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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
32/78

20部目

長らく投稿が途絶えていたこと、心の底から謝罪致します

 「え? 何で礼羅?」


 義明の口から唐突に出てきた、この場にいない親友の名に、智佳が即座に反応する。

 確かに、今ある状況と礼羅には何の接点もない。強いて挙げるなら「連れ去られた場所」ぐらいのものだろう。


 だが、義明は知っている。この場にはいないが、瑠璃も知っている。


「あいつ、本拠地が高確率で都庁付近にあることを割り出していた。書類としてまとめ次第、配るところだった」


 そう。礼羅は独自に調査を重ね、地道に解析を行い、有力性の高い情報を結論として出していた。


「初耳なんだけど!? 何でヨッシーが知ってんの?」


「……まとめの作業を押し付けられた」


 押し付けられた時の状況が蘇ったのか、軽く怒りが込み上げそうになっている義明の様子に、忠は「なるほどな」と苦笑しつつ納得を示した。


「とにかく、鈴川が北向きに進んだら礼羅の仮説と一致する」


「北な。オーケー」


「えっ? 北ってどっち?」

「もうお前は黙れ」


 画面に出ている地図は、当然最初から北が上の表示となっている。まぁ一般常識である。


 現在瑠璃は西向き、つまり都庁へ近づく方向に歩いている。人も車も多いが見失うほどではない。

 駅から出た時は小さめに映っていた都庁が徐々に大きさを増し、画面に映り込む時間も長くなっていった。


『4班・5班、到着しました』

「よし。都庁へ急行だ。ターゲットを挟み込む形で尾行する」

『了解』


 便りがないのはいい知らせなのか、1班から3班の連絡は、駅到着以来一切ない。しかし、順調ならばそれでいい。

 4班・5班も、別ルートから都庁へ先回りしているはずだ。とはいえ、今の瑠璃が遅いだけで、普通の人が普通に歩いても瑠璃より先に都庁に着く。時間はそんなにかからない。


『4班・5班、都庁に到着しました』

「そのまま待機」

『了解』


 これで、瑠璃の尾行は盤石なものとなった。

 一班たりとも欠けることなく、また撒かれることもなく、描いた理想以上に。


 瑠璃が少しずつ都庁へと歩を進める。


「まさかだけど、都庁の中なんてことは……ないよね?」


「さすがにそれはないと思うけどな」


「仮にあったとしたら、都庁の警備の方が問題だ」


 確かに一般人が自由に入れるスペースはあるしちょっとした店もあるが、悪徳商人を見過ごしても怪しい動きを見逃すのは、警備体制がかなり杜撰といっても過言ではない。

 仮に本拠地が合法的に都庁内あったとしても、勝手に地下空間を造っている時点で既に犯罪だ。都庁側がそんな許可をやすやすと出すわけがない。違法空間に決まっている。


「でももうほとんど都庁だよ?」


 監視カメラ映像では、もう瑠璃と都庁しか映っていない。

 画面を指さして純粋に事実を述べる智佳に、忠は先程の自分の発言に自信を失くしかけ、礼羅の仮説をほぼ信じきっている義明は渋い顔をした。


 もう都庁は目の前。あと3歩踏み出せば敷地に入る。

 黒い道路から白線の内側に入り、もう1歩……。


「あっ、曲がった」


 のところで、瑠璃は都庁を左手にして歩いた。

 それも道なりに、しばらく様子を見ていたが、どこも曲がらずにずっとまっすぐ。都庁と瑠璃の距離が少しずつ開いていく。


「なぁヨッシー、この方角って……」


「ああ。紛れもなく北だな」


 GPS上でも、上へ上へと動いていく様子が確認された。

 義明は、安心したような満足したような、例えるなら幾度となく間違えた難問にやっと正解の判を押された瞬間の気分を味わっていた。義明の性格上、大っぴらなリアクションはとらなかったが。


「てことは、礼羅の仮説が当たったってこと?」


「まだ断定はできないが、ほぼ当たりだ」


 画面の瑠璃が向きを変える気配はない。なのに景色は都会の中心にあって都会の喧騒を外れている。


 いかにも、と一体誰が思わないのだろう。


「なんていうか……」


「さびれてるね」

「俺そこまで言ってないからな!」


 瑠璃は歩く。舗装されたただ黒いだけの道を。総括して灰色を印象づける建物の間を。涼しさではなく寒さを植え付けるような日影のみの空間を。


 完璧すぎるリズムを崩さずに、ただ歩くだけ。


 どこまで行くのだろう。そもそも目的地の概念が存在しているのだろうか?

 迷っているのだろうか? いや、正確には迷わされているのだろうか?


 監視カメラ映像には一切映り込まないが、連絡のない尾行班の上位クラス達も、いい加減焦れているはずだ。

 遅い。遅い。まだ着かない。体内時計が狂いそうだ。


 誰も本物の時計を見ようとしない。映像に集中しているというのもあるが、本来を知って「まだこれだけしか……」となるのが嫌だからという感情優先の理由が招いた、一種の我慢大会である。


 梅崎は無線を握りしめ、冥奈は緊迫した面持ちで、義明は腕を組み観察するように、智佳は飽き始めたのを自制しだして、忠は無表情で画面を凝視し……。


 瑠璃が歩く。

 瑠璃が歩く。

 瑠璃が止まる。

 瑠璃が……止まった?


『こちら1班。ターゲット、静止しました!』


 久方ぶりにも感じられる変化に鬱屈したものがはちきれたのか、強い語調で報告が入った。


「ああ。見えている」


 信号や電車待ち以外で、初めてはっきりとその場に立ち尽くした。

 全てにおいて直しようのない、綺麗な「気をつけ」だった。


 数十秒経った後に、瑠璃は90度左を向き、そのまま……。


『ターゲット、建物内へ入っていきます。指示を』

「しばし待て。ちょっと考える」


 梅崎は一旦無線を切り、一呼吸置いてから「どう思う?」と、この場にいる全員に意見を求めた。


***


 入ってすぐ、階段だった。

 下へ下へと続く、長そうで深そうで暗そうな階段。電気は一切点いていない。


 しかし瑠璃は、「怖い」とも「危ない」とも思わない。


 建物のドアを閉めると、完全に光が遮断される。目には物体の影形すら認識できず、本当の意味での、暗室。

 一つ踏み外せば大怪我以上は確定事項。ガイドとなる棒も持ち合わせていない。


 それでも瑠璃は、光を取り入れようとも慎重になろうともしない。


 躊躇いもせずに降りていく。それも、歩いているときと同じリズムで。

 手すり。そんなものはなかったし、掴む必要性もなかった。

 どちらかといえばなかなか急な階段だ。一段一段が深い。通常の環境下でも、足元を見ないで降りるのはそれなりの恐怖心がつきまとう。


 瑠璃は、前を向いたまま。

 初めて降りる階段なのに、深さや踏み降ろす角度、着地のタイミングを……。


 足が知っている。

 体が知っている。

 脳が知っている。

 全く知らないものを知っている。知っているかのように知っている。習慣がごとく知っている。


 ──この階段を下るための、黄金比率の体の使い方を。


 もう何段下りたのだろうか。そんなことは考えもしない。ただ下りるだけ。

 しかし瑠璃がかなりの段数を下りたことは、音を数えれば分かることだった。この建物内は小さな音でさえよく響く。


 そろそろ階段が終わる。

 なぜ分かったか。知っているからだ。


 着いた。念の為もう一段段差がないか確認しない。

 なぜか。知っているからだ。


 瑠璃は歩き出す。その先がどんな構造になっているか、そこまではさすがに知らない。しかし、ひたすらまっすぐ歩けばいいということを知っている。

 仮に分かれ道が存在したとしてもまっすぐ。もし偶数個に道が分かれていたとしても、迷いなく正解の一本に引き寄せられる。


 今回はそんなに歩きはしなかった。そこで足が止まる。

 止まった先にあるのはドア。丁度、軽く肘を曲げた瑠璃の腕一本分の距離を空けていた。

 もちろん、真の暗闇の中でドアなんて見えたりしないし、距離感なんてもっとよく分からない。しかし瑠璃が軽く肘を曲げた状態で腕を伸ばすと、ドアノブが掴めた。


 脳が開けろと柔らかく命令してくる。

 腕も、足も、体も、そこに疑問の余地など一切なく従う。


 ドアを開けると、薄明かりの点いた部屋があった。この建物内初めての光だ。

 明かりの点いた真四角なそこそこ広い部屋。床・壁・天井・電灯、あと強いて挙げるならドア以外、この部屋を構成している物は何一つ存在しない。倉庫を連想させるような部屋だった。


 ドアを閉め、部屋の中心へと向かう。

 中心で足を止めると、足元に一枚の、メモ用紙程度の紙が二つ折りにされて置かれていた。


 膝を曲げて屈み、その紙切れを拾い上げる。また立ってその紙を広げる。


「東志波だ!! ……って、瑠璃ちゃん!?」


 Aクラス四天王が一人・朱音の率いる班が時間差で同じ部屋に突入したのと同時に、瑠璃は波術から解放された。


***


「とうだいしたくらし?」


 建物内の調査そっちのけで瑠璃の相手をしてくれている朱音が、瑠璃がメモに書かれていたことを読み上げる。その言葉を知らないのがバレバレだ。


「灯台(もと)暗し、ですよ」


「何それ? 暗号?」


「ことわざです。確か、『近くにあるものは見つけにくい』とか、そんな意味です」


 朱音の班の手引で地上に出た瑠璃は道の隅に場所を移し、尾行されていたときの様子や現在位置などについて、朱音から一通りの話を聞いた。

 瑠璃が建物に入ったあと、梅崎の指示で5分は待機していたらしい。しかし5分以上しても出てこなかったため、突入の指示が下りたとか。つまり、瑠璃は建物の入口からあの部屋まで5分近くかけて移動していたという計算になる。

 あの部屋以外、電気は通ってなかった。だが実働部隊である上位クラスは携帯ライトぐらいは常備しているとのこと。そのおかげで怪我人なく、今も捜索できているだとか。


 西日が強く射し込む時間帯に差し掛かるのをみて、随分と遠くに来たものだと瑠璃は実感した。最後に太陽を見たときは、もう少し高い位置にあったような気がする。


「近くにあるもの? 何のこと?」


「そこまではよく……」


 今回は瑠璃だったが、この紙は明らかに誰かに拾ってもらうために仕込んだものには違いない。

 次の被害者に拾わせるためのものだったのか、あるいは……。


(暗号、か……)


 メッセージともとれるたった5文字のことわざは、筆跡鑑定されないようにワープロの明朝体で書かれている。

 周到なまでに証拠を残さないつもりだろう。おそらく指紋すら出てこない。


(灯台下……灯台がどこか……)


 多分文字通りの灯台ではない。これが東志波へのメッセージだと仮定すると……。


(学校?)


 先程から一緒に悩んでくれている一言も発していない朱音だが、悩んでいるフリにしかみえないのはなぜだろう。


「ん? どした?」


 朱音が耳を押さえて喋った。様子から察するに、無線が入ったのだろう。

 真剣な顔で「うんうん」と耳に入り込んでくる報告を聞き、最後に「了解」と締めくくった。


「撤収だって。建物内には人どころか物すらなかって」


 まさにもぬけの殻。やはりハッキングに失敗したときに、途中から勘付かれたか。あえて泳がせられていたとしたら最悪である。


「あっ、一応それ預かっていい? 大事な手掛かりかもしれないし」


「分かりました。はい」


「サーンキュ!! じゃ、戻ろー!! 瑠璃ちゃんお疲れ〜」


 朱音に人懐っこく肩を組まれながら知らない道を歩く。その後ろから、まばらに人が同じ方向へと続いた。瑠璃以外全員私服。盗み見る限りでは、朱音も含め皆センスがいい。

 建物の中を調べていた人達は大分後の方に帰路に着くこととなる。電車にもよるが、学校に全員集合するのに少し時間がかかりそうだ。


 その建物の真向かいには、色とりどりのパワーストーンや、それらを使って作られたアクセサリーが、ショーウインドウ越しに飾られていた。

ブックマークしてくださっている読者様、評価してくださった読者様、本当にありがとうございます。このお礼は、軽くですが活動報告にしたためさせていただきました。よろしければそちらの方もお読みいただければと存じます

その他の方法で読んでくださっている方々(いらっしゃるのか?)にも、多大なる御礼を申し上げます。

また2週間ほど用事で投稿が途絶えてしまうかもしれませんが、これからもどうぞよろしくお願いします

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