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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書0~未解決事件~
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0部目

 人通りの少ない閑静な場所に、決して大きくもないが小さくもなく、しかし大人数で遊ぶには少々狭い、そんな公園があった。


 柔らかな木漏れ日が差し込むこの公園は、四方を木に囲まれ、風が吹けばザワザワと気持ちのいい音を立てていた。

 遊具はなく、唯一存在していたベンチは、手入れされていないのかボロボロ。言ってしまえば、公園の名を背負った空き地だった。


 しかし、利用する人がいないわけではなかった。


 ──二人、たった二人だけ、利用者がいた。


 まだ小学校一年生にも満たない男の子と女の子。この公園の常連客。


 いつもはボール遊びや鬼ごっこ、砂場の地面に木の枝でお絵描きなど、その歳の子が普通にしていることを、二人もしていた。

 仲が良く、夕方を告げる鐘がなるまで、ただひたすら遊んでいた。


 ──しかし、この日だけは違った。


 木々の葉が水滴を纏い、遮るもの一つない快晴に浮かぶ太陽の光を浴びて、幻想的に輝いていた。木漏れ日は相変わらず柔らかいが、風が全く吹いていないために葉の合唱はなく、沁み入るような静けさに満ちていた。


 二人は、無垢で無邪気な笑みを浮かべながら、一定の距離を開けて向かい合っていた。


「いくよ?」

「うん!!」


 女の子の頷きを合図に、二人はお互いを目がけて同時に走った。


「そぉれ!」


 女の子は腕を大きく使い、男の子の目の前に自分の右手をよぎらせた。

 すると、パシャッと音を立てて、男の子がその場――ちょうど小さな水たまりがあった場所――に倒れた。


「やったー!! 勝ったー!!」


 女の子は一通り喜ぶと、大きな音をさせて一回手を叩き、男の子の方に歩み寄った。


「ねぇ起きて」


 女の子は男の子を揺すった。

 男の子は、気絶しているというよりは、どちらかといえば眠っている状態に近かった。


「ねぇ起きて。起きてってばー。寝たふりしないでよー」


 先程よりも強く揺するが、起き上がる気配がまるでない。


 目を開く気配すらも、ない。


 ズボンに、洋服に、髪の毛に、地面からの湿った砂利が男の子にくっつく。


「もー、置いてっちゃうからね」


 女の子は立ち上がると両手を腰に当てて、横になっている男の子にそう言い放った。

 「置いていく」と言ったら「あっ、待って!」と言って起き上がり追いかけてくれるのではないか、そんな幼い期待のもと、女の子は歩いて公園の入り口に向かった。

 ちょくちょく後ろを振り返るが、男の子は倒れたまま微動だにしない。


「本当に、本当に置いてっちゃうからね!!」


 入り口で叫んだが、何の返答もない。

 しかし女の子は、何の悪気もなく、何の悪意もなく、純粋に「寝ているふりをしているだけ、私にいじわるしてるだけ」と思い、公園を後にした。


 女の子が公園から去った数分後、空が次第に灰色に覆い隠され、殴るような雨が未だ目覚めない男の子の体を、強く、強く打ち付けていた。



 そう、これは十年前の話。



 ここから悲劇が始まることなど、このときは誰も思わなかった。

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