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二十五歳、守るために立ち上がる

 

 動けずにいる茉莉に、ナイトメアは歩いて距離を詰める。


「ヤハリ、シヌノハシツウマツリ、キサマノホウダッタヨウダ」


 ナイトメアは、意識が朦朧としている茉莉の前に立つと、片足で茉莉の顔面を踏み潰すように振り下ろした。


「ツブレテ、シネ!」


 ドスッ!


「グァァ!ナンダコレハ!」


 ナイトメアの足元には茉莉はおらず、代わりに地面が円状にへこんでいた。そして、ナイトメアの片足には茉莉の日本刀が前から後ろに貫通していた。


「私が、相手です!」


 ナイトメアの前に立っていたのは、茉莉ではなかった。


「ダレダ!?」


 茉莉をお姫様抱っこで抱えた、やたら胸が強調された魔法少女。

 彼女の名は____


「内納侑巳、二十八歳。職業は魔法少女!」


 侑巳は茉莉がやられるその刹那、いてもたってもいられずに駆け出し、魔法少女に変身したのだ。


「あ、それは返してもらいますよ」


 侑巳が茉莉を下ろし、右手をナイトメアの方に向けると、ナイトメアの足に刺さっていた茉莉の日本刀が一瞬にして侑巳の手元に移動していた。


「クウカンケイノマホウカ」


「空間系?なるほど、私って空間系の魔法少女なんですね!なんか強そうですね朱通先生!」


「ゆ、揺らすな……気持ち悪い」


 侑巳は嬉しそうに倒れている茉莉の肩を持って揺らしていた。


「もしかして私、あのナイトメア倒せるんじゃないですか!?」


「無理だ、紗奈を抱えて逃げろ」


「もう朱通先生、やってみないと分からないですよ?」


 侑巳は立ち上がり、茉莉の日本刀を両手で構える。


「日本刀って結構重いですね。でも、かっこいいので私のメインウェポンも日本刀が____」


 ナイトメアが一瞬で侑巳との距離を詰め、回し蹴りで吹っ飛ばした。


「ガハッ!……ぁ……」


 ビチャビチャビチャ。

 横向きに倒れた侑巳の口と鼻からは大量の血が溢れ出ていた。

 侑巳は意識を失い、魔法少女の格好を維持出来ず元の姿に戻っていた。


「クウカンケイモ、シヨウシャガオソケレバカンケイナイ」


「内納……さん?」


 ようやく正気を取り戻した紗奈は、血だらけで倒れる侑巳をただ呆然として見ていた。


「紗奈、貴女はそこで見ていなさい。私が、ナイトメアを倒すから」


 あー、何言っているんだ私。さっきボロボロにやられたばかりじゃないか。こんなことになるんだったら教育係とか引き受けない方がよかった。


 ゆらりと立ち上がった茉莉は紗奈に動かないよう命じると、侑巳が握っていた日本刀を拾い上げる。

 そして茉莉は着ていたボロボロの外套を侑巳に被せてナイトメアに向き直る。


「本気出すから、覚悟しな」


 なにが本気だよ。やられてから本気出すなんてかっこ悪いだけだ。ましてや教え子が血塗れになってから本気出すなんて。


「ハッタリハキカナイゾ」


 ナイトメアが踏み込んで、こちらに向かって跳躍したのが茉莉は分かった。


「アァァァァッッッ!!!」


 ナイトメアが茉莉の前に着地する瞬間、茉莉は自身の魔力を刀身に全て込めて、刀を振った。

 耳を劈く爆音が衝撃波となってナイトメアを吹っ飛ばす。

 そのまま宙を舞うナイトメアを茉莉は光速で回り込み、空中から叩きつけるように刀を振る。

 ナイトメアは地面に仰向けに叩きつけられた。


「はぁ……はぁ……」


 茉莉は、刀を杖のようにして身体を支える。

 息は絶え絶えで、肩を上下に大きく動かして呼吸をしていた。


「朱通さん!」


 紗奈が茉莉に駆け寄ろうと走り出す。

 それを茉莉は大声で止めた。


「くるな!」


 倒れていたはずのナイトメアは、紗奈の背後に立っていた。

 そのままナイトメアは拳を振り上げ、紗奈に向かって振り下ろす。


「間に合えっ!!」


 茉莉は駆け出した。紗奈を守るために。

 ナイトメアの拳が紗奈を捉える刹那、茉莉は紗奈を庇うように抱き、紗奈の代わりに背中に拳を受けた。

 茉莉は紗奈を抱えたまま、十メートルほど転がった。

 茉莉は気を失った紗奈を下ろし、ナイトメアと対峙する。


「!?……マリョクノシツガ、カワッタ?」


 ナイトメアの言葉に、茉莉は何も答えなかった。



 美姫は久我舞と共に空を飛んでいた。

 普段はその魔法少女姿が目立つため、移動で空を飛ぶことはないのだが、緊急事態なので飛んで移動していた。


「茉莉ちゃん、大丈夫かしら……」


「分かりません」


「茉莉ちゃん、一年前からナイトメアと戦ってなかったんだよ?もしかしたら……」


「信じましょう。茉莉様を」


「そうね、そうよね。私が信じないとね」


 茉莉からの連絡から十数分、二人は茉莉たちがいる公園に着いた。

 しかし、そこは静寂に包まれていた。


「戦闘、終わったのかしら」


「魔力の残滓が凄いですね」


 公園一帯に、高濃度の魔力残滓が漂っていた。

 この魔力の残滓が誰のものにかによっては、この先に絶望があるかもしれない。そう思った美姫は全速力で残滓の濃度がより高い方へ飛んだ。


「茉莉ちゃん無事!?」


 美姫が目にしたのは、ボコボコになった地面と、三人の倒れた人だった。

 一人は新人教育を受けている紗奈。

 外傷は見当たらないが気を失っていた。

 もう一人は茉莉の着ていた外套が被せられていた。

 地面には血だまりが出来ていた。


「まさか……」


 外套を捲ると、新人の侑巳がいた。

 鼻の中が切れているのだろうか、鼻からの出血が酷い。

 吐血もしていて、外傷も酷い。


「久我さん、お願いします」


 久我は侑巳に手を当てると、その箇所が光出した。

 魔法少女は、魔力により怪我が治る。

 なので久我は侑巳に魔力を送っていた。

 魔力を送るだけでは怪我は完治しないが、応急処置としては充分だ。


「じゃあもう一人が茉莉ちゃんね」


 美姫はそういうと最後の一人に駆け寄った。


「なに……これ?」


 そこには、小学生くらいの女の子が、ぶかぶかの服を着て倒れていた。

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