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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書1~編入生~
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9部目

 第一印象、底抜けに明るい。

 否、そんな生ぬるいものではない。

 明るいを通り越して、有り余った元気をそのまま反映させたような無邪気さ。なのに人を圧倒できるほどのパワーがあった。


 全員、彼女に釘付けになる。

 照りつける太陽から目が離せない、例えるならそんな感じ。


「ほほぅ、君がウワサの編入生ちゃんか~」


 当の本人はそんな周囲の心境など露知らず、瑠璃の身体を上から下へ、新しいものを観察するときの子供みたいに興味津々に眺めていた。彼女の目が輝いているのではないかと錯覚するほどに。


「あっ、ごめん。じろじろ見ちゃって。やだったよね?」

「い、いえ……」

「ホント? ホントにやじゃなかった??」


 一方的なマシンガン。彼女のハイペースに押され、瑠璃もたじたじになっていた。

 そもそも見知らぬ人にこんなにガンガン迫られて、瑠璃に一体何が出来るのだろうか。

 目の前の彼女は人の話を聞きそうにないし、状況についていけているかどうかも怪しいクラスメイトからの助けも、どうやら期待できなさそうだった。


 どうにかしてこの状況を切り抜けなければと、解決策を探し始めた矢先だった。


「そこまでよ、小雀さん」


 思わぬ方向から援護射撃が入った。


 体育館入口から声を張り上げたのは、我らが担任、冥奈。

 走ってここに来たのか、少し息が荒い。だが疲れを見せずに、堂々と大股で生徒達に近づく。


「え、遠征に行ってたんじゃ……」

「ん? あぁ、昨日帰ってきたんだ。みんなただいまただいま~」


 両腕を大きく振って、自分の存在をアピールするかのように仁の戸惑いに答える。

 無論、本人はただ純粋に帰ってきたことを報せたいだけで、オーバーリアクションに他意は全くない。


「そーそー聞いてよ、他のみんなったら時差ボケでね、ここに来てるの私だけみたいで」

「ストップ」


 もはや暴走しているのではないかという彼女を、冥奈が彼女の頭を押さえつけながらピシャッと止めた。


「みんな固まってるじゃない。いい加減空気を読むことを覚えなさい。第一、復帰は一週間後のはずでしょ。なんで学校にいるの」


「え? そうでしたっけ?」


「また人の話を聞いてなかったのね、あなたは」


 遠慮なく頭をぐいぐい押さえつける冥奈。

 その姿、聞き分けのない幼児を叱る親。


「先生は、なぜここに?」


 孝子がようやく、冥奈がここにいる理由に触れる。とてもぎこちない聞き方で。

 最終下校時刻はまだ過ぎていないため、冥奈が下校を促しに来たとは考えにくい。とすると、9人に用があったからというのが妥当な線だ。


「他クラスの人が体育館に向かうのが見えたから、急いで第二体育館の鍵を持ってきたんだけど……」


 チャリッと、冥奈の手の中で揺れる鍵。

 上位クラスと体育館の使用が被った場合、より下位のクラスが番号の大きな体育館へ移動する。そのルールは放課後であっても適用されるため、冥奈は9人に体育館の移動を報せに来た。

 D以外のクラスとは、全て上位クラスのことを指すからだ。


「一瞬だったからクラスカラーが見えなかったけど、あなただったとはね」


 冥奈が、怒りを思い出したかのようにもう一段階頭を押さえる力を強くすると、「ぎぶ、ぎぶ!」と降参の声があがった。


「あの……結局そちらの方は一体……」

「あっ、そういえば自己紹介まだだったね」


 自身の頭で冥奈の手をはねのけると、背筋を伸ばして瑠璃に真正面から向き合った。


「Aクラス・小雀こすずめ 朱音あかね。よろしくね!」


 人懐っこい、ありったけの弾ける笑顔。裏表のなさが滲み出ているようだった。

 しかしそんなことよりも、無視できそうにない単語が聞こえた気がした。


 何クラスだって? Aって言った?


「鈴川 瑠璃です。よろしくお願いします」


「そんなにお堅くなんなくても~あっ、瑠璃ちゃんって呼んでいい? 私も朱音でいいから!!」


 焦った様子で深く頭を下げて自己紹介をする瑠璃。

 一方で朱音はフレンドリーと言うよりは図々しいレベルの気さくさで瑠璃と接する。


「はいじゃあ自己紹介が終わったところで、部外者は退散しようね」


「え~、私も瑠璃ちゃんに教えたい」


「あなたはまだ学校来ちゃいけないの」


 冥奈に背中を押され、ズルズルと入口まで戻される朱音。ごねる様子が機嫌の悪い3歳児にしか見えない。


「待って……」


 呟き。朱音の運んだ冷めやらぬ熱気に、冷や水を浴びせかけられたような錯覚を覚える。

 礼羅だ。何かとんでもない事実に気づいたような顔をしていた。


「朱音さん待って!!」


 礼羅が大声を出すと、朱音も、朱音を押している冥奈の動きも止まる。

 そして、全員が礼羅に注目する。


「いつからいました?」


 人のことは全く言えないが、同学年に敬語を使っていることに、場違いな驚きを瑠璃は感じた。

 しかし大事なことはそんなことではない。礼羅の問いの真意に気づくや否や、D全員が表情を固くした。


 対する朱音は、呑気に「うーん」と目線を上に上げて思い出していた。


「忠くんがヨッシーくんを『変態』って言ってた、ちょっと前くらい?」


 「うん確かそこらへんだよ」と朱音が付け加えると、義明がボソッと「俺は変態ではない」と不満を漏らした。


 D全員に安堵の色が灯る。ここから、瑠璃を「実験体」と明言した義明の発言は聞かれていないということになる。


 朱音が嘘をついていなければ。


「ん? みんな大丈夫?」


 いきなり静かになった9人を、朱音が心配する。

 様子を見に行こうとする朱音を「大丈夫だから」と制し、冥奈は朱音を入口まで強制的に送り届けた。


「なんか……凄い人でしたね」

「校内一のトラブルメーカーだからね。他クラスへの放浪癖ヤバいからね」


 悌二が、朱音のスゴさをとりあえず説明してくれる。


「あれでも学年6位なのよ。四天王の一人で、Sを除けばスピードナンバーワン。校内一の舞波流の使い手」


 補足的に、孝子が本当の意味での凄さを説明してくれる。

 四天王とは、Aクラスがたまたま4人いたから、便宜上そう呼んでいるだけの名である。実力が伴っているため、伊達や酔狂で呼ばれている訳ではないが。


「階級意識の強いこの学校で、クラスの壁を飛び越えて関係を築こうとする、珍しい人よ」

「いや、単に放浪癖が過ぎただけでしょ」


 孝子のフォローを礼羅の毒舌が一瞬で切り崩す。挙げ句の果てに「美化しないの」と礼羅に怒られる始末。

 台風一過し、ほとんどの人が少しの間、雑談に興じていた。


「全員聞け」


 気が引き締まるような号令をかけたのは義明。


「思わぬ邪魔が入ったが、これから鈴川の特訓を始める。いいな」


 全員、異議なし。


 流れを当初のものに戻し、当然のように全員、瑠璃と義明に付き合う。

 そんな、放課後の一コマだった。

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