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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
20/78

8.5部目

 「224、218、187、89、73、96、82と。間違いないな?」


 東京某所。とあるお店の地下。

 電灯の極端に少ない暗い部屋の中、円卓を囲み、8人の人間が席に着いていた。


 自分の目の前には、首から下げている大きめの光るガラスを置いている。虹の7色、プラス息を呑むほど透明度の高い無色。


 先程の問いに答える者はいない。つまり、異論なしということだ。


「痛いな……これだけ失うのは……」


 無色透明を前に置いている彼がリーダーなのだろうか。数を確認し、嘆きの言葉を口にした。


「……申し訳ない」


「いや。東志波が出しゃばる可能性を入れなかった俺も悪かった。すまない」


 緑の謝罪に透明も謝罪で返す。


「……音響閃光弾の方は?」


「上々の出来だったわ。共鳴も計算通り。流石ね」


 藍が手元の資料を見ながら答える。凛とした、透き通るような声だ。

 美術館の窓ガラスが割れたのは、共鳴振動を利用したものだった。音響閃光弾は、勿論隙作りの役割も果たしていたが、侵入経路を確保するためのカムフラージュでもあった。


「爆弾や音響閃光弾による身内の被害者もゼロ。これからも使えそうね」


「でもよ〜東志波の奴らには通じなかったんだろぉ? 多分目ぇつけられてるぜ〜?」


 そう反論したのは橙。円卓に両足を乗せ、椅子の前側を浮かせてどっかり深く腰掛けている。


「東志波の科学捜査班は選りすぐりなんだって。今頃爆弾の解析も進められているんじゃないかな」


 黄が橙に続くように補足情報を入れる。

 事実、東志波に強力している科学捜査班は精鋭中の精鋭だ。「就学中の子供の安全確保」を最優先事項とし、正確な情報を提供するためにもより慎重な捜査が行われている。


「……次は何したらいい?」


 緑が短く透明に問う。


「情報はある。けど、東志波の介入を考えると人数が……」

「じゃ〜さ〜、補充しよ〜よきょーそさま〜」


 間の抜けた、甘ったるい声が少しくぐもって聞こえた。先程までずっと机に突っ伏していた紫が、発言をしたのだ。


「あなた、話ちゃんと聞いてた?」


「ん〜、むずかしくてよく分かんない」


 ふにゃふにゃした眠そうな声で藍のたしなめを一蹴し、「でもさ〜」と続ける。


「足りないなら入れればい〜じゃん。ジュースと一緒だよ〜」


「ジュースって……」

「事はそう簡単じゃないのよ」


 あまりにも幼稚な例えに橙が面白そうに苦笑し、藍が反論に出た。


「今回の失態が明るみに出ているのだから、入団希望者数は当然大幅に減少する。けれど、無理矢理入れさせるのは教義に反するわ」


「そっか〜。怖いのはやだけど人は欲しいってやつだね〜。なるほどなるほど……」


 語尾をすぼめながら、紫はまた机に突っ伏してしまった。もはや寝ているのかいないのか。


「怖いのは嫌だけど人は欲しい、か。その通りだね」


「ああ。板挟みだ。手立てがない」


 黄と緑が、己の非力さを嘲笑するように紫の発言を肯定する。

 橙は思考を放棄しているのか、机の上の足で器用に椅子を揺らしながら、即席ロッキーチェアーで寛いでいた。逆に藍は手を顎にあてて打開策を見出しているようだった。

 紫は場違いなほど気持ち良さそうにうつ伏せになったままで、先程から沈黙を貫いている赤と青は不動のまま。


「作戦を立案する」


 唐突に椅子から立ち上がったのは透明──もとい、教祖。

 机の上に置いていたガラスが持ち上がり、少ない光を反射して胸元で神秘的な輝きを魅せていた。


「おっ。な〜んかやらかしてくれそうじゃん、教祖サンよぉ」


「何か思い浮かんだのか?」


「まあな。まだ具体案はまとまってないけど」


「手伝うわよ」


「頼む。タイク・シロク・キタン・ソウミ、一緒に来い」


 教祖の一声で、黄・緑・青・藍がスッと立ち上がり、部屋を出ていく教祖の後ろをついて行った。

 残された赤・橙・紫は、その場を動こうともしなかった。


***


「諸君、今日集まってもらったのは他でもない。稜鏡のことについてだ」


 渋谷新国際美術館事件から数日後、全体集会が開かれた。


「先日の諸君の活躍により、前例のない数の稜鏡団員が逮捕された。長官からも見事だとお褒めの言葉をいただいた」


 警察の情報によると、重症を負った被害者はゼロ。

 美術館から盗まれた物も無く、被害という被害は建物のガラスと噴水だけに留まった。それでも大分損害だが。


「団員の取り調べが未だ続いているが、今のところ分かっている情報だけでも伝えておこうと思う」


 手元に資料が配られた。A4サイズが1枚。表面のみ。ただ文字量は多い。


「詳しくはそこに書いてあるが、簡単に言うと、稜鏡は盗賊団などではなく宗教団体だった。東京の何処かの地下にあるらしいが、逮捕者が受けている複雑で強力な波術のせいでここまでしか聞き出せない。干渉相殺も難航を極めている」


 相殺──受けた波術と逆向きの波である「逆波ぎゃくは」を打って、波術の影響を打ち消す操作のこと。相殺方法は全部で3種類。

 一つ目は正相殺。波術を打った人である「波者はしゃ」本人が行うもの。普通に相殺とも呼ばれ、例外的に唯一逆波を使用しない相殺方法。

 二つ目は自己相殺。波術を受けた人である「受者じゅしゃ」が行うもの。自分で自分に逆波を打つ。

 そして三つ目が干渉相殺。波者でも受者でもない第三者が受者に対して行うもの。


 逆波生成の手掛かりとして、受者が発する「受波じゅは」というものを読み取る。波術影響下にあることを示す証で、受者の波術と全く同じ波を感じられるが、受波からその波術の影響を受けることはないため、別名「不活性波」とも言われる。


 つまり干渉相殺を行うには、受波を正確に読み取る技術と逆波を精密に生成する技術の両方が必要となる。一つ間違えればその人の人生を潰すこともあるため、上級者でも自信のあるものしかやってはいけないというのがセオリー。

 

「全員口を揃えて太陽の使者を自称し、教祖への絶対忠誠を誓っている。そして全員が中高生だ。大人は一人もいなかった。また共通する物として、同型で色違いのガラスの首飾りを身につけていた」


 資料には首飾りの写真と回収された数の記載もあった。

 赤224、橙218、黄187、緑89、青73、藍96、紫82。


「あと、現在同時進行でウチの優秀な科学捜査班が、爆弾と音響閃光弾とこの写真にある小型装置の解析を行っている。じき終わるだろうから、結果が出次第すぐに追加資料を配付する。情報は以上……ん? 分かった。すまないが少し待っていてくれ」


 教師の一人が壇上の梅崎に何か伝えると、その人は走って入口へと向かった。

 生徒達が少しざわめく。なぜ待たされているのかではなく、何で待たされているのかが、見当つかなかった。


「みえました」


「一同、敬礼」


 梅崎に号令をかけられ、全員が東志波特有の敬礼をする。

 こんなことをさせられるのなら、これからの出来事は一つしかない。案の定、壇上に梅崎ではない別の男の人が現れた。


「すまないね、少し時間をもらうよ」


 警察庁長官だ。

 わざわざ東志波にまで出向いたということは、直々に伝えたいことが緊急であったからなのだろう。


「まずは、今回の全体課題がここまで厄介なものになったことを謝罪させてほしい。その上で改めて頼みたいことがある」


 一旦言葉を切り一呼吸置くと、重く、けれど人を突き動かすような声で告げた。


「現時点をもって、盗賊団・稜鏡改め宗教団体・稜鏡の壊滅に課題を変更する。やってくれるな」


 すると、示し合わせたわけでもないのに、全員の反射的な「はいっ」という返事が体育館内にこだました。


「よろしい。頼んだよ」


 梅崎から「一同、再敬礼」との号令がかかり、長官が体育館を後にするまで解かれることはなかった。


「ということだ、諸君。お忙しい中わざわざ足を運んでいただいたのだから、期待には応えるように。では、解散」

遅くなりすみませんでした

自分史上最高に長い不投稿時期でした

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