表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
21/78

9部目

 警察庁長官からの告知があったものの、今日も今日とて特に何が起こるわけでもなく、いつも通りの平和な日々。

 編入してから2週間も経てば、もういい加減東志波の授業形態には慣れる。よく使う場所も完全に覚えた。といっても、そんな場所など教室・トイレ・体育館、あと強いて挙げるなら玄関のみ。

 普通に登校して、普通に授業を受けて、日課のように特訓に付き合ってくれて……。


 そして今日、瑠璃は新たな場所に足を踏み入れた。


「ざっとこんなもんだけど、やり方分かった?」


「はい。ありがとうございます」


 放課後特訓後のこと。礼羅に連れらてきたのはパソコン室。

 最新モデルのデスクトップが60台ズラリと並ぶ光景は、「凄い」以外の言葉を失わせるようだった。さしずめ、システムエンジニアやパソコン好きには夢の空間といったところだろう。


 金曜日放課後に開放されているパソコン室。

 いつもなら下位クラスの溜まり場と化してもう少し賑わっているのだが、もう家に帰ったのかたまたま人がいなかったようで、そんな中で瑠璃は礼羅にパソコンの使い方を教えてもらっていた。独占中の空間はなんともまぁ居心地がよく、瑠璃が初歩の初歩から操作方法を聞いても、周りの目がないから羞恥にかられることがない。


 ちなみに、東志波にあるパソコンはどうやら外付けのキーボードもマウスも不要らしい。代わりにパソコンを起動すると、キーボードと中央に太い線の入ったクリックボタンのないタッチパッドが机の上に表示される仕組みとなっている。つまり、机を指で叩いたりなぞったりするだけで操作ができる。


「せっかくだし、軽く何か調べてく?」


「そうですね。少しいじりたいですし」


 瑠璃は早速検索エンジンを開くと、「稜鏡」と打ち込んでエンターキーを押した。即座にズラッと出てくる検索結果。何しろ速い。


「へー、稜鏡って公式ホームページあるんですね」

「マジ!?」


 声を裏返させた礼羅が身を乗り出して瑠璃の画面を覗く。動揺を隠せないまま、瑠璃のパソコンのタッチパッドの中央線をなぞり、画面をスクロールしていく。


「ウソ……。この前家で調べたときこんなの出なかったのに……」


「新しく作ったんじゃないですか? ほら、名前も宗教法人になってますし」


 ページトップの画面右上には、清潔感あふれる書体で「宗教法人・稜鏡」と書かれていた。ホームページだけで判断すれば、誰からどう見てもとても楽しそうな優良にして善良な団体という印象を抱くこと間違いない。


「ポップな感じにしちゃって。怪しさ満点」

「そもそも悪党がホームページ出す時点でどうかと」


 適当に項目を開いては戻すを瑠璃が繰り返し、所々で辛辣な意見を言い合う。


「礼羅さん何調べてたんですか?」


「口コミ。たまーに使える情報あったりするからね」


 しゃべりながらも手は止めず、二人の視線は画面を見たまま。

 最後の項目の一つ前に「スペシャル」と書かれた項目があった。順番に従い、前に倣って、ページを開いた。


「何コレ? PR動画?」


 宣伝のためなのか動画が上げられており、そのいかにもやらせ感のある明るさを再生前の画面から察し、礼羅が顔をしかめる。


「見てみます?」

「いや、いいでしょ」


 瑠璃の提案を真顔でバッサリ切り捨て、「そう、こっちも見て」と自分のパソコン画面を見るように促す。


「この前から信者の目撃情報調べてるんだけどさ、これとか……あぁ、あとこれとかこれ」


 礼羅がピックアップしてくれた写真を順番に見ていく瑠璃。

 稜鏡信者の特徴がある程度公表されたためなのか、どの写真にも、東志波で配付された資料に載っていたのと同じ色付きガラスの首飾りが写り込んでいる。

 カバンにつけたりしてカムフラージュしている信者もいたが、形が特徴的なため全く意味を成さない。建物に入ってから身につければいいものを、おマヌケな信者もいたものだ。


 そのおかげで、こうして共通点探しという名の写真分析が出来るのだが。


「この建物……都庁ですか?」


「あっ、さすがに都庁くらいは知ってたか」

「バカにしてます!?」


 瑠璃の本気の抗議を受け、礼羅が「いや、ゴメンゴメン」とおどけたように笑い流す。


 支給物件にはテレビもパソコンもないという鈴川宅。必要最低限の項目にエアコンは含まれていたが、その2つはどうやら当てはまらなかったらしい。

 しかし瑠璃は「世間知らず」ならぬ「時事知らず」なだけなので、最低限の常識はきっちり抑えている。ただ、クラスメイトからは世間知らずも時事知らずも同じに見えているよう。


「でね、都庁が写ってるやつから人の進行方向と地図を照らし合わせると……こういう向き」


 礼羅がネットで素早く地図を開き、画面上に指を這わせる。


「都庁をこう、北に進んでる写真が多かったんだよね」


 いわゆる、モザイクアプローチというやつ。

 断片的な複数の情報を元に、得たい情報を割り出す手法。


 その情報がどのような意味を持つかはさておき、今回礼羅は、「写真」という情報を使って人の流れを突き止めた。

 アングルは違えど、共通して写っている建物さえ特定できれば、あとは航空写真やストリートビューを駆使して傾向をデータ化するだけ。バカみたいに時間のかかる単純作業だ。


「だからといって、これで場所が割れるわけじゃないけど」


「でもすごいです……これ一人でやったんですか?」


「やっちゃったね〜。やり始めたらなんか楽しくなっちゃって。あっ、でも書類にまとめるのはヨッシーに投げた」

「お気の毒様……」


 押し付けられた仕事を「まとめも自分でやれよ」とブツブツ文句言いながらもキッチリこなしてそうな不憫な姿が目に浮かぶだけに、瑠璃は心の底から義明を労った。


 すると、瑠璃が何かひっかかりを覚えたのか、跳ね返るように自分の画面に目を戻す。

 つられるように礼羅も瑠璃の画面に目を向け、再び公式ホームページの項目を漁りだした瑠璃を不思議そうに見届けていた。


「やっぱり。場所がどこにも書かれてないですね」


「当り前でしょ! そこまでバカとかやめてよ」


「なら、これって何のためのホームページなんでしょう? 信者を獲得するにも、場所が書かれてなきゃ入団も出来ないじゃないですか」


「ん……確かに」


 瑠璃の正論に礼羅が言葉を詰まらせる。

 ウェブ応募で入団というハイテクな手段がとられていない以上、どう足掻いても信者獲得には繋がらない無意味なホームページ。果たして作った意味があったのか。


「ただのイメージアップ、とか?」


「もう手遅れな気もしますけど……」


「じゃあ他に何があるって?」


「分かりません……。でも……」


 瑠璃は再度画面を眺める。


 ポップな色や丸みのある図形を多用した、「宗教団体」という厳かなイメージとは程遠いデザイン。どちらかと言えば、保育園や幼稚園の教室内を彷彿とさせる。

 写真も胡散臭い。ついこの間まで盗賊やってた集団が一変して、慈善活動やボランティア活動などやっている、というよりやれるはずがない。なのに、題目が「実録!活動中の一コマ」となっている。


「深追いはしたくなりますね」


 ここまで意味不明なことをされると、逆に意味があるのではないかと疑ってしまうのが人間の性。特に捜査対象ともなると。


 二人で頭を悩ませながら画面を眺めることしばらく。


「あっ、瑠璃いた!」


 唐突にパソコン室のドアが開けられ、第三者の声が飛ぶ。


「智佳! どうしたの?」


 顔を覗かせたのは智佳。そのまま二人の方へと歩いてきた。


「ヨッシーから瑠璃呼んでこいって言われて。教室に来てだって」


「えっ? 今ですか?」


「なんか特訓で説明しときたいことがあるらしい」


 ちなみに本日の特訓の付き添い人は、統括として義明、指導役で忠、相手役で智佳の三人だった。メニューはもちろん、舞波流だ。


「ヨッシーこっちによこせば早くない?」


「それがさ〜、教室のホワイトボードになんか書いてたんだよね。忠もいるし」


「気合い入ってますね……」


 「分かりました」と了承し瑠璃がその場を立ち上がると、「あっ、パソコン閉じとくからいいよ」と礼羅が気を使ってくれる。


「礼羅も一緒に来る?」


「ん〜、も〜ちょい調べたいから残る」


「オッケー! 瑠璃、行こ」


「はい。パソコン、お願いします」


 こうして、瑠璃と智佳は教室に向かい、礼羅は一人パソコン室に居残るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ