第三話「大丈夫?おっぱい揉む?」
ストレンジャー二号からもらったアイテムを失ってから一時間が経った。何故時間がわかるかというと視界右下端に書かれているのだ。街には特にベンチが置かれてる訳でもなかったので、地面に直に座っていると、何やら二人組みで取引している野郎が二人いた。
「おおおおおおおおお!まじで増えた!お金三倍にしてくれてありがとう!」
「まあまた何かあったら俺のとこまで来い」
あれはアイテムを倍にするというチーターを装った詐欺集団だろう、露骨すぎるあまり一瞬にして見破ってしまった。このゲームではチートがただでさえ多いので、こういったむちゃくちゃなチートも信じる人が後を経たないのだ。そしてそれが成功をしたと発言を聞く限り、恐らく彼は『サクラ』を遣っている可能性が高いと思える。俺もネカマをやっていたから何も言えないが、こういうのは騙すか騙されるかなのだ。
「なあ、そこの君」
「はい?」
今度は別の人物に標的が変わる。俺の経験上こっちが本番と見ていい。
「さっきの見てたか?金増えたの」
「見てましたけど」
「君のも増やしてあげるわ、今日だけ特別大サービスってことやで」
「はぁ…」
どうやら迷ってるには迷ってるらしい。いい加減にこのゲームをやってた事もあり、分からないがこのゲームではそれだけお金に価値があるのかもしれない。
「やったあ!!!!!お金倍にしてもらったおかげで天照ソード変えたぞ!!!」
追い討ちをかけるように叫ぶサクラ。ただでさえ迷っていた彼は一歩、詐欺師の元にへと歩み寄り動きが止まる。どうやら交換画面に入ったのかもしれない。システム上、落とす以外の方法で物をあげる場合は交換をしなければならないのだ。その場合、一方はアイテム有りで、一方は何も無しというのも大丈夫なのである。
「盗まないで下さいよ…」
「分かってる分かってる、盗る訳ないやんwおっ!300万も!」
さっきまで止まっていたお互いが動き始める、交換が終わったのか、それとも交換をキャンセルされたのか、どう転んだかはまだ分からない。
「ぐひひひひひひ、また儲けてもうたわwww」
「あんがとな!」
今度は詐欺師と共にサクラがこのルームから姿を消し始める。そしてしばらくすると盗まれた彼は何も言う事なく部屋を出て行った。彼も俺と同じ被害者なのだ。可哀相だったが仕方がない、こういう世界なのである、こういう所も含めてのクソゲーなのである。
「さて、俺もそろそろ動こ…ぐへっ」
座っていた地面から腰を上げた時だった、何か固い物が頭に当たる。物凄く痛い。
何に当たったか確かめると女性が持っていた白いステッキのようなものだった。日曜の朝アニメとかでよく見る、今すぐにでも魔法を使ってきそうな感じの白いステッキだ。そして純白な肌をしており、容姿は世界史に出てくる西洋の女王のように美しく整っている。髪も金髪であるが故、それをイメージして作られたキャラなのかもしれない。
「痛ってえな…何すんだよ」
「大丈夫?おっぱい揉む?」
「えっ?」
よくよく見るとその女性は胸元を大胆にも開けていて、その巨大な胸からは谷間を見たくなくてもくっきりと見る事が出来た。歩く十八禁とはこの事だろう。欲を言えば揉みしだきたかったが、今はそんな事をしている場合ではない。とにかく狩りだ、狩りに行こう。この目前にいるおっぱいお化けとこれ以上話しているとおかしくなると思い、この場を離れようと思った矢先、その女性に腕を掴まれる。
「あなた貫木くんですか?」
「そうだけど…」
「いやー会えて良かった!実は私、かんり…」
「おーい!街にドグマケトンが現れたぞ!」
彼女の言葉を遮るような声量で叫んだのは、先程フリマの時にアイテムを落としていたGUY0312である。確かドグマケトンというのはかつてこのゲームをやっていた時に最初のステージのラスボスと言われていたモンスターだったはずだ。
そして彼が言った言葉を理解したのは次の瞬間だった。ドグマケトンと頭の上に表記された、全身真っ黒姿の二足歩行で、体格が自分より三倍もあるモンスターが本当に街の中心部に立っていたのだ。本来はこの始まりの街に現れていいはずのないモンスターなのだが、これも何もかも管理人が仕事をしていないせいだろう。そしてこっちに歩くドグマケトンは黒い炎を俺の周りを取り囲むように吹いてくる。逃げ場はない、死ぬほど熱い、ゲームなのに。
「だぁ…だれかたすけてぐれええええええええ…死んじゃうよおおおおおおお」
その炎は俺の下半身全体を間違いなく焼き尽くしていた。しかし、決して血が出るわけでも、皮膚がグロテスクになる訳でもなく、痛みだけがただただ襲ってくるのだ。死ぬほど熱い、痛い、その一言である。
「大丈夫ですか?」
「いや助けて…死ぬ程熱い、痛い」
「分かりました!」
そういうと爆乳金髪女性はステッキを振りかざし、黒炎全てを消し去る。助かったと思ったが安心するのはまだ早かった。ドグマケトン以外にもモンスターはうじゃうじゃ街に現れていたのだ。一体誰がこんないたずらで始まりの街をモンスターハウスにしてしまったのだろうか。
「助かったよ…」
「いえ、気にしないで下さい、当然の事をしたまでです」
「ははは、そうか。あんた名前はなんていうんだ?」
「テトラです」
「テトラ、この状況を打破するにはどうすればいい?Lv1で雑魚の俺だけど力になれるなら手を貸すぞ…」
「とにかく逃げましょう」
「え?」
この状況で逃げるってどこに?と思ったがこのゲームの世界に入っているのは俺だけなのだ。彼女の本当の姿はここには無くて、趣味としてただ楽しんでるだけに過ぎないただの女子高生なのかもしれないし、あるいはネカマを楽しんでいる男子校生なのかもしれない。その実体がどうであれ、彼女は逃げられるのだ、この状況から。一方の俺はこの街から抜け出す事も出来ずに死んでいくだけなのである。
「さあ、逃げますよ」
「いや一人で行ってくれ、俺はルーム退出なんてできないんだよ、どうせここで死ぬ運命なんだ」
「何を馬鹿なことを言ってるんですか、逃げますよ管理人部屋に」
「管理人…部屋?」
「ええ、だって私このゲームの管理人ですもん」