59部目
自分で作った設定で自滅したため、57部目の一部を変更しました
「ソウミも負けたか……」
モニター越しに、青衣に手足を縛られるソウミの姿が確認できる。
戦闘の一部始終をしっかり見ていたハクは、その結果を残念そうな声で告げた。
「駒がいなくなったら」ではない。
「仲間がいなくなったから」である。
「画面越しじゃ分からないからなんとも言えないけど、ソウミさんも大技練ってたんじゃないの?」
「可能性はあるな。その場合だと大方、ソウミの準備前に相手の準備が終わったって感じか」
「まぁ、勝算なくお喋りに走るなんて自殺行為だからね」
ソウミも馬鹿ではない。相手側の状況把握も兼ねてわざと時間稼ぎをしていたと考えるのが道理だ。
お喋りなんかは時間稼ぎの常套手段。時間をくう大技の波の生成にも用いられるが、単に体力回復を目的とした用途が圧倒的に多い。
威力が体力依存の波術において、戦闘中の体力の温存及び回復は、特に長期戦で重要視される。お喋りは足を止めて相手を牽制するだけでいいのだが、足を止めているのは相手も同じであり、相手にとっても体力回復の時間となる。諸刃の剣だ。
「けど、仮にソウミが大技を練ってたとして、あえて相殺しなかったあっちの判断は見事だな」
よほど高度な深層波術でない限り、大技の生成過程に気づけない東志波生はいないだろう。今回、ましてやAクラス。
普通であれば大技を放つ前に逆波で相殺するのがセオリーなのだが、青衣はあえてやらなかった。あえて相手を泳がせた。
「自分の方が早いっていう自信の表れか、それとも……」
「後者だよ。多分ね」
「その根拠は?」
ハクが、モニターから自分の少し後ろにいる瑠璃の方へ首をちょっとだけ動かす。
ハクの言葉を途中で遮った瑠璃だが、ハクがこの後に言わんとしていることが想像ついてしまった。そしておそらく正解。
「だって龍城さん、凪留だよ?」
***
「さてと、この勝負、私の勝ちでいいわね。さっさと鍵とリモコン寄越しなさい」
両手を後ろで組まされ、なおかつ足首まで縛られた状態でうつ伏せになるソウミを、青衣は冷たく見下ろす。
「……全部ズボンのポケットに入ってるわ。自分で取り出して」
「そうね。あなた今両手塞がってるのよね」
青衣は再びしゃがみ込むと、ソウミの両脇に手を当てる。
「ちょっと、ズボンって言ったの聞こえなかったの?」
「身体検査よ。素直にズボンだけ調べるわけないじゃない」
「……いいわ。好きにして」
これまで出てきた幹部達には、服装に一貫したテーマがある。
チャイナ服、だ。
なぜそうなったのか、はたまた誰の趣味かは不明だが、自分が所属しているグループの色に金刺繍が施されたチャイナ服を着ている。
男子は、丈の短いものに下は黒のズボンというスタイルで統一されている。まだ遭遇していないキタンやシロクも同様と考えていいのだろう。
女子はまちまち。ソウミの場合は男子と同じスタイルだが、ズボンの色が白。オオカはスリットの大きく入ったドレススタイルで、シイトはドレススタイルのものに白ズボンを履いている。
ズボンにはチャックがついており、戦闘中激しい動きをしても落下物を気にしなくていい仕様になっている。なんと機能性に優れたものか。
身体検査を終え、青衣はポケットのチャックを開け、手をつっこむ。
「えっ……」
思わず声が漏れる。
同時に、ポケットの中のものを手で掻き出した。
青衣の想定なら、ソウミのポケットに入っているのは鍵とリモコンが一つずつ。しかし実際は、藍色の鍵が一つと──リモコンが三つだった。
「どういうこと?」
「リモコンが一つだけなんて、一言も言ってないわ」
「なら、三つとも説明してもらおうかしら」
青衣は、頭を左へ寝かせているソウミの目の前にリモコンをまとめて置く。
ソウミは目線を上げてリモコンを一瞥すると、短く息を吐いた。
「出来ないわ」
「……自白させられたいという意味でいいわね?」
そう言って、青衣は波術の準備をする。
ソウミはもっと目線を上げて頭上の青衣を認識すると、また短く息を吐いた。
「そんなことしても無駄よ。今の状態じゃ、もう私にも区別がつかないもの」
「大嘘言ってられるのも今の内よ」
「そのリモコン、デフォルトだとボタンは白だけど、遠隔操作で発光させることができるの。つまり、ボスがボタンを光らせてくれないことには説明も無理ね」
「その話、本当でしょうね?」
「疑うなら、そのまま波術打てばいいわ。私は痛くも痒くもないから」
ブラフ……の可能性も否定できない。
しかし青衣の頭に思い起こされたのは、全く別のものだった。
そう、あの日、バトルドームで聞いた、ボイスレコーダーの──。
「分かった。今はしない」
青衣はリモコンと鍵を回収すると、自分のポケットにそれらを入れる。
「あなたを抑えておけば、情報はいつでも聞き出せる。戻ってから全員で聞いたほうが、共有に手間がかからないわ」
半分、自分に言い聞かせるようにしてソウミに告げると、引きずって運ぶためか、青衣は結束バンドごとソウミの両手を持ち上げた。
「さてと。えっ……」
再び漏れる声。固まる思考。見開かれる目。
棒立ちになっている青衣より早く、ソウミが現状理解を終え口を開く。
「私、最初に忠告したわよね? 『戻れなくなる可能性とか考えなかったの?』って」
***
普通の、階段である。
勿論、上るに当たって細心の注意は払っている。いきなり板が抜けるかもしれないし、いきなり下り坂に変形するかもしれないし、いきなり壁から何か飛んでくるかもしれないし、いきなり上から何か降ってくるかもしれないし。
だがしかし、別に通路が暗いわけでもなければ角度も急ではない。木材で作られた、何の変哲もない階段。人によっては、家の階段を上っている感覚になるかもしれない。
(敵の気配もないしな〜。ちょっと拍子抜けかも)
幾分か緊張から離れつつある朱音。暖色系の照明も相まって、ここが的本陣であることを忘れそうなほど、穏やかな空間だ。
(神社の石段みたいに長くもなかったしね)
中規模の地下鉄の駅の階段くらいの長さしかなく、人2人分くらいの大きさの隙間から、次の部屋の壁が見えている。
(また部屋かぁ。同じ作りっぽいなぁ)
壁の特徴から、今まで見てきた部屋と同じ構造であることが推察される。
果たしてその推察通りの部屋ではあったのだが……一点だけ、大きく異なる点があった。
それは、このからくり屋敷に入ってから今まで一度もお目にかからなかったものだ。
「窓だ……」
階段を背にしたときの、正面大きく左側。たった一つだけ、窓が存在した。
大きさは、一般家庭のベランダの窓より一回り小さいくらい。両外開きで内鍵、枠は白。
朱音は、無防備にも吸い込まれるように窓に近づく。その流れで外の世界を眺めると──。
「えっ!?」
映り込んだのは地面ではなく、ただの暗闇。
その中央に、檻の中で大人しく体育座りしている人達がぼぅっと照らされている。しかも、見慣れた制服の集団が。
朱音はすぐさま鍵を外し、身を乗り出すようにして窓を開ける。
しかし眼下に広がるのは……建物についている照明に照らし出された、ただの地面だった。
「えっ……えっ?」
首を下に向けたまま右に左に視線を走らせ、最後に窓の裏側を確認する。どう見ても普通の透明なガラスだった。
窓枠にかけていた片足を下ろし、室内側のガラス面も念の為確認する。透明であり、外の景色が映っている。側面も、白塗りされた木材がガラスを縁取っているのみ。
「えっ、えっ、どゆこと?」
窓の外側と内側を何度も確認したり、地面を見回したり、窓周辺部をくまなく触ったり。朱音は、マジックのタネを必死に探そうとする子供のような動きを延々と続けていた。
対象範囲を広げ、外壁に右手を伸ばす。まずは近場から窓に沿って、朱音の手が四角を一周する。その後、その手を少しずつ右へ右へと伸ばしていき、肩が持っていかれるほどに伸ばしきった距離に、異変はあった。
「ん?」
さっきまで触っていた、ゴツゴツとした外壁の質感とは異なる感触。掌を拳に変え、手首のスナップでそれを軽く叩くと、外壁のそれとは違う音がする。密度が少し抜けたような音が。
すぐさま腕を引っ込めると、身を窓の右側に寄せて、両手を窓枠にかけ首をあらん限りに突き出して右側の壁を見る。
「窓だ……」
そして何を思ったのか、お次は左側に身を寄せて、同じことをする。
「こっちも!」
よくよく見ると、等間隔で窓が並んでいる。
この建物にこんなに窓があったのか、と思ってしまう。内側からは一切見かけなかったのに。
(てことは、まだ部屋があるってこと?)
この建物のことを考えるのなら、正攻法で行けない部屋があったとしてもおかしくない。その部屋がゲームの攻略に繋がるのかどうなのかはさておき。
行こうと思えば、窓からせり出している部分を足場にして次の窓へと飛び越えることも可能だが、第三者に締め出されて仲間と合流できなくなる可能性を鑑みると踏みとどまるのが賢明な判断だ。
(確かめたいけど、トラに勝手に行くなって言われてるしなぁ……)
疼く行動欲を抑え込み、朱音は諦めて窓と鍵を閉めた。
未練を引きずるようなため息を漏らし、改めて窓ガラスを見る。
「で? どう入ってきたかは知らないけど、私を突き落とすチャンスはいくらでもあったよね?」
反射して映る人物を捉え、朱音が後ろを振り返る。
そこにはいつからいたのか、腕を組んで壁に背を預け、金刺繍の入った真っ青で丈の短いチャイナ服に黒いズボンを合わせた男子が立っていた。
「そっちこそ、俺の気配に気付いててどういうつもりだ?」
やや痩せ気味の体型だが、長い足と胴体のバランスがとれた長身。清楚感を感じさせる短髪の黒髪。物怖じしない冷静さは理知的な瞳に表れており、耳に心地良い低い声はどこか無機質である。顔立ちは、やや白よりの肌にパーツが整った形で配置されている。
「別に〜。ナゾトキを途中で止めたくなかっただけだし」
「……随分と舐められた理由で放置されたものだ」
「攻撃してくれたら、応戦したけど?」
戦闘のスイッチが入った朱音が、好戦的な笑みで挑発的な言葉を浴びせる。
その様子に苦笑も冷笑もすることなく、その男子は壁から背中を離した。
「青光リーダー・キタン。さっさと終わらせよう」
朱音ちゃんの第一印象・その17
(あ〜もうお空真っ暗)
fin.




