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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書1~編入生~
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3部目

 編入三日目、今日から通常授業だという。


(通常……って、何するんだろう)


 「基本、座学はない」との梅崎の言葉を思い出す。座学がない時点で、果たして通常と言えるのだろうか。


(普通の学校じゃないのは分かってたけど……)


 未知数の世界に、足取りは緩慢になるばかり。

 それでも義務感と使命感から、一歩一歩と着実に進んでしまっている。


 教室に向かい、後ろ扉を静かに開ける。


「あっ、おはよう! 瑠璃」


「おはようございます。えっと」

「智佳だよ」


「……すみません」


 「ひっど〜い」と冗談交じりに返す智佳は、自分の椅子を後ろに向けて瑠璃の机に頬杖を付いていた。


 机の並びは、縦三列・横三列。席は黒板を正面にした時の左側(窓側)の一番前から学年順位順。すると、 瑠璃の席は廊下側の一番後ろということになる。

 日差しが入ってくる窓側と違い、まだこの時期は少し肌寒い。


 ちなみに、智佳は瑠璃の前の席。


「おはよう瑠璃さん。私のこと、覚えてる?」


「ちょっと待ってください。今頑張って思い出します」


 狙ったかのように出される「私の名前は?」クイズに、瑠璃は頭を抱え、隣の席の信乃は上品にクスクスと笑った。


「え~っと、確か二文字でした」

「当たり」

「最後に『の』がついていた気が……」

「うんうん、その調子」


 信乃が優しく後押しをしてくれる。


 正直、喉まで名前が出かかっている。

 だが記憶がそれを遮る。

 それがひどくもどかしい。


 あの、いの、うの…………


「あっ、『けの』さん!」

「誰!?」


 それまで楽しそうに静観決め込んでいた智佳が、表情を一変させ声をあげてつっこむ。


 「も~信乃だよぉ~」と智佳に訂正され、「あらら、そっちいっちゃったのね」と信乃が眉尻を下げて微笑む。


 同時に、冥奈が前から教室に入ってきた。


「よしっ、全員いるね。じゃあ第四体育館に移動して。新学年テストやるよ」


 「あれか〜」や「やだな〜」というぼやきが教室内を飛び交うが、全員しっかり腰を上げる。


「瑠璃さん、私たちも行こう?」

「えっ、ですが、テストって……」

「大丈夫だって。大したもんじゃないよ」


 礼羅が瑠璃の背中をポンと叩き、「見てれば分かるから」と励ましてくれる。不安材料を取り除けるに至ったかどうかは別として。


 瑠璃はクラスメイトの女子四人と一緒に、外にある体育館へと向かった。


 玄関のすぐ外から校舎裏に続く地面は舗装されており、外履き・中履き両方可の領域になっている。

 体育館は校舎裏に四つ、二・二で並んでいる構図だ。

 場所的に生徒から「行くのに手間がかかる」と不評だが、外部に一切の情報を漏らさないという学校側のスタンスらしい。

 敷地面積の半分以上が体育館で占められており、校舎に近く且つ右側にある建物が第四体育館、奥の左側にあるのが第一体育館。

 基本的には第一体育館しか使わないが、他のクラスと被ったときは秘密主義の都合上、下位クラスがより番号の大きい体育館を使う決まりとなっている。


「あれって何ですか?」


 瑠璃が気になったのは、体育館のさらに左に建つドーム状の建物。


 見た目は東京ドームのミニチュア版だが、外見だけでも中身の広大さが容易に想像できてしまうほどの存在感だった。


「あぁ、バトルドームのことね。バトルをする施設って聞いているわ」


「聞いている?」


「ええ。中に入ったのは入学式の日のたった一回だけ。それ以来は全く」


 説明をしてくれた孝子が、残念そうに首を振る。

 大袈裟に言っているわけではなく、孝子達は本当に、9年間も在籍しているのにも関わらず、たった一度しか中に入っていないのだろう。


「でも、確かにバトルはしてたよね、あの時」

「あ〜、あれあたし今でも覚えてるよ〜」

「私も!」


「はいはい、その話は長くなるからやめ」


 なぜか声を弾ませ興奮気味になっていた三人を孝子が強制的に切り上げ、一行は第四体育館に足を踏み入れた。


 大型の機械が4台横に並んでおり、その真正面のかなり離れた場所に、的らしきものが4つ設置されている。


「では、まずは男子から。説明は……いらないね」


 小さく笑う冥奈に促され、男子四人が機械の前へ。

 各々利き手を前に出し、センサー部分に開いた掌をつける。機械が作動し、センサー上部にあるA4サイズのスクリーンが発光する。


 ピーと機械音が鳴り響き、合図を告げた。


「的打ち、始め」


 スクリーンに文字、的にはそれぞれ不定期間隔で緑色のマルが表示されていた。


 スクリーンを観察すると、ミンヘンバクレイダツの五種類の文字が一文字ずつ、やがて二文字ずつに変化していき、文字を出してから消えるまでの速さも速くなっていく。


「あっ」


 表示文字数が三文字になってから少しして、悌二が声をあげた。


 的を見ると、赤色のバツマークが表示されていた。


 そのまま機械から手を離した悌二は「ミスった~」とぶーたれながら、女子五人の元へタラタラと戻る。


「ねぇーもー聞いてよ! 文字見間違えた!」


「ハイハイ。ドンマイだったね」


 自身の失態を嘆く悌二を、礼羅が軽く受け流す。その横で信乃が「お疲れ様」と悌二を労う。


「悔しいからあの三人呪ってやるぅ~」


 明らかに悌二の呪いのせいではないが、その後仁・義明の順にリタイアしていき、四文字中盤に差し掛かったところでようやく、忠の的にバツがついた。


「お疲れ様。鈴川さんは説明しないといけないから、四人、行って」


 自分の番で説明がなされることについて、瑠璃は幾分安堵した。

 同時に、これから自分が行うであろうことを大まかに理解し、息を詰め、身を硬くした。


 ──これはまずい、と。


 指示に従い、入れ替わりでテストに挑む女子四人を、次は男子四人と一緒に見届ける。


 女子陣が、手をセンサーにセットした。


「的打ち、始め」


 合図と共に、再び繰り返される文字とマル。


 無言の時間が数分続き、信乃・智佳・礼羅の順に、そして四文字前半になったところで、孝子が終了となった。


「お疲れ様。最後は鈴川さんね。こっち来て」


 瑠璃は声に誘われるがままに、冥奈の近くの機械に立った。


「さっきも見てたから多少は分かったかもしれないけど、このスクリーンに基本の単波五種のどれかが表示されるから、文字が表示されてる間にあの的に指示された波を当てる。基本はそれだけ」


 波術の性質上、目には見えなくとも最短距離で対象に必ず届くことが知られている。

 つまり、相手や第三者からの干渉がない限り、波術の軌道が反れることは絶対に起こり得ない。


「二文字以上になったときだけど、文字が縦に並んだら上から順に単波を、横に並んだら表示された全ての単波を合わせた合成波を当てる。それで、普通の学校は二回なんだけど、的にバツが表示されたらウチは一回でおしまい。文字の表示時間はだんだん短くなるから、気を付けてね。質問は?」


 「大丈夫です」と、その返事が嘘と疑われても仕方のない、取り繕った表情を瑠璃はしていた。

 対する冥奈はちゃんとそこに疑問を抱くものの、やらない訳にはいかない事項だったために、様子を窺いつつ「じゃあ、ここに手を置いて」と準備を促す。


 瑠璃が手を置くと、前にやった人達と同様に機械が作動する。


「的打ち、始め」


 こうして、生徒八人と先生一人に見られながら、瑠璃のテストが始まった。

 全員、史上初の編入生の実力には、何を差し置いても興味があった。


 ──しかしそれは、驚くほど早く終わりを迎えた。


「うそ……」


 突きつけるようにハッキリと光る赤いバツ。智佳の呟きが、瑠璃の悲惨なテスト結果を物語っていた。


 そこに居合わせた全員が揃って拍子抜けし、言葉を失うという状態だった。


 これには、いくら最下位クラスの担任でも見過ごせないものがあった。

 一早く我に返り、冥奈は瑠璃の元へ。


「鈴川さん、今、打たなかったよね?」


 苦い顔で「はい」と、瑠璃は強張った感じで頷いた。


「単波、打てるよね? もしかして私の説明が悪かった?」


 瑠璃は答えない。

 答えられない。答えてはいけない。


 とるべき正しい行動を瑠璃はしているはずなのに、それは周囲の無理解を煽るだけ。冥奈の顔も不安に染まる。

 それでも瑠璃は、口を引き結び無表情を繕うことしかできなかった。


「あぁ、一足遅かったか」


 不意に、後悔を孕んだ貫禄のある男性の声がした。

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