二十五歳、小さくなる
とあるコンビニに、日曜日の午前十時から騒ぐ客が一人。
「わたしはにじゅうごさいなの!」
フリフリのスカートに黒いチョーカー、艶やかな黒髪に病的に白い肌が合わさり、お人形のような少女がレジで店員を怒鳴り散らしていた。
「お嬢ちゃん、お酒は二十歳からなの。だからこのお酒じゃなくて、ジュースにしようか」
店員は少女がレジに置いたカクテルや酎ハイの入ったカゴを下げて、代わりにジュースをカゴに入れて戻ってきた。
「こっちの方が美味しいよ?ね、お嬢ちゃん」
「アルコールがのみたいのーーーー!」
「お父さんやお母さんの言葉をマネたのかな?そうだ、お父さんかお母さんは近くにいないかな?今呼べる?」
「わたしはひとりぐらしよ!みてよ、これわたしのめんきょしょう!」
少女はポーチから財布を取り出し、免許証を店員に見せた。
「えーと、朱通茉莉さん、二十五歳ね、お母さんかお姉さんに借りてきたのかな?」
「そのしゃしんがわたしなの」
「ご家族に似ているんですね」
そんなコンビニに美姫と真桜が入店してきた。
「ちょっと茉莉ちゃん、私が来るまで家で待っててって言ったじゃない」
「おさけのみたかったんだもん」
「買える訳ない、鏡を見た方がいい」
「な!わたしよりすこしせがたかいからってうるさい!」
「まあまあ、二人とも喧嘩しないで。お菓子買ってあげるから、ね?」
「なんでもいいの?」
「いいわよ」
「まお!なんでもいいって!おかしえらぼー!」
「引っ張らないで茉莉」
美姫が二人のお人形さんのような少女をなだめていると、店員が話しかけてきた。
「あ、保護者の方ですよね、最近は物騒なのでなるべく目を離さない様にお願いしますね」
「すいません、ご迷惑をお掛けしました。そこのお酒は私が買いますので」
コンビニの帰り道、美姫はお酒をメイドの久我に渡し、茉莉と真桜と手をつないで歩いていた。
美姫が現れたことにより無事お酒とお菓子を買うことができた茉莉は上機嫌だった。
「んふふー!チョコレートおいしー!」
茉莉が美味しそうに食べているチョコレートにはちゃっかりとアルコールが入っていた。
「茉莉、子供っぽい」
真桜は茉莉とは反対に、年相応にソフトクリームをなめていた。
「それにしても茉莉ちゃん、身長が真桜ちゃんくらいに縮んだけどもう慣れたみたいね」
「んー、わかんない!」
この通り、朱通茉莉は縮んでいた。
真桜の身長が百四十センチ以下で、茉莉の元の身長が百五十五センチ、そして普段から五センチ程のヒールの靴を履いているので、二十センチ程縮んでいることになる。
「そっか、あ、私美味しいチョコレート持ってるけど茉莉ちゃんいる?」
バッグから手帳ほど大きさの銀色のケースを取り出し、そこからチョコレートを取り出した。
「あ、いつもくれるおさけのチョコだ!」
このように、茉莉の精神年齢はやや幼くなっているが、記憶は元のままだった。
しかし、昨日の戦闘に関しては何も覚えていないという。
美姫が茉莉にチョコレートをあげていると、真桜が美姫のスカートの裾を引いていった。
「私も」
「あ、ごめんね。これお酒入ってるから真桜ちゃんにはまだ早いかな。代わりにあとでお酒の入ってないのあげるね」
「まおはまだ、こどもだからなー。アルコールはまだはやいよ」
茉莉は真桜を小馬鹿して言った。
それに少しむっとしたように頬っぺたを膨らませて真桜が言い返す。
「煩い、チビのくせに」
「まおだってそんなにかわらないじゃん!ねえそうだよねみき!?」
「そうねー」
「二センチ私の方が高い」
美姫が帰り道を長く感じるのは、二人の歩幅に合わせているからだけではないのだろう。
こんなことなら車で来ればよかった、そう思う美姫であった。