自称茉莉の嫁、能登美姫
「もうこんなに散らかして。私がいないと何もできないんだから、もう」
茉莉の家に勝手に上がり掃除を始める彼女の名前は能登美姫二十五歳、独身。職業はお嬢様兼魔法少女。緑髪の長髪と健康的な白い肌が特徴的な女性だ。
「なんで勝手に私の家に上がりこんでるの?通報するよ?」
通報する、などと茉莉は言うが、能登美姫が茉莉の家に勝手に上がるのは今に始まったことではない。美姫が掃除をしに来なかったらゴミ屋敷になっているので、茉莉は口では拒絶するが美姫に頼っているのである。
「そうだ、銀髪の女の子が訪ねてこなかった?國本真桜って女の子」
手際よくゴミを分別しながらゴミ袋に入れていく美姫が、気になることを聞いてきた。
「ベッドで寝てるよ」
「一緒に暮らすって言ってなかった?」
「言ってたね。まあ一時的に泊めるくらいは大丈夫よ。私小説家だし」
「意外だわ。茉莉ちゃんなら追い返すと思って安心してたのに」
「なんの安心だよそれ」
「茉莉ちゃんの同棲相手は私以外認めないってこと」
美姫のこういう発言は頻繁に聞くので茉莉は聞き流して、疑問に思っていることを聞いた。
「なんで美姫が國本真桜がウチに来るって知ってたんだ?」
「関東の代表会で真咲ちゃんに言われたわ」
代表会で真咲といえば、あの水無瀬真咲か。
「水無瀬か。他になんか言ってた?」
「茉莉ちゃんの復帰待ってるって言ってたわ」
「復帰って、埼玉代表復帰ってこと?」
「そうじゃない?」
代表復帰ってことはつまり、Sランクの力を取り戻せということか。
「別に美姫がいるんだから私はこのままでよくない?」
美姫は自分が代表になったことに思うところがあるのか、渋い顔をした。
「私は茉莉ちゃんが好き。魔法少女の茉莉ちゃんも好き。強い茉莉ちゃんはもっと好きなの」
強い茉莉、つまりそれはSランク魔法少女の茉莉ということだ。
魔法少女を辞めたい茉莉には響かない言葉だった。
「私は小説家の私が一番好きだから、力を取り戻そうなんて思わないよ」
これは、力を失った一年前からずっと言っていることだ。
一部嘘をついているが。
いい年こいて魔法少女をやるなんてゾッとする、そんな本音は誰にも話していない。
「今埼玉にSランク魔法少女は何人いるかわかってる?」
美姫はそういうと同時に片付けを終えて茉莉の前に座る。
「美姫一人でしょ、知ってるよ。一年前まで埼玉の代表だったんだから」
一年前、茉莉がSランク魔法少女として埼玉の代表を務めていたころは茉莉と美姫のツートップで関東の他県とのバランスを取っていた。一人欠けた今、埼玉が厳しい立場なのは薄々わかっていた。
「だったら、諦めないで欲しい。私一人に代表は荷が重いの」
「荷が重いって、美姫は立派なSランク魔法少女だよ。胸を張りなよ」
「立派じゃないわよ。今回の代表会でも不知火切子に言われたわ。偽Sランクって」
能登美姫が偽Sランクと呼ばれるのには理由があった。
通常、ランクとはその魔法少女の四つの適正属性のランクに相当する。
一年前の朱通茉莉をステータスで表すと以下の通りだ。
火属性S
雷属性D
風属性適正無し
水属性適正無し
魔法少女ランクS
ランクはE~Aまであり、更にその上にSが存在する。
通常Sランク魔法少女とは属性適正がどれか一つでもSだったら認められるのだが、例外があり、複数の属性がB以上の場合のみ総合的に判断してSランクやAランクとなるのだ。
そして能登美姫のステータスは以下の通りだ。
火属性B
雷属性B
風属性A
水属性B
魔法少女ランクS
美姫は総合的に判断してSランクという、いわば例外のSランク魔法少女なのだ。その戦闘能力は他のSランク魔法少女に引けを取らないことを茉莉はよく分かっていた。
「まあ美姫が埼玉の弱体化を気にしてるのはわかってるよ。でも東京組と同盟関係だし大丈夫でしょ」
魔法少女は日本全国に存在する。
しかし、その魔法少女達は一枚岩ではなく、それぞれ派閥を形成している。
一番上に魔法少女協会があり、その下に関東派閥と関西派閥、更に関東関西以外は中立派、関東派、関西派に別れている。
そして茉莉や美姫は関東派閥に属しているのだが、関東派閥には二大勢力が存在する。東京埼玉群馬連合と千葉神奈川栃木茨城連合だ。そして関東派閥のトップ、最強の魔法少女水無瀬真咲は東京代表だ。つまり東京と同盟関係の埼玉も安心という訳だ。
「茉莉ちゃんに力を取り戻そう考えているのはどこの代表だったっけ、茉莉ちゃん」
美姫はやれやれとでも言いたげだ。
「東京代表だね、てか関東派閥トップだね」
「そう、そして事実上東京を仕切ってるNo.2の不知火切子とは仲が悪い」
「もしかして埼玉孤立しちゃう?」
「将来的には有り得るかもね。現状は私が代表会で微妙な立場ってだけで済むけど」
つまり、茉莉が魔法少女を辞めると美姫に凄い圧力がかかり、ついでに埼玉も危なくなると。
「よし、美姫が不知火と仲良くなれば解決だね」
「無理」
茉莉の提案は美姫により即却下された。
「そんなことよりお腹空いたから何か作ってくれない?」
茉莉は悪びれる様子もなく母親に頼む感じで美姫に注文した。
それをすんなりと受け入れる美姫。
茉莉のこの注文は先ほどの微妙な雰囲気を切り替える意味合いもあったのだろうか、美姫は茉莉にお願いされてすっかりご機嫌モードだった。
「やっぱり茉莉ちゃんのお嫁さんは私以外有り得ないわね」
そんなことを口にしながら台所に立つ美姫であった。
説明回になりましたね
今後設定と登場人物はまとめると思いますので忘れたそこをご覧下さい