高校生と中学生、離島へ行く
八千代は駅の近くの時計台で千尋を待っていた。
日曜日の昼前のせいか、八千代の他にも待ち合わせる若者が沢山いた。
八千代は頻りに腕時計を確認するが、時刻はまだ待ち合わせの時間十五分前。
大人びたファッションをしているが、まだ中学生の八千代だ。駅の利用頻度も少なく、一人で待つことに不安に感じるのも仕方がない。
八千代の方へ二人組のチャラそうな男が歩いてくる。
(なに!?なんか私を指さしながらこっちむかってくるよ!?)
見てはいけない、目線を合わせなければ何事もなく通り過ぎてくれる。そう思って俯く八千代。
しかし、思いとは裏腹に、八千代はチャラ男に絡まれてしまった。
「キミ、かわいいねー!誰かと待ち合わせ?それともナンパ待ち?」
髪を明るく染めた細身の方が八千代の肩に手をのせて迫ってくる。
驚いた八千代は俯いたまま、何も答えない。
「ねえねえ、なんか喋ってくれない?」
もう片方の男も八千代の肩に手を置いた。
八千代は怖がっているのを悟られまいと震えを我慢して、口をつぐんでいた。
「誰と待ち合わせてるのかだけ教えてくんない?そしたらお兄さんたちどっか行くから、な?」
「そうそう、だから教えて」
この状況から早く解放されたい八千代は、ついに口を開いた。
「と、ともだち……です……」
身体の震えは我慢していたが、声は震えてしまっていた。
「へぇー、友達かぁ。なら女の子かな?」
「そう、です……」
「来るのは一人?」
「はい……」
チャラ男たちはニヤニヤと下衆な笑みを浮かべている。
「あの、じゃあこれで……」
しかし、チャラ男たちは肩を離そうとしない。それどころか強く握られて、八千代はびっくりしてしまう。
「い、痛い……」
「じゃあそのお友達と四人で丁度だわ」
「キミかわいいしお友達にも期待だわな」
「そんな、聞いたらどこかに行くって」
「あー、そんなこと言ったっけ?まあ気が変わったってことで!楽しもうぜ!」
一人が八千代の身体を抱き寄せて、密着してくる。
「きゃあっ!」
いきなりのことで八千代は小さく悲鳴を上げた。
「きゃあって、かわいい声出すなぁおい」
「いやー、この後が楽しみだぜ」
「離して、ください……」
八千代は必死に抵抗するも、声が震えて大きな声が出ない。
(はやく、時野谷助けてよ……)
そんな思いが通じたのか、千尋の声が聞こえた。
「巽、その男たちはなんなんだ?」
正面から歩いてきた千尋に、チャラ男たちは下品な視線で値踏みをする。
「お、お友達到着じゃん!すげーかわいいな!」
「今回は当たりだな」
ようやくきた千尋に、八千代は安心して泣いてしまった。
「これは彼氏って感じじゃないよな」
八千代とは違い、冷静にチャラ男たちを観察する千尋。
「なにいってんのお友達ちゃん!これからだよこれから!身体の相性良かったら彼氏になる可能性だって……」
千尋はチャラ男の顔面に手のひらをかざす。
「な、なんだよ」
そのまま千尋は手に魔力を込めて一瞬だけ炎を出した。
「あっちい!!なんだよまじいてえ!」
「お、お前前髪燃えてんぞ!」
「へ?うわ燃えてる!!!」
「畜生!なんなんだよお前!」
慌てふためくチャラ男たちに、千尋は答えながらチャラ男の髪だけを焼失させた。
「魔法少女だよ」
チャラ男たちはそれを聞いたかどうか、つるつるになった頭を隠しながらどこかに走って逃げていった。
「巽、なに泣いてるの?だっさー」
そういいつつ強引に八千代の手を握る千尋。
「うっさい……」
八千代はそれを離さずに強く握り返し、二人は歩き出した。
電車での移動中も、八千代はずっと千尋の手を握っていた。
「いいかげん離さないか?」
「やだ」
「そうかい」
結局指定の港まで二人は手を繋いでいた。
港で関係者が待っていると聞いていたが、探すまでもなくわかった。
「港でメイド服って、目立つねー」
「どこでも目立つんじゃ?」
港までの道のりで、仲が悪かったはずの二人は、普通に会話するくらい仲が深まっていた。
メイド服の女性がこちらに歩いてくる。
「こっち」
一言、そういうとメイドは歩き出す。ついてこいということらしい。
ついていくと、個人船にしてはそこそこ大きい船が停泊していた。
「のって」
メイドに促されて二人は船に乗り込んだ。
すると一分もしないうちに船が動き出した。
どうやら船の操作はメイドが行っているようだ。
「イマドキのメイドは船の免許持ってるのか」
「あの人も魔法少女なのかな」
気になった二人はメイドのいる操縦室に向かった。
入ると、メイドがいきなり喋りだした。
「中山由佳子。Cランク魔法少女。美姫様のメイド。船の免許は私の他にも何人か持っている」
先ほど二人が話していたことをまるで聞いていたかのように、メイドの中山は答えた。
気味の悪いことにぞわりとした二人は、尻込みしてしまう。
中山は二人の気持ちを知ってか知らずか、古めかしいリボルバーを取り出し、ニヤリと笑った。
「ひっ!」
驚いた八千代は千尋の後ろに隠れてしまう。
「これが私の武器、久我さんに貰ったの。オシャレでしょ?私のお気に入りなの。いつも肌身離さず持ち歩いているの」
中山はリボルバーをいろんな角度から眺めてはニヤリと笑い、眺めて笑いを繰り返していた。
どうやら中山はお気に入りのリボルバーを誰でもいいから見てもらいたかったようで、怯えている八千代のことは認識していないようだった。
「久我さんはね、すごいの!この銃を作ったの!」
リボルバーの自慢から、久我舞の自慢へとシフトする中山。
中山は、普段は大人しいが、好きなものを語ると人が変わるように饒舌になるようだ。
延々と続く中山の話を聞いていた二人は、外の風景を見る間もなく目的の離島に到着した。
船を降りると、静かになった中山の先導で歩くこと数分、目の前に女性が現れた。
女性は赤黒の、丈の短いドレスを着ていて、明らかに一般人ではなかった。
女性は口元に笑みを浮かべ、中山たちに語りかけた。
「うふふ、さぁ、戦いましょう!」




