第二話「騙されるか騙されないか」
「はぁ…はぁああああ?」
「ふふふ…あなたはこれがあなたのお望みだった事でしょう…ようこそジオトラートオンラインへ」
一体何が起こっているのかが自分でも分からない、急に意識を失ったかと思いきや目を覚ましたのはアニメチックのデザインで描かれた緑髪美少女がいる謎の世界である。
そして謎の世界に来たと思えば、今度は現実世界の俺が死んでるし
。
「はあ、これでスッキリしたわ、それじゃあこれで私の復讐は終了、後は一人で頑張って頂戴」
「ちょっと待て!これをお前が一人でやったのか…」
「そうよ?ス○ッとジャ○ンみたいに他力本願なんかじゃなく一人でやった事よ?」
「どうやってやったんだ?一体俺は何が原因で死んだんだ?」
「チートコードの変換ね、このゲームの世界はさっきのような監視カメラに映っていたあなたの死体のように、現実世界と繋がっている部分が多いのよ。だからあなたの場所をカメラ越しに見ながら予測して、その場所に人工電荷を混ぜた人工雲を配置すれば、ご覧の通り、今あなたの完成って訳よ」
「何を言ってるのかまるで意味が分からんぞ…」
「www」
「草を生やすな!草を」
本当にこいつはむかつくやつである、俺は死んだというのか…殺されたというのか…このアニメチックなデザインをした女キャラに、自分で作ったストレンジャー2号に。
「まあそんなに気を落とさない事ね、私が味わった7年と36日の苦しみ、あなたにも体験してもらうわよ」
「ちょっと待て、どこにいくんだ?」
「どこって…狩りに決まってるわ、あなたが放置してくれたおかげで39Lvから止まったままだもの」
39Lv?レベルの事か…最近の自分はネトゲーには疎かったせいもあり、Lvの表記が何を意味しているのか少し時間がかかる。そしてよく辺りを見回してみると視界の左上端、そこには1Lvという文字が表記されてある。これは自分のLvを意味しているのだろうか。
「なーんにも覚えてないのね、私があなたを恨み続けたのが馬鹿みたい」
「いや覚えてる、俺がお前を39Lvに育て上げてからやめたせいでお前は未だに成長できないでいるんだな?」
「そうよ」
自分でも驚きを隠せないでいた、あれだけクソゲーと言い張っていた自分のキャラのLvを言われてからだが、しっかりと覚えていたのだ。
「あなたがゲームを起動しないから仕方なくここに連れてきたって訳よ、そうする事によって私も自由に動き回れてLv上げをする事に専念できる訳だし、あなたもそれが分かったらLv上げした方がいいわよ?まもなくあいつらが動き出すみたいだし」
「あいつら…?」
「いずれ知るときがくるわ、それよりも今はLv上げに専念しなさい、それとこれは元ご主人様に対するお礼とお詫びと思って受け取りなさい」
そういうとストレンジャー二号は腰に付けてあるポーチから何かを地面に取り置いていき、何も見えない場所にへと向かい一歩ずつ歩いていく。ここで引き止めても良かったが、彼女を引き止めた所で今の俺には何も聞ける事がなかった。彼女は俺を親なんて思ってはいない、むしろ捨て親だと思い憎んですらいるのだ。とりあえず彼女が置いていった物を拾うことにする。手にしてみると、それは立方体の箱で『滅びの剣ZZR』と表記されてある。自分が死ぬ前の姿は学生服で真っ黒に染まっていたが、ここではそんな事はなかった。彼女と一緒でポーチも腰についているし、恰好はボロボロに古びた布切れの服とズボンを着ていた。一旦彼女が落としたそのアイテムをポーチに仕舞うことにする。まあ何にせよ…俺もどこかに行き、宿と食べ物を真っ先に調達するしかない。とにかく知ってる場所に行けば、記憶の片隅くらい残ってるだろうと思い、ストレンジャー二号が向かった逆方向を走る。本当に何も無い道だったが、しばらく走っていると何も無い場所から顔に何かが触れた。そしてその見えない何かを突き抜けると、街の中心に入る。ベールのような物で壁ができていたのだろうか。それにしてもこの街の景色には見覚えがある、ここは始まりの場所、オリダムの街だ。中心から見える光景は俺がやっていた頃と何だ変わりが無い、Lv上げに使われる岩に、今後の予定を掲げた看板。しかし、そこに描かれた内容は三年前の記事だ、昔からチートは野放しにされていたけど管理人はこんな事まで仕事をしなくなったのだろうか。
「おい!お前」
「んだよ?」
後ろから話しかけてきた雄介斬空剣という名前が頭の上に表記されている男キャラだった。
「ここはフリマなんだから何かアイテム落とせ」
「アイテムだ?」
「そうだよGUY0312を見ろ」
そう言われ、辺りを見回していると本当に誰かが何かを落としているのを発見する。頭の上にGUY0312というのを見たところ彼の事を言っているのだろう。落ちていたのは立方体の箱にサンドラバックラーと書かれた物である。箱の形はさっきストレンジャー二号が落としていったものと全く同じ物だった。
「なんだよサンドラバックラーかよあいつ売る気あるんかね」
なるほど、こうやってアイテムを落とす事によって何の商品を売るのか見せるって訳か。しかしポーチに入れてあるアイテムは唯一つ、ストレンジャー二号が俺に渡した『滅びの剣ZZR』である。名前からして強そうな武器だがどんな反応をしてくれるのか、宿代や食事代を一刻も集めなければならない俺にとっては何よりも金がまず必要なのである。
ポロッ。
立方体の箱の形をした滅びの剣を落とす。すると、雄介斬空剣は俺が落としたアイテムに目線を合わせる。興味があるのかもしれない。
なんといったってこの武器が使えるのは28Lv~で俺じゃあとても使えないのだ、この雄介斬空剣が何Lvかは知らないが高く買ってくれるならそれはそれで問題がない。
盗賊能力発動、ハシール。
雄介斬空剣の頭の上にその文字が表示されると共に、彼は光の速さで俺の眼元にまで近づき、落としていたアイテムを拾いあげる。そしてその事態を把握する前に彼は消えた。
「はあ?はああああああああああああああああああああああっ!?」
消えたという事は恐らくルーム退出のボタンを押したのだろう、数年前やった時の記憶に残っている。という事はこれって盗まれたって事になるんじゃないだろうか。運営も管理してないのだし、この先あのアイテムが俺の手元に戻る事は無いだろう。