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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
17/78

6部目

 ブシャーーーーーー

『持ち場を動かないで!!』


 無線越しに、朱音からの鋭い指示が耳をつんざいた。声こそ叫んでいるに近かったが、至極冷静な判断だった。

 と同時に、空気を斬り裂くような轟音と水音が、全員に予告時間を知らしめた。


 水が、飛び散ってくる。

 金属片が、飛び散ってくる。

 レンガが、飛び散ってくる。

 人を簡単に傷つけるだけの威力を持って、爆風とともに無差別で襲いかかる。


『瑠璃ちゃん!! 何があったの!?』


「広場中央の噴水が爆破してうっ、眩しっ!!」


『瑠璃ちゃん!! っつ、何この音!?』


 瑠璃は答えられない。目も耳も塞いでいるからだ。


 噴水爆破の次に起こったのは、辺り一帯を太陽と同等レベルで照らす超高密度の光と、広範囲に大音量で長時間鳴り響かせる高音域のダブルパンチ。

 改悪された音響閃光弾の発動だった。


 間一髪で瑠璃は防御体勢に入れたが、その後の反応が一切出来ない。


 眩しすぎて目も開けられない。閉じていてもまぶたから突き刺されそうなのに。

 響きすぎて両手がどけられない。塞いでいても耳が貫かれそうなのに。


 全感覚が麻痺しそうになる中、バリバリ、パリーンなんて音が微かに聞こえる。

 割れた? 何が? ガラスが?


 ──窓とか、自動ドアとか?


(マズい!!)


 頭痛でおかしくなりそうなほど掻き乱されても、脳は事態を理解し、警告をしっかり出せていた。しかし肝心の身体が言うことを聞かない。


 自分の横で地面を蹴り出すような音がする。なんと軽快な音だろう。この状況をものともしていないようだ。


 やがて音・光共に収まっていき、残響への怖れを払いながら元の体勢へと戻していく。


 そこで、瑠璃の目に飛び込んできたものは──。


(やられたっ)


 粉々に大破された自動ドア。

 見事なまでに吹き飛ばされた噴水跡。

 そこにできた大きな穴。

 感覚麻痺に今だ苦しむ警察官達。


 そして──。


「朱音さんすみません!! 稜鏡に侵入を許してしまい『いや、瑠璃ちゃんファインプレーだよ』


 瑠璃の横をすり抜け、こともあろうに正面から、一列になって1号館内に入り込んでいく敵組織の侵入者達。


『なんせ瑠璃ちゃんの実況のおかげで、こっちはすぐ動けたんだから!』


 その侵入者達を、入口入ってすぐの場所で上位クラスの人達が食い止めていた。


『瑠璃ちゃんはそこから動かないで。あと、出来るだけでいいから、そこで数減らすの手伝って』


「……分かりました」


 正直、中の様子がとてつもなく気になって仕方なかった。

 しかし、でしゃばるなという自制と任務遂行の使命感から言葉を飲み込んだ。

 敵は相変わらず、瑠璃のことを認識していないのか、瑠璃を無視して中に流れ込んでいく。


 覚悟を決め、瑠璃も応戦する。


 手始めに、一番近くにいた奴にタックルをしてみる。そいつが列から外れる。

 すると、今の今まで瑠璃を無視していた連中が、瑠璃のことを眼中に入れ攻撃の矛先を向けだした。


 顔、首、胸、腹、背中、足。拳を入れたり、蹴りを入れたり、肘鉄を食らわせたり、ラリアットかましたり。

 学校でクラスメイトから教えてもらった技で、一人一人に確実に技を打ち込んでいく。

 一人、また一人と地面に伏しては、立ち上がって瑠璃に向かっていく。無言・無表情で気味が悪い。


 相手の動きは大して速くない。東志波生のスピードに慣れてしまえば、素人も同然であり見切れるレベルだった。

 しかし、数が多くなってきた。流入する敵の数減らしには少なからず貢献しているものの、先程まで上位クラスが相手してきた敵が瑠璃に回ってきた。


 大人数への対処法はまだ習っていない。かといって、後ろで自分より多くの敵と応戦中の上位クラスにヘルプを求めるのは不可能。


 どうしようものかと頭を悩ませていたその時。


(!)


 倒れた。一斉に。全員が。

 瑠璃に攻撃しようとしていた輩が、一瞬にして魂を抜かれたかのようにぱったりと事切れた。

 動かない。目を閉じて、安らかな顔で横になっている。


 と同時に、今度は見慣れた格好の人達が1号館内に流れ込んできた。


「鈴川!!」

「えっ……柏木君!?」


 黒を基調とした、腕に3本ラインの入ったジャージ。東志波生だ。

 その中には忠の姿もあり、一緒に来た上位クラスが館内に入る中、忠は仕留め損ねた敵を一人倒して、瑠璃の隣に並んだ。


「こんなに相手してたのか? よくもったな」


 忠が瑠璃の足下で倒れている敵の数を見て、感心したように呟く。


「いえ、はい。どうにか……」


 相手を「眠り」に誘い込む単波、「ミン」。上位クラスの誰かが打ったであろう強力な波術に、瑠璃は救われた。

 ただ、それ以上に瑠璃は不思議だった。なぜ、ここに忠がいるのか。


「えっ、柏木君、3号館は……」


「ん? ああ。なんか3号館だけ襲撃受けてないみたいで」

「えっ!?」


「誰も来なかったな〜。3号館の前だけガラ空き」


 一番狙われると予想され、各クラスの主力を置いたであろう3号館が、まさかの拍子抜けな結果に終わっていた。


「本当ですか?」


「いやマジで。で、3号館を少数精鋭だけにして、あとは1・2号館に回れって指示がきた」


「2号館も襲撃を……」


「実際、2号館の方がかなりひどいらしい。でも、あっちには仁と智佳がいるからな。助っ人に行くなら初心者がいる1号館(こっち)だなって」


「……ありがとうございます」


「おっと。次はこっちから来るか」


 忠が後ろを振り向いたので、瑠璃も倣う。

 撤退だろうか。人の流れが建物の中から外へと変化しだした。


 中では、人数の増えた上位クラスの人達が逃がすまいと相手しているが、やはりその包囲網を潜り抜けられるすばしっこい奴はどこにでもいる。


「鈴川、援護を頼む。ここからは誰一人として逃がし漏らすな!」


「はいっ!」


 一時間も待って、意気込んだ矢先に食らった肩透かし。

 陽動かもしれないとの様子見で、さらに待たされていたあの無駄な時間。

 遠目に敵が見えるのに、力になれないどころか駆けつけることも許されなかったあのもどかしさ。


 忠の体力は、有り余っていた。


「さぁ、一仕事するか!!」


***


「なぁ、智佳」


「なに」


 仁は疑問でしかなかった。おかしいとさえ思っていた。

 そんな仁の疑問に、智佳は腹立たしそうに応じる。


「なんで常設展(お前んとこ)しか敵が来ないんだよっ!」


「知らないよそんなことっ!」


 二人は背合わせで敵と絶賛戦闘中。ただやはり数が多いだけで、二人から見れば敵の戦闘技術は素人に毛が生えた程度なので、おしゃべりするだけの余裕はあった。


 隣同士に入口があるにも関わらず、片や繁盛しているがごとく騒がしいのに、片や閑古鳥が鳴いていた。

 ちなみに、仁が智佳を手伝っているのは仁の独断であり、もし自分の持ち場に異常があればいつでも戻れる自信があったからだ。逆を言えば、何かあっても智佳が一人で対処できると信頼しての行動だ。


 二人は体術・波術を駆使し、多数を一纏めに相手する。コンビネーションも息が合っており、お互いがお互いを預けられるパートナーとして申し分ない。多くの時間を共に過ごして培われてきたものだ。


「よっし。こんなもんか」


 来た奴全員ではないが、大方敵は片付けた。もう入口から入ってこようとする輩は見当たらない。

 智佳・仁の前には足の踏み場もないほどの人が横たわっているが、そいつらは全員、警察官達の素早い手際によって手錠をかけられ連れて行かれる。


「手錠足りんのかなぁ?」


 そんな現状を見た智佳が、的外れとも的を射ているとも言えない心配事を口にする。


「まぁ、突然起きるこたねーよ」


「それもそっか」


 人の頭がなくなり、見晴らしの良くなった視界。右を見れば戦闘中の1号館。左を見ればがらんどうとした3号館。正面を見れば……飛び散ったレンガと噴水跡地の大穴。


「ねぇ、こいつらってどこから来たと思う?」


「あれ」


 「俺見えた」と確信をもって仁が指差したのは、大穴だった。


「アリみたいだったな。列作ってゾロゾロ出てきてた」


「へ〜わざわざ登ってきたんだ〜」


「いや、なんか段差を上るみたいな感じだった」

「穴そんなに浅いの!? おかしくない!?」


「落ち着けバカ。俺もさっきからそれが気になって……」


 「あークソっ、どーなってんだ?」と仁が頭の後ろを乱暴に掻く。


「別にさ、この任務終わったら覗きに行けばいーじゃん。なにイライラしてんの?」


「少しは頭使ったらどうだ!?」


 「だからお前はバカなんだよ」「それは仁でしょ!!」と、任務中にも関わらずいつもの口喧嘩が勃発する。喧嘩するほど仲が良いとは、まさにこのことだろう。


 しかし、そんなことを知らない周りの警察官は戸惑っていた。この喧嘩を止めるべきか、そもそも真面目にやれと注意すべきかしないべきか。

 東志波生への信頼が厚いのは確かだが、二人のやりとりに不安を覚えるのは仕方のないことである。何より、お互いヒートアップしているためちょっとうるさい。


「逃げたぞー!」


 その時、2号館のどこかからそんな叫び声が聞こえた。

 辺りを見渡すと、敵の一人が絵画らしき物を抱えて、窓から飛び降りて穴の方へと走っていた。


「「静龍鎖せいりゅうさ」」


 咄嗟に、二人は全く同じ波術を打っていた。


 舞波流波術が一つ、静龍鎖せいりゅうさ。「ミン」と相手の動きを「縛る」単波、「バク」の合成波。

 基本的に、単波二つ以上の合成波で波術名がつけられる。よって、ただ相手の動きを止めて眠らせるだけの波術にも、大層な名前がついている。


 一人ならまだしも二人分の波術。威力は2倍。

 敵は鎖に足をとられたかのように動きを止め、そのまま地面に倒れ込んだ。


「ふぅ、よかった」


「すみません、あいつお願いします」


 仁に捕縛を頼まれた警察官は「了解ですっ」と敬礼してから、先程寝かせた敵に走って手錠をかけた。


「さっき一人逃げたってことは……」


「そろそろ撤退だな」


 二人が予期していた通り、割れた窓から、なくなったドアから、敵が何かしらを抱えて建物から出ていこうとしていた。


「さてと、もう一仕事か」


 仁は一つ伸びをすると、そのまま肘を後ろで抱えて肩関節をボキッと鳴らした。智佳も戦闘態勢に入り、気合い十分といったところだった。


 休憩は、ちゃんととった。


「足引っ張んじゃねーぞ!」

「仁こそね!!」

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