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カレーと裸と壊れたファスナー

 茉莉は美姫が作ってくれたカレーをお腹いっぱいに食べてウトウトと眠気に襲われていた。


「じゃあ教育係任せたわ、私はこれで帰るから、ちゃんと真桜ちゃんにもカレー食べさせるのよ」


「うー……」


千尋(ちづる)ちゃんが後日詳細をまとめた資料持ってくるからそれで確認してね」


「やだー……」


「給料削減」


「やる」


「じゃあそういうことだから、あと洗濯物干しといたからちゃんと取り込んでおくのよ」


「あーい」


 美姫が帰ると茉莉はそのまま意識が薄れていった。


 すやすやと床で寝ている茉莉は相変わらずの不健康な肌の白さとダボダボのシャツ、まさにニートそのものだった。

 そのダボダボのシャツを腹から捲るようにパタパタする少女。

 少女は茉莉とは反対に、レースがあしらわれた黒いワンピース姿で、どこかのご令嬢といった感じだ。

 茉莉は腹の寒さに気付き、目を開けた。


「ん……なんだよ、えっと……國本真桜」


 少し威圧的な茉莉に臆することなく真桜は言った。


「カレー食べたい。手が届かない。あと真桜でいい」


 小学生くらいなら台所も届くだろうと思って台所を見たらカレーの鍋が無かった。


「冷蔵庫」


 真桜が冷蔵庫の上の方を指さした。

 なるほど、美姫は保存の為に冷蔵庫の上段にカレーをしまったということか。


「カレー温めるから少し待って、それとドレス脱いどいて、ドレス汚れるでしょ」


「汚さない」


「汚れるから、脱がないなら脱がす」


 無駄に凄む茉莉から漂う面倒くささを感じ取ったのか、真桜は小さく「わかった」と言って戻っていった。


 温めたカレーをライスと半々にして皿に盛りつけ、真桜の待つ部屋に行った。


「出来たよ……って、おい、なんで全裸なんだ」


「朱通茉莉が指示した。もしかして朱通茉莉は自分の指示を忘れるゴミ上司タイプ?」


「随分と具体的なディスり方だな。まあいい、とりあえず裸のまま食べてよ。そしたら後で服買いに行こう」


「わかった」


 真桜が裸でカレーを食べている間、茉莉は美姫が干していった洗濯物をしまっていた。


「クリーニングが必要っぽい服ばかりだが、美姫は一体どうやって洗ったんだよ」


 茉莉の服は基本的にダボダボの部屋着か美姫が持ってくる一般人が着るとコスプレになりそうな服が大半だった。


「さて、この中から着ていく服を選ばないといけないんだけど、なんか減ってるよね」


 美姫が家に来ると茉莉の服が消える。そして代わりに美姫の家から持ってきた服が増えるという仕組みだ。


「ついにまともな服が消えたか。流石にダボダボシャツじゃあ下着見えそうだし美姫が持ってきた服から選ぶしかないか」


 悩むこと数分、茉莉が選んだ服は……。


「お揃い」


「お揃いだね」


 茉莉は真桜とほぼ同じ黒いワンピースを着ていた。


「買いに行こ」


 真桜の言葉から機嫌の良さが感じられる。


「どんな服がいい?」


「任せる」


 茉莉なら信頼出来る、目が語っていた。


 二人は徒歩で駅へ行き、電車でそこそこ栄えている方へ向かった。


「なんか凄く注目されてないかな?」


 二人の美少女が黒いドレスで歩いていたら注目されるのは当然なのだが、茉莉も真桜もそこら辺の常識が完全にとんでいた。


「普通」


「そう、そうだよね。私が引きこもりすぎて他人の視線に過敏に反応しているだけだよね」


 周りに注目されながら二人が辿り着いた先は、あの有名なブランド、そう____


「やっぱり服はユ〇クロだよね」


「え……」


 笑顔の茉莉と対象的に、真桜こ表情は完全に死んでいた。


「なんか不満そうだな」


「不満。朱通茉莉、その服はユ〇クロで買ったのか?」


「なんだその言い方は。それと一々フルネームで呼ぶな。茉莉さんと呼べ」


「茉莉、貴様の服はどこで買ったんだ?」


「なんでそんなに尊大な態度なんだよ。まあこの服は美姫から貰った服だけど」


「……」


 真桜は期待が外れた、そう言いたげだった。


「しゃがめ」


「その上から目線やめてよ」


 そういいながらもしゃがむ優しい茉莉。

 そんな優しさを裏切るように、真桜は茉莉のワンピースの背中のファスナーを下ろした。


「ちょっ!なにしてんの!」


 ビックリして立ち上がった拍子に、茉莉のワンピースから嫌な音が聞こえた。


「ブランド見よう思って」


 真桜は悪びれる様子もなく答えた。


「まったく、それなら美姫に電話で聞くっての。はぁ……」


 茉莉は面倒くさそうに背中のファスナーを上げようとする。

 が、上手く閉まらない。


「あ、あれ?なんか上がってかない……」


 茉莉の元々良くない顔色が皿に悪くなった。


「ファスナー壊れてる」


「壊れてるって、壊したの真桜でしょ!」


「茉莉が突然立ち上がったのが原因」


 ここで言い争っても意味が無いか。

 そう判断した茉莉は考え方を変えた。


「まあ私の後ろ髪長いし、背中がぱっくり開いてても誰も気付かないか、よし、服買いにいくよ」


 真桜は背中が茉莉の予想以上に丸見えなのを言わず、そのままついて行った。


 美姫に電話をしたら服を買ってあげるということで、美姫が贔屓にしているお店で待ち合わせた。


「待ってたわよー、って凄い格好ね二人とも」


 まるで異国の貴族のような二人を見て、うんうんと頷く美姫。


「あー、ペアルックだもんね、仲良しかって」


「いや、そうじゃないけど。ってあれ?背中開いてるじゃん!?え、なに、茉莉ちゃんって露出狂!?」


「違うわ!真桜がさっきファスナー壊したんだよ。まあ私後ろ髪長いし隠れてるからいいかなって」


「いやー……まあいっか」


 完璧に背中が見えているが、面倒臭いのでそのままお店に案内した。


「可愛い」


 ユ〇クロと違い、テンションの上がった真桜は、年相応といった感じで可愛い女の子といった雰囲気だ。


「真桜ちゃんはシックな服が好きなんだ」


 真桜は勢いよく首を縦にコクコクと振った。


「あとは、フリフリのやつも」


「あー、わかるよー!真桜ちゃんに似合いそう!」


「本当?」


「うんうん、じゃあお姉さんが一緒に選んであげるね」


 そういって二人で服選びを開始したので、茉莉は一人余ってしまった。


「私はあとでユ〇クロで買うかー」


 そう思って服を仲良く選ぶ二人を眺める茉莉に、店員三人が近寄ってきた。


「茉莉さんですよね!」


 店員の一人がまるで好きなアイドルにでも会ったかのようなテンションで茉莉に話しかけてきた。


「え?そうだけど……」


「いつも美しいお姿、写真で拝見しています」


「是非私達にコーディネートさせて下さい」


「え?いや私はユ〇クロ……」


 乗り気ではない茉莉にお構い無しに店員が試着室へ案内しようと身体を押す。


「さあさあ」


「いやだから私は普通の服でいいんだってー!」



 その日の夜、駅で別世界から来た絶世の美人姉妹がいると噂になったとか。



ワンピースってドレスとも言うんですね


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