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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
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53部目

明けましておめでとうございます。

2019年、初投稿です。

 (一旦戻ってきたはいいけれど、どっちに進むべきかしら……)


***


 不向き宣言と勝利宣言を同時にされ、タイクは返す言葉を見失う。

 秀虎の勝利宣言はどうでもいいとして、今までの努力を全否定されたうえに啓蒙を施されようとしているなど、疑問と使命感をまとめて怒りに変えるのには十分すぎた。


「……なら是非教えてもらおうかな。舞波歴の長い先輩に」


 それでも、全てを感情任せにせず、ある程度まで抑え込んで皮肉を言う。

 口角を上げてヘラッと笑い、背後には憤怒のオーラを纏って。


 その漲った姿に秀虎は満足そうに笑みを深めると──タイクの視界から消えた。


 しかしタイクは行動予測と気配察知を同時に処理すると、振り返って秀虎の左拳を自分の右掌で包み、力のままに押し返す。

 秀虎が二、三歩下がるタイミングで一気に間合いに踏み込み、頬、顎、肩、腹、ランダムに拳を叩き込む。

 対する秀虎は両腕でガードしつつ、隙をみてはガラ空きだと言わんばかりに反撃に出る。が、九割近くは防がれる。


「こんな感覚初めてだ!! 相手の動きが手に取るように分かるなんて!」


 自分と似ている。だからこそ、相手が次にどこを攻撃してくるかが考えずとも分かる。

 味わったことのない感触に興奮と優越感が顔を出すが、逆を返せば秀虎にも同じことが言えるということは、しっかりと頭の片隅にあった。だからこそ、油断は禁物。


「確かに、こんなことは滅多にねぇな」


 モノマネ、ではないのに鏡のような存在に出会える確率は低い。それこそ、人のスタイルは十人十色なのだ。生涯を通じても、多くても片手で足りる。

 ゆえに、高揚感が湧き出てくるのは致し方のないことであり、もっと違う出会い方をしていれば、もっと時の流れが遅ければと願わずにはいられなかった。


 現実は、いつでもそこに冷や水をぶっかけてくる。


 最初は守りに入っていた秀虎だったが、徐々に徐々に攻撃の手数が増えていき、今では最初と形勢が逆転している。


 つまり、タイクが防戦一方なのだ。


「どうした? さっきから攻撃してこねーけど」


 余裕をなくした表情のタイクに、秀虎の容赦ない連撃が打ちつける。

 次第に秀虎の動きについていけなくなり、それでも抗おうとしてもつれたところに、秀虎の蹴りがタイクの脇腹を綺麗に抉る。

 再び壁に吹っ飛ばされるも、もつれからの立ち直りが間に合わずに受け身をとり損ね、十全の衝撃を背中からその身に受ける。


 尻もちをついたもののすぐに立ち上がろうとするが、それよりも早く秀虎の左手がタイクの額あたりにかざされた。


「チェックメイト」


 ゼロ距離で複雑な波術を打たれては、相殺は間に合わない。先の戦闘での体力消耗により、抗体である消波の数も減っている。

 防ぎようのないこの状況でどちらに軍配が上がるかは、火を見るよりも明らかだ。


 タイクは目線だけで秀虎の手を見止めると、一息ついてから「降参だ、負けたよ」と小さく両手を上げる。


「もう足掻かない。約束するよ。だから最後に聞かせてほしい。僕のどこが舞波に向いてないの?」


「そりゃ……俺に負けたから?」


 「それじゃ納得いかないよ」とタイクがクスッと笑うと、秀虎もフッと笑って「冗談だ」と返す。


「最後の方、俺についていけてなかったろ?」


 タイクはその意味を咀嚼すると、思い出すようにして考え込む。


「あ〜……うん、そうだね。余裕なかったし手一杯だった」


「あれ、お前に気づかれないように徐々にスピード上げてったんだ」


 秀虎が形勢逆転できたのは、秀虎の攻撃速度がタイクのそれを上回ったから。たったそれだけだった。

 秀虎は、タイクのキャパオーバーを狙っていた。


「舞波の基本は攻撃力と機動力。つまり、パワーとスピードだ。お前はパワーはあったけど、スピードが足りなかった。それも攻撃時のスピードだ」


 秀虎は、なにもタイクのスピード面全てを否定しているわけではなかった。

 むしろ、防御面においてはほぼ完璧に秀虎についていけていた。最後の最後はタイクの防御速度をも秀虎は上回っていたが、つまり、攻撃を繰り出すときの速さが足りなかったのだ。


 だが、舞波流を極めるのであれば、それは致命的な欠点であった。


「俺もまぁ……そこまで速くはねぇけど、それでも防御より攻撃の方が速い自信はある。舞波の奴らは大体そうだ」


 秀虎の解説を聞き終えると、タイクは腑に落ちた様子で「そっか〜……」と呟いた。どこか、憑き物がとれたようだった。


「最後に俺からも一つ聞かせてほしい。なんでこんな組織の幹部なんてやってんだ?」


 どう見ても、安易に道を踏み外しそうな奴には見えない。

 瑠璃への執着を除き、秀虎が最初にタイクに抱いた印象は、「常識人」。穏やかで、頭の回転も良く、口達者。簡単に言い包められはせず、ちゃんと保身に走れる人が、なぜこのようなリスキーなことをやっているのか。秀虎には不思議でたまらなかった。

 悪党の考えを理解する気は毛頭ないが、悪党の動機は知っておく必要がある。これが、秀虎のモットーだ。


「リーダーに恩がある。で、リーダーの人柄に惚れている。これ以上の理由が必要?」


 人を馬鹿にしているわけではない、本心からの回答。

 それが読み取れたからこそ、秀虎はこれ以上を突っ込まなかった。


「でも強いて挙げるなら……源極の呪縛を解いてくれたから、かな」


 そこには、道化師の仮面を脱いだ、年相応の安穏さに身を任せる少年の姿があった。


「……鍼射しんしゃたん


 脳内のある一点が突き刺されたような感覚が襲う。

 タイクはその擬似的な衝撃に一瞬目を見開いたが、その後ゆったりと目を閉じて項垂れた。


「お前とは違う形で対戦したかったぜ、タイク」


 受波を確認してから、秀虎は鍵を奪いとった。


***


 「攻略法だぁ? どーせブラフだろ」


 さらさら相手にする気もない様子で、コトウは嘲笑する。


「断言してもいいよ。ブラフじゃないって分かったときには、君はもう負けている」


 対する悠武も強気だ。否、確信、なのだろう。

 敗北を宣告されたことに対してなのか、コトウの片眉がピクッと動く。ブラフだと信じ切っていたとしても、やはり許せない言葉というのは存在するようだ。


「そのスタイルの弱点を、把握していないみたいだからね」


「ハッ、お前バカ? それって、お前の作戦が読めたら弱点も自動的に分かるって言ってるようなもんじゃねーか。気づいてねーの?」


「あれ? ブラフじゃないって信じてくれた?」


 軽やかに笑う悠武に対し、コトウが舌打ちをしますます苛立ちを募らせる。

 コトウは暗に、悠武の攻略法に対して警戒と脅威を感じているということを示してしまった。墓穴を掘ったのだ。


「ほら、僕との再戦、楽しみにしてくれてたんでしょ? 続き、やらなくていいの?」


「んな言われなくても──」


 コトウの地を這う声を残し、二人同時にその場から姿を消す。

 すると、次に二人がいたのは部屋の隅。と思ったらお次は反対側の壁際付近。


 コトウは攻撃の手をやめない。悠武も防御に徹する。ここまでは何も変わらない。

 相違点は悠武の可動域。つまり悠武が、さながら瞬間移動を繰り返すかのように、この地下部屋を縦横無尽に動き回っている。それをコトウが追いかけながら攻撃をする、といった形だ。

 時には地に足着けて、時には空中にて、縦に、横に、斜めに、直線的に、曲線的に、目まぐるしくランダムに位置を替えていた。


「なんだぁ!? 逃げるが勝ちってか!!? 随分お粗末な攻略法だなぁ!!」


 気迫と怒りと侮蔑を悠武に向けることで、コトウはさらに自分を奮い立たせる。


「そうだね。僕は逃げてばかりだね」


 熱気に容易に呑まれる薄い声でそう告げるが、決して自嘲は感じられない口ぶりだった。

 むしろ煽りさえ感じるもので、逃げの行動をやめる気配がまるでない。延々続けると、言外にそう示しているかのように。


「ザケんなテメェ……」

「ふざけてないよ」

「いつまで続ける気だ」

「君が見破れば続かない」


「見破るもクソもねーだろうが!! テメェは逃げてばかりじゃね──っ!」


 それは、突然だった。

 右手の拳を引いたコトウが振り抜く直前で硬直し、そのまま両膝から地面に崩れ落ちた。


硬接かたつぎ


 コトウが立ち上がるよりも早く悠武の波術が決まり、コトウは動きを封じられた。膝立ちの状態のまま、荒い呼吸を繰り返す。


「途中から波術で自分を誤魔化してたみたいだけど、それが君の限界だよ」


「クソッ、いつの間にっ……」


 目の前で自分を柔らかく見下ろす悠武を、コトウは憎々しげに睨みつける。


「あんなに激しく動いてたら、そりゃ疲れるよね」


 待っていたのはガス欠。

 コトウが疲れを飛ばすために自分自身に施した波術ドーピングは、時期を見計らって悠武が一気に相殺。いきなりのしかかってくる重みに耐えられなくなり、コトウは地に膝をついた。


 二重に相手を動けなくさせれば、あとは悠武の思うまま。


「あの手のスピードバトルは、もっと体力をつけてからやらないと。普通はもたないよ」


 最終的には追い詰めたものの、悠武がかつて、全く同じ方法を用いても通用しなかった、あのスピード自慢の例外的存在以外は。


「じゃぁ……逃げてばっか、いたのは……」


「君の体力を早く減らすため。振り回させてもらったよ」


 悠武は、逃げ回っていたわけではなかった。

 動きを増やせば、その分の体力も使うことになる。当然の理論だ。

 ましてや悠武のスピードも決して遅いわけではないので、追いかけるのにも相当の労力を費やしたはずだ。


「全部っ……お前の……ての……」


「どう? 僕のマグレに二回も負けた気分は」


 ちゃんと喋るのもままならないほど細かい呼吸をするコトウに、悠武は嫌味なく爽やかに笑うとゆっくり近づく。コトウの両目に悠武の右手がかざされた。


瞑酔めいすい


 脳内がクラッと揺れ、コトウの上半身が前に倒れゆく。

 うつ伏せ状態で眠りこけるコトウを確認すると、悠武はホッと一息をついた。


「悠武!」


 と、味方の声が聞こえる。階段の方からだ。


「青衣!」


 声の出処に目をやり、悠武はその名を呼んだ。

朱音おばかちゃんの第一印象ふぁーすといんぷれっしょん・その11


扉の間調査中


(鍵穴から向こう側みえないかな〜)


fin.

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