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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
72/78

58部目

随分と長過ぎる長期休暇をいただきました

 「なかなかの奮闘ぶりだな、Aクラス」


「だね。動き方も慎重だし」


「今ん所、俺達の全敗か。バカにしたもんじゃねーな」


「戦闘慣れしてるよね。本当に強いと思うよ」


「戦闘慣れ、か。経験値の差だな」


 モニターを眺めながら、瑠璃とハクはお互いに意見を交換する。

 退屈はしないが、正直、高見の見物はこれくらいしかやることがないのだ。例えるなら、そこそこしか関心のないスポーツの対戦の生中継をなんとなく見ているような感覚だ。


「まぁ、勝ち負けは置いといて、この対戦カードにしたのは正解だな。超おもれぇ」


 画面が不均等に分割されている中で、現在一番大きい面積を占めているのが、青衣対ソウミの対戦映像である。

 決して、派手な戦闘ではない。前の三組と比べて見劣りのする、傍観者から見れば地味で味気のない展開なのだが……。


「なんだろう……機転が利かないってわけじゃないのに……」


「あれだろ。格下相手に自分のスタイルを変えるつもりはないっていう」


「ハッキリ言ったね」


「ソウミもプライド高いからな」


 「も」という言葉選びに、青衣のことも含まれていると察せられたが、瑠璃はあえて触れずに黙る。

 朱音ならまだしも、秀虎や悠武よりも接点がなかったのだから、瑠璃は青衣の人柄について語るのを避けた。


 一方で、ハクは視線を──ローブを目深に被っているため、傍からは変化が分からないが──二番目に大きい面積の映像へと移した。


「さて、コイツには次誰を当てるか……」


 朱音が階段を駆け上がっている映像である。


「これの先も部屋?」


「ああ。ソウミ達のいる部屋と同じ造りだ」


「なるほどね」


「女子同士でシイト辺りが無難か……。どう思う?」


「確実に一勝上げたいなら、残りの男子二人がいいんじゃない?」

「お前鬼かよ。つかどっちの味方だよ」


 女子一人対男子二人という構図をハクが容赦なく非難すると、瑠璃は肩を竦めて小さく笑った。


 瑠璃の提案を冗談ととるか採用するかは一旦保留し、「にしても……」と不服げに呟いたハクは、首を少しだけ下に向ける。

 モニター左下、角っこに小さめのサイズの映像である。

 そこには外の様子が映し出されており、二人の男子が指をさしたり話し合ったりしながら、建物の回りをウロウロとしていた。


「天下のSクラス様は、な〜にやってんだか」


***


 攻撃しているようでしていない。

 防御しているようでしていない。

 二人の対戦の様子を表すのなれば、この二文で事足りる。それほど異様なのだ。


「残念ながら持久戦は得意よ」


「貴方ごときに、体力の配分を間違えないわ」


「そうね。忍耐力もあなたより上かしらね」


「……言ってなさい」


 相手との距離を三歩で詰めると、青衣が突き出した拳を避けて腕を掴もうとするソウミの腕を逆手で掴み返そうとする青衣の手首を捻りかえそうとするソウミのがら空きになっている胴体への青衣の蹴りをソウミは反対側の腕で防ぎ、両者距離を取る。


 先程からずっとこのような感じである。小手先と先読みを組み合わせて反撃に出ようとして、両者失敗する。

 要するに、二人してカウンター狙いなのだ。


 この均衡を崩すのは容易なことであり、その判断が吉と出るか凶と出るかはさておき、どちらかがカウンターの姿勢を捨てれば良い。

 しかし、二人してそれをしようとしない。


 「変えたくない」のではなく、「変える必要がない」。

 意地の張り合いや根比べとも言えなくもないが、この場合は、己がスタイルの劣等性を相手に認めさせる、つまりはプライドの潰し合いだ。


 地に足を着けた瞬間、再び青衣が間髪を入れずに間を詰める。

 迎え討つようにソウミも近づき、接近戦の応酬。ただし両者にダメージらしきダメージはない。


「小賢しいわね」


「それはあなたの方でしょう?」


「返事なんて求めてないわ」


「なら、随分大きな独り言ね」


 青衣の隙をついてソウミがその小柄な体躯を滑り込ませると、先程の言葉に「迷惑」と添え、顎を目掛けて肘を突き上げる。

 青衣はその肘を両手で受けると、掌に鈍く突き刺さる痛みを堪えて押し返す。


 力が拮抗した状態。だが、青衣がいきなり左斜め後ろへ力を抜いたことにより、力んでいたソウミの腕が振り切れる。

 青衣は飛んできた腕を避けると、大きく開かれたソウミの胴体の正中線目掛けて爪先を突き立てる。しかしソウミは仰け反って回避すると床に両手をつき、そのままバク転の要領で青衣から距離を取った。


 なかなか激しい競り合いをしているのにも関わらず、二人してまだそこまで息があがっていない。

 つまり、まだそこまで体力を消耗していない。波術を使うのには早すぎる。


「一つ聞きたいんだけど」


 青衣は表情を変えることなく、ソウミの言葉を待つ。


「Sクラスはどこ行ったの?」


「私のことは眼中にないって言いたいわけ?」


「卑屈ね。そうじゃないわ」


 嫌味に対して嫌味と否定を返し、ソウミは軽くため息をつく。


「あなたが外から行かせたのは知ってるわ。でも、この中に入ってきたっていう連絡がボスからこないの。一体どこで何してるのかしらね」


「それは私も知りたいわね。確かに外から行かせたのは私だけど、電波妨害してくれてるおかげで、連絡がとれないのよ」


「どうやら合流はしていないみたいね」


「ええ、そうよ」


 すると、ソウミは顎に手を当て、考え込むような素振りを見せた。


「まぁいいわ。あの二人が来ない方が、こちらとしてはありがたいもの」


「でしょうね」


「にしても、あれしきの仕掛け破れないなんて、東志波って案外ポンコツ揃いなのかしら」


「あら、そのポンコツに前回負けたのは誰だったかしら?」


「今のところ一勝一敗よ。なにせ、外装の仕掛け考えたの、私だもの」


(!?)


 その時、青衣の中でいらない衝撃が胸を突いた。

 誰が外装を担当しようが、正直どうでもいい話である。誰であっても構わない。今なおSが外で頭を悩ませているだろうことに変わりはないのだから。


 しかし青衣は悔しかった。

 敵のトップ以外の者が考えた仕掛けに、味方のトップが攻略出来ていない現状が、劣等感を突きつけられているようで悔しかった。


 ただ、このことを表に出しては相手が調子づくだけ。感情面においても、弱味を握らせてはならない。

 だからこそ、表情筋を動かさず、「ふーん」と自然に繕えたのは、長年の戦歴と踏んだ場数の賜物だ。


「つまり、貴方を倒せばその外装の仕掛けについても分かる、ということね」


「今喋ってもいいわよ。仕掛けが分かったところで、外界への連絡手段がないんだから」


「なら、連絡手段についてもまとめて喋ってもらおうかしら」


「完全にボスの領域だわ。残念ながら、あなたが得られるメリットは鍵だけよ」


 ソウミは、鍵のある位置と思われる胸に手を当てる。


 当初の目的は変わっていないのに、得られる情報量の物足りなさを感じさせる会話の流れである。

 舌戦で負けたような感じもするが……。


「……それはどうかしらね」


 それで引き下がるような青衣ではなかった。

 フゥと息を吐き出してから放ったその言葉には、負け惜しみやブラフを一切感じさせない態度が伴っていた。


「……どういうこと?」


「直に分かるわ。後に貴方自身が喋ってくれるんだから」


「もう捕まえた気にならないでほしいわね」


「あら、気づいてないの? 貴方、もう私の術中にはまってるわよ」


 ソウミは取り乱した表情を見せるも、「デタラメを……」と呟き、青衣を見据える。


「大技の準備をしていないことぐらいお見通しよ。お粗末な心理戦ね」


「なら……試してみましょうか?」


 特攻。

 青衣は直線上の相手に一瞬で間を詰めると同時に、身を屈めて右手拳を引く。狙いは鳩尾。


 スタイルをいきなり変えたことに疑問が隠せないソウミだが、今は考察している余裕などない。攻撃がすぐそこにまで迫っているのだから。

 しかし狙いはバレバレのため、最小限の動きで避けてからカウンターをかませばいいだけ。正直、今の青衣のやっていることは、力に溺れた脳筋がやりがちな戦法だ。愚の骨頂と言わざるを得ない。


 ソウミは精神を集中させる。

 すぐには次の動作に移れない所まで相手を拳を引き付け──ソウミの体が吹っ飛んだ。


 お腹に抉られるような、背中に叩きつけられたような、二重の痛みに板挟みにされるも……ソウミは、お腹も背中も擦ることが叶わなかった。

 ただ歯を食いしばり、首を上げて、青衣を睨むことしか出来なかった。


「言ったでしょ? 術中だって。私、嘘はつかない主義なのよね」


「な……にを……」


「深層波術の累積、って言えば分かるかしら?」


 波術は、重ねがけできる。

 体力を削ぐのは、体力依存性の波術専用抗体である消波を減らすための手段でしかなく、基本的には自分の送った波が消波を上回ればそれで問題はない。

 つまり、相手に気付かれずに自分の波を送り続ければ、体力を減らさずとも効果が発現するのだ。


 しかし厄介なのは、「相手に気付かれずに」という部分である。

 普通に送ると副波が生じるため、その時点で相殺されてしまう。その点、深層波術は副波を抑えた波の送り方であるため、重ねがけにはもってこいの手段だ。

 しかし、一度に送る波を多くしてしまうと副波も比例して大きくなるため、抑え込むのが困難になる。そのため、バランス調整が必要となり、隠密性と引き換えに時間がかかるのが難点だ。


「何の余裕か知らないけど、お喋りに興じてくれたのは嬉しい誤算だったわ。おかげさまで、その間ずっと『縛』の波術を送ることができたのだから」


 ソウミは、自ら青衣に話を振った。

 そして、長引かせたのもソウミ自身の行い。


 確かに青衣はソウミが話しかけた時点から深層波術を行っていたが、それはあくまで保険のような役割でしかなく、青衣としては、とっとと話を切り上げて決着をつけたかったのだ。

 回りくどいことが嫌いなのではない。仲間をいつまでも待たせるわけにはいかないからだ。


「表情筋とか瞬きまで止めたら怪しまれるから、首から下に限定したけれど」


 首から下のみ金縛り状態。

 だからソウミは、青衣のあんな単純な攻撃すら避けられなかったのだ。


「とにかく勝負ありね。ほら、うつ伏せになりなさい」


 仰向けに倒れているソウミに近づき、半ば無理矢理転がすと、青衣はソウミの両手を一つにまとめ背中の方へと下ろし、結束バンドで縛り付けた。


「生け捕り完成。とりあえず、人質になってもらうわ」

朱音おばかちゃんの第一印象ふぁーすといんぷれっしょん・その16


階段上る場面にて

(倒して持ち帰る、倒して持ち帰る、倒して持ち帰る…………)


fin.

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