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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
69/78

55部目

 「……なぁ、これは?」


「……説明し忘れたってところね。預かるわ」


***


 オオカから奪った鍵で扉を開け、朱音は一つ前の部屋、つまり扉の間に戻る。

 誰もいないことを確認してから、無防備にも床に寝転がる。こうして動かないでいると、部屋自体が動いているということが全身で感じられる。これは何か作業しながらでは気付きにくい。震度1の地震と大差ない。


 大の字というのは、単純に疲れをとってくれそうな姿勢だ。起き上がりたくなくなるという弊害もあるが、布団やソファーの上でなくても心地がいい。

 ……例え今いる場所が、敵の本拠地だったとしても。


 回転が止まったことを肌で感じとってから、朱音はゆっくりと上半身を起こす。

 これで、唯一鍵がかかっていなかった扉が、オオカと戦った部屋の扉となる。部屋に青衣がいないということはどちらかの応援に行ったと考えるのが普通だが、どちらに行ったかというのは朱音は知る由がない。


(待ってた方がいいのかな……)


 変に動くのは得策ではない。ならば、待ちぼうけをくらっている方がよほどいい。

 絶対戻ってくる。仲間の勝利を信じて疑っていないのだから。


(待ってよ)


 朱音は、座ったまま呆ける。大事なことなので繰り返すが、現在位置は敵の本拠地である。


(あ、そういえば……)


 あの時、青衣には「行き止まり」と口走ってしまったが、何せ何があるか分からない館。オオカを倒した後に部屋をゆっくり探索しようと思っていたのに、あまりにも不完全燃焼な終わり方に気を取られ、すっかり失念していた。


 思い立ったが行動。どちらの扉が来たにせよ、もうこの手には鍵がある。

 朱音はもう一度部屋に入ると、早速壁に手をつき始める。なお、オオカは伸びたままである。


 壁を叩き、床を叩き、壁を押し、床を押し、壁にへばりつき、床にへばりつき、オオカをいじり……。

 そんなことを気が済むまで繰り返し、天井付近を残して朱音の探索は終了。さすがに、一回ずつ飛び上がってまでして天井を調べる気力は起きなかった。時間が恐ろしいほどかかるというのもあるが、そこに体力を使うなら、これからも起こるであろう戦闘のために温存しておきたい、というのが正直な本音だ。人生妥協も必要。


 「何もない」という報告を手土産に、朱音はこの部屋を出ようとする。


(……あれ?)


 ドアノブに手を伸ばして、朱音は一旦止まった。


(さっきと同じドアノブ……)


 それが意味することを察し、朱音は慎重になる。

 扉の間に、誰かいる。青衣が戻ってきたのかもしれないが、敵である可能性も捨てきれない。警戒するに越したことはない。


 ドアノブを握り締めると音を立てずに回し、扉にピッタリと身を寄せる。深呼吸して、カウントダウン。


 3・2・1……。


 ダンッと扉を開くと、驚いたように朱音を見る四つの目。


「なんだ朱音か〜」


 脱力しつつ上がった肩の力を抜くのは悠武だ。


「青衣、悠武の方行ったの?」


「そうね。地下に行ったらたまたま、ってところよ」


「僕も地下で一戦やってて、丁度倒し終えた頃に青衣が来たんだ」


「じゃあ悠武もこれ持ってるってことだよね? 何色?」


 朱音は、やや興奮気味に自分が奪った赤い鍵を悠武の前にちらつかせる。

 しかし悠武は困惑した表情で朱音の鍵を見つめる。吹き出しをつけるなら、「なに? これ」といったところだ。


「あぁ……通りで話が噛み合わなかったわけね」


 しかめっ面の悠武の様子に合点がいった青衣は、今いる扉の間と鍵のことについて簡潔に説明する。


「えっと……つまり、僕が戦った相手も、それと同じ鍵を持ってたってことだよね? そんな説明一言もなかったけど……」


 結論。因縁の相手を前により冷静であれたのはオオカの方であった。


「とんだマヌケもいたものね」


「まーまー、今から行って取ってくれば……」

「それは出来ないんだ」


 「いいじゃん」と楽観的に続けようとした朱音を、悠武はやんわりと否定した。


「ん? どゆこと?」


「私達の目の前で別幹部に回収されたわ。しかも、あの子と同じ手口で消えたのよ」


「あの子って……瑠璃ちゃんのこと、だよね?」


 暗闇後、消失。

 脳内プレイバックをしてもなお、トリックに皆目検討がつかない。

 朱音の質問に、青衣は「そうよ」と短く答えた。


「ごめん。僕が気づいてれば……」


「悠武は悪くないから! あ、そだ。青衣、リモコン持ってるよね?」


「ええ、持ってるけど……」


「スイッチ押してくれる? 元に戻ったときのこの扉の先が知りたい」


 朱音の拙い説明の意図を正しく汲み取り、青衣は了承一つでリモコンのスイッチを押した。

 部屋が回りだす。微弱な振動の有り無しを足裏で感じ取り、三人で停止を確認してから例の扉へ。


「鍵はさっき開けたから開いてると思うけど……」


 赤いドアノブを回し、そっと、数ミリ程度手前に引く。

 突っかかる感じはない。オートロックはされていないようだ。


「いくよ」


 青衣と悠武は、扉の両脇を挟む形で壁に張り付く。


「せーのっ」


 朱音が一気に扉を引き、ドアノブ側にいた青衣が覗く。すぐに悠武と朱音も回り込む。


「えっ……」


「これって……」


***


 「ね〜く〜ろ〜まんさ〜!!」


 気抜けするような声と共に、襲いかかるは人の波。

 体術と波術を駆使しつつ、タイク戦での疲れに鞭を打ち、目の前の溢れんばかりの団員を秀虎は処理する。


 一つ前の部屋に戻ろうとして扉を開けたらこれだ。咄嗟に部屋中央付近まで飛び退いたらなだれ込んできた。

 確かに、一つ前の部屋の、扉の目の前の両階段からは人がうじゃうじゃ出てきていたが。一つ前の部屋は人で埋め尽くされていたが。


「お前誰だよ!?」


 一番に注目すべきは、先程の声の主。そこに疑問を持たない人はいないだろう。

 そんな秀虎の叫びも、人波に呑まれてかき消える。当然、相手からの返事はない。

 女であることは、声質から分かる。しかし、顔は見えないは表立たないはで、めっきり正体不明。


「さぁみんな〜、どんどんやっちゃって〜!!」


 合図と共に押し寄せる勢いを増す。秀虎への攻撃も激しさを増す。

 多勢に無勢。下っ端クラスでも、操られた状態で団結すればどんな強者でも見事に追い込めるのだなと、発見させられる。


 処理が追いつかなくなっていったのか、後ろは取られるまいと前で食い止めていたのにも関わらず、秀虎の横をすり抜けて後ろに回り込む団員数が徐々に増える。

 秀虎は四方八方から団員に囲まれ、もう姿が見えない。部屋は人でギュウギュウパンパン。満員電車の混雑さの比にもならないくらいに。


「ん? 入れなくなっちゃった?」


 とうとう入り口で、団員同士のおしくらまんじゅうが始まる始末。

 両脇の階段から出てきている二人が、自分の体をねじ込ませようとして、押しては跳ね返される。


「ん〜……やりすぎたかなぁ……? みんなが窒息死しちゃうよね〜?」


 入り口からあぶれかかっている団員の様子に、「みんなちょっと待って」と階段待機組の団員達に指示し、俯き加減で顎に手を当て独り言。

 その後、グーとパーにした手をポンと打ち合わせ、「よし、確かめてみよう!」と晴れやかに宣言すると、大きく息を吸い込む。


「お〜い、生きてますか〜? 生きてたらお返事くださ〜い」


 定員オーバーの部屋に向かって目一杯大声を張り上げる。が、果たしてそれは目的とする人物の耳に届くのか。

 すると、隙間がなくとも辛うじてワラワラ動いていた団員が、急に動きを止める。バタバタバタッという連続音を耳に留めたときには、先程まで埋め尽くされていた部屋の視界が開けた。


「わりぃな。足場がないんだ、許してくれ」


 寝ている団員に背中を踏んづけたことの謝罪をいれると、「で」と調子を取ってから、秀虎はやっと一つ前の部屋の床を踏む。


「返事、これでいんだよな?」


 後ろ手で扉を閉め、鍵も閉める。何の意図か、ここの扉は両方鍵穴式ではない。

 敵である目の前の女子は、意外そうに目を丸くしていた。まさかあの密集地帯から脱出できるとは思っていなかったようだ。


「さっき無視されたからもう一回聞く。お前、誰だ」


 お昼寝中のネコを想起させる容姿は、例え身長が平均的でも印象が覆ることはない。

 ただ立っているだけでもこちらの戦意を削ぐ穏やかさは持って生まれたものであり、また悪党とは対極にあるもの。柔らかな口調は、嘘も皮肉も言えなさそうだ。


紫光しこうリーダー・シイト!! トラトラ倒してお昼寝するの!」

朱音おばかちゃんの第一印象ふぁーすといんぷれっしょん・その13


オオカをいじる場面にて

(コマネ○! うん、良い出来!)


fin.

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