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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書1~編入生~
11/78

後付け

 都内某所。とあるお店。


 まず目につくのが、ショーウインドウ越しに飾られているパワーストーンや、それらを使って作られたアクセサリー。色とりどりで見ているだけで楽しい。

 奥に進むと、お次は品のいい骨董品が両脇にズラリと並んでいる。中央にはパワーストーン関連の商品が置かれ、どれもこれも奥にいくに従って、お値段が高価なものとなっていく。


 お察しいただけただろうか?

 しかし、これは一種のカムフラージュに過ぎない。


 店のそのさらに奥までいくと、階段が出現する。地下への階段だ。

 少し長めのそれを下っていくと、ホール、と表現するのに相応しい、広い空間が設けられていた。


 前方に、ホールの床より一段高い半円状の段があり、そのまた一段上に、人が一人立てるくらいの半円状の段があった。

 段とホールの間は透明な強化ガラスで仕切られており、両区間を行き来できないようになっている。


 全体的に薄暗く、ホールにいる人──歳的に中学生から高校生くらいの──が首から提げている、光るガラスのようなものが照明代わりと言っても差し支えがない。

 全部で七色。虹の七色。石の色ごとに整列している。


 とその時、強化ガラスの向こう側で白い照明が点き、半円の段に立っている7人を照らした。

 ホールにいる人達よりも大きめの、光るガラスを首から提げ、ガラスの色に準じた、金のラインが入ったローブを目深に被っている。


「全員、刮目せよ」


 声を出したのは緑のローブ。男とも女ともつかない中性的な声音だが、人を従えさせるだけの何かがある。


 するとスポットライトが一瞬消え、同時に一番上の段を照らした。


 白い光に照らされて、眩しいほどに真っ白いローブ。先程と同じ七人と同様に、目深に被っている。

 首からは透き通るほど透明度の高いガラスが、角度によって見せる色を変えながら、幻想的に反射している。


「また、犯罪が起こる」


 十中八九男だろう。

 自分の発言を、特に嘆いている様子はない。未来予知ぶった言い方をしているわけでもない。


 持っている情報を吐き出している。ただそれだけ。


「だが、世間は知らずに許容してしまう」


 男は、静かに語る。

 静寂の中、独り語る。


「それはあってはならない」


 否定しているものの、怒りや熱さは感じられない。

 だが強い。無であるのに力強い。


「世を疑い、世を是正し、世を正しきへ導く。権力による悪事を暴くための、矢面になることを畏れるな。次も、その次も、未来永劫、自己犠牲の正義を示せ」


 男が首のガラスを、照明に向かって掲げる。


「この、太陽光から分かたれし七つの光の標のごとく。太陽の使者たる我々が」


 白光を受けて、ガラスから地面に虹が現れる。


「天網恢恢疎にして漏らさず。我らが稜鏡に、正道あれ」


 男がそこまで言い終えると、段上にいる7人が向きを男の方に反転させ、その場で跪いた。

 すると、それに倣うかのようにホール内の人達も一斉に跪いた。


 男は掲げた腕をゆっくりと下ろし、全貌を一瞥した。


「次の決行場所・人選は既に伝えてある。作戦は十全に練っておくように。以上」


 男が全てを伝え終えると照明が全て落とされる。次にホール全体の照明が点いたときには、段上にいた8人は消えていた。


***


 「あなた本当に物覚えがいいのね」


 特訓三日目。本日の内容は源極流。

 宣言通り毎回付き合ってる義明の他に、特別講師として孝子を迎えてのトレーニングだった。


「そうですか?」

「ええ、聞いてた通り」


 間髪入れずに教え甲斐があることを口にする孝子。どことなく嬉しそうである。


「三日見てきたが、目を見張る速度で吸収しているのは確かだ。実戦で使えるかどうかは別だがな」


「余計な一言が多いわよ。ヨッシーったら素直じゃないんだから」


 たしなめる孝子から、義明は「うるさい」と顔を反らした。


「まだちょっと直す箇所があるけど、もうそろそろ実戦レベルなんじゃない?」


 中立にして冷静な評価をくだしたのは、瑠璃の相手役を務めていた礼羅。


「どこを直せば……」

「んっとね、型がずれるときがちょくちょくあるんだよね。あとはこう……攻めが弱いってのかな……孝子どう思う?」


「そうね……。もう少し積極的に攻めてもいいかもしれないわね。もう一戦、お願いできる?」


 「りょーかい」と了承し礼羅が位置につくと、瑠璃も礼羅と向かい合う。


「礼羅のこと本当の敵だと思え。申し訳ないとか思わなくていいから」


 場外からアドバイスをくれたのは、明日の特別講師役の忠。律儀にも瑠璃への予習を兼ねて付き合ってくれている。


 特訓を宣告されたあの日以来、帰り際の義明の「全員はいなくてもいいだろう」という一言で、日毎の割り振りが決められた。

 総監督は義明だから絶対に外せないとして、所属流派の技を教えられる人と瑠璃の相手役が最低限必要だった。


「ストップ」


 孝子が二人の戦闘をやめさせた。

 礼羅は瑠璃の胸元へ向かって肘鉄を入れるところだった。瑠璃は胸と相手の肘の間に右の掌を入れ攻撃をいなそうとしていた。


「瑠璃、また防戦一方になってるわよ」

「避けることだけ上達しても意味がない」


 「はい、すみません」と謝りながら、瑠璃は臨戦態勢を解いた。


「これ智佳とか仁相手じゃもっと防戦一方になるよ。明日の相手もうちの方がいい?」


「信乃っていう手もあるけど」

「あれは守り堅すぎ……って、その方が逆にやりやすい?」


 忠の意見に真剣に頭を悩ます礼羅。自分より適した相手がいるのなら、喜んでその役目を明け渡す気ではいるようだ。


「瑠璃はどう?」


「確かに、攻撃が少ない方が私も攻めやすくなるとは思いますけど……」

「それは甘いな」


 瑠璃と義明は同じことを考えていたらしく、義明が引き取った結論に瑠璃は頷いた。


「あーもー難しい」

「明日決めようぜ」

「それもそうね」


 結局先伸ばしとなり、孝子が「じゃあもう一戦」と二人に指示を出す。


「礼羅、今度は少し攻撃控えめでお願いできる?」


「やってみる」


 二人は再度位置につき、孝子の合図とともに戦闘を始める。


「いいものは持ってるな」

「そうね。スポンジみたい」


 まだまだ積極性は欠けるが、習った技を正しく使おうとする姿勢に、義明と孝子から好評価を得る。

 勿論、戦闘中の本人には聞こえてないが。


「明日はスパルタでいこうかな」


 こうして、また平和な放課後が過ぎていった。

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