた。

 ハクを信じ、ハクを支え、ハクと歩み、そして、ハクのためなら、ハクの頼みなら、ハクの願いなら、持てる全てで最善を尽くし続ける。


 一種の覚悟。

 あるいは、一種の心酔。

 あるいは、一種の狂信。


「へぇ……理念なんてあったんだ。それは? 犯罪を繰り返してカリスマ犯罪集団として世間から崇められて、優越感に浸ることか?」


 嘲笑を含んだ物言いをするコウマに冷め切った目を向け、「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、だな」と、ため息つきの呆れた様子で言い返す。

 「は?」ともらし、頭のおかしい人を見るような表情をするコウマなど相手にせず、男子はある窓を開けた。

 ちょうど、その男子が普通に手を伸ばした状態のところにある窓だ。大きさも構造も、朱音が見たものと全く同じである。


「この窓がハクへの直通経路だ。緊急脱出用で、中は滑り台様の構造になっている」


 滑り台を滑るときの格好である長座の体勢をとっても、頭に幾分余裕がある高さの内腔構造。絶望的な摩擦係数の低さを思わせる素材は、どんなに優秀な滑り止めを施した靴でも太刀打ちできそうにないほどにツルツルとしている。その上、坂もなかなか急だ。


「これを登るのは……無理そうだな」


 同意を求めるコウマに「それはそうさなんだけどさ……」と返すも、ヒロトは難しい顔をしている。そしてその困惑は、そのまま目の前の男子に向けられる。


「ねぇ、もう一度聞いていい? 君、なんで出てきたの?」

朱音おばかちゃんの第一印象ふぁーすといんぷれっしょん・その22


(ケータイ……落とさないようにしなくちゃ……!!)


fin.

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