第一話「チートコードによる異世界転生」
「ギャヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ」
脳が焦げる様に熱い、眼が霞み目の前の景色は白い光で覆い尽くされていた。
とにかく、とにかく救急車を…手をポケットに伸ばし白の光に包まれた中から、一刻も早く救急車を呼ぼうとスマホを取り出そうとする。
機種はアイホンファ…いや、そんな事はどうでもいい、とにかく、とにかく助けを…。
ポケットの辺りから何かを掴んだ、だがこの感触。これはスマホと比べて明らかに柔らかい?その柔らかい何かは掴まれた状態で必死にもがく、唐突な事だったので俺もその柔らかいものを離さずに握り続けた。
もがいているその何かは俺の右手と共にあちこちへ四方八方に移動し、ついには股間部分にまで密着してしまう。次の瞬間、その柔らかい何かは股間をズボン越しに掴むと、小刻みに震え始める。これはまるでスマホのバイブレーションのよう…いや、スマホというより大人のおもちゃの方の…。
「はぁ…ん」
「何すんのよ!」
「あぎゃっ!」
ほっぺを思いきり叩かれる、誰だ?
目に霞みがかった白い光は徐々に無くなり始め、前を向くとそこに立っていたのは左手を前に突き出し、ビンタをしたような構えを取っている女の子だった。
だがただの女の子じゃない、その緑に輝いている目の大きさ、モデルのようなスタイルに、腰元まで伸びきった緑髪、背中に背負った大剣、このどれもが現実世界の者とはかけ離れている、まるでアニメのようだ。それに何より可愛い、こんな美少女になら殴られても全然いいじゃないか。
「何じろじろみてんのよ?ぶっ殺すわよ?」
「えっ…あ、ごめん」
い…今のは嘘です。
俺にビンタの味を教えてくれたのは彼女で間違いなさそうだ、鏡で見たわけじゃないがほっぺは絶対に腫れている、少しだが血の味がした。
少しの間無言が続く、俺は今すぐここから離れたかったが丸で獣王が獲物を狙うかの如く、目前にいる少女は俺の体を鋭い目つきで睨んでくる。
「あんた、もしかして私の事覚えてないわけ?」
「はぁ…」
「いや、はぁ…じゃなくて!まさかあなた本当に私の事忘れちゃった訳?いや、忘れたとは言わせないわよ、無理やりでも思い出させて…」
「いやー!暴力反対!」
手指の骨を見事に四本鳴らし少女がこっちに近づいてくる、その姿があまりにも怖かったので思わず足が竦み、地面にへとへばりついてしまう。
お…落ち着け、こんな美少女に殺されるのが理想の死に方だって現実世界でも言ってたじゃないか!
だがしかし、いざ実際に会ってみると死ぬのはごめんだ、よりにもよってこんな理不尽な暴力をしてくる女に何で俺は殺されなくちゃならないんだ、何か段々腹が立ってきたぞ。
体内から湧き出てくる何かが頭の前に溢れ出す、その実体は雷だった、目前には雷がバチバチと音を立てて集まっている。そしてその雷は俺の意思に従うかのように目前にいる少女の体に「ズドドドンッ!」という音を響かせ直撃する。
「アギャギャギャギャギャギャ」
「おっ」
その雷が当たった緑髪少女の体は全身丸こげの始末だ、やったと思いガッツポーズを少女の目前でする。
「あんた本気でぶっ殺されたいようね」
「ちょ!ちょっと待った!両成敗ですよ、両成敗でいいじゃないっすか」
「何が両成敗よ!一発の質ってもんが…いや、まあいいわ」
背中にある大剣の鞘を掴む少女は、引き抜こうとしたその手を離す。
「ていうか何で雷なんだ!?」
「はあ…あんたまだ気づかないの?」
「何が!」
「この世界の事よ、あんたが現実世界がつまらないっていうから切り離してあげたんじゃない」
は?何を言っているんだ?この世界?リアル?謎が謎を呼び、収集がつかなくなるぞこれは…。いや、確かに俺は現実世界から日々出たいと思い続けていた。
だが、これとそれに何の因果関係が、いや…待てよ…もしかしてこの世界って…。
「ジオトーラトオンライン?」
「はあ、やっと気づいたの、ていうか自分で作ったキャラぐらい忘れるなっつーの」
「もしかしてストレンジャー2号か?」
「あら…覚えてたようね、ひとまず一発ぶん殴っていいかしら…」
「なんでぇ!?」
薄気味悪く笑うストレンジャー二号に思わず後ずさり、転んでしまう。
ストレンジャー二号とはこの世界、つまりジオトラートオンラインで作り上げたこのキャラがそうである。ついでに厄介な話でジオトラートオンラインとは友達に誘われてやってみたチート地帯しかないゲーム、故に運営が仕事をしていないクソゲーである
「はあ、よくもこんなだっさい名前つけてくれたわよね?ていうか一号どこなのよ!」
「いや一号はだな、違うコンシューマーゲームでの…」
「語らんでいいわ!」
とにかくある程度理解した事がある、これは夢なのだ…夢に違いない。
「ほげっ」
目前にいる緑髪美少女に頭を強く殴られ、思わず両手で抑えてしまう。
涙がちょびっとばかし出てしまった、こんなに強くぶつことないのに。
「ていうかなんなんだよ!何で俺はこんなクソゲーの世界にいるんだよ!さっさと俺をここから出せ!」
「クソゲーいうなし…だからそれを今から説明するってのよ、あんたが私の癪に障るような事ばかり言うからこんなに長くなったじゃないの」
喋り方まで俺が操っていたストレンジャー二号時代にそっくりである、あの当時は確かネカマプレイヤーとしてやっていたっけな、喋り方が俺好みなのが少し辛い。
「で、今どんな気持ち?悔しい?」
「なんだその質問は!まあ悔しいといえば悔しいが…俺をさっさと元の世界に帰せ!」
「ふふふ、その言葉を聞きたかったのよ、でもあなたにはもっと悔しくなってもらうわよ?」
煽り方まで俺にそっくりだ、可愛くない。それに目もどこか虚ろで怖い、アニメチックなデザインなだけに俺が見た事があるホラーゲームの美少女キャラにそっくりである。
緑髪少女ストレンジャー二号はにやりと笑みを浮かべ、俺の顔を見下ろすかのように見つめてくる。今度は一体なんなんだ?
「だから俺を出せっ…」
「いやーそれ無理!だって私があなたをここに連れてきたんだもん」
「はあ?何を言って…」
「ふふふ、よーく思い出してごらん?あなたの最後、死んだときの最後を」
最後?死んだ…ってええ!?俺死んだのか!?
驚愕の事実に口を呆ける事しかできなかった、おかしな世界に連れられたと思いきやまさか自分が死んでいたなんて思いもしない。
確か俺が死んだのは電流のようなものが流れた時だ、ていうことは正体は雷か?少し曇っていたしまさか運よく俺に直撃するなんて。
「運よくじゃないわよ?」
「…!?お前俺の心が読めるのか???」
「当たり前でしょ、ご主人様なんだから^^」
「何でもありじゃないか…っていうか俺をここに連れてきたって事はお前もしかして!」
「ようやく気付いたのねご主人様♪そうよ、私が現実世界のあなたを殺したのよ」
「はぁ?」
「本当よ、だってあなたプロローグで現実世界から出たい出たいってあれだけ叫んでたじゃない?それに確認するように私、本当に?って聞いたわよね、覚えてないかしら」
「なっ…あの時話しかけてたのはお前だって言いたいのか?」
「そうだわ」
全然気づかなかった、俺の心で話しかけてくるあいつは俺が生んだキャラだと思い込んでいた、それに何より性別が分からないのだ。まさかこんなクソゲーから出てくるキャラが喋っていたなんて思いもしない。
「で、どう?今どんな気分なのよ?」
「べ、別に…何も思ってねえし」
「うそだ!悔しいのぉ~悔しいのぉ~」
くそうざい、なんだこいつは。まるで、中学生だった頃の自分を鏡越しでみたようなそんな気分である。傍から見るとこんなにうざかったのかと少し気恥ずかしい、こいつを見ると冷や汗が止まらないぞ。
「うおおおおおおおおお!やめてくれえええええ!!!!!!」
「何急に、自分の黒歴史を晒された事がそんなに後ろめたい事なの?」
「分かってるなら聞くな!!!何から何まで訳が分からねえんだよ!もう帰れ!いや、俺がどこかにいく、お前みたいなサイコパス女とこれ以上付き合ってられるか」
頭に浮かぶのは帰る場所の事ばかりだった、とにかく帰りたい、帰って今すぐに中古で買ったシリコンおっぱいを揉みたい、VR世界の女の子達と妄想世界でハァハァしたい。だがそんな幻想を早くも打ち砕くかのようにこの女の余計な一言が入る。
「無駄よ、いくら探しても帰れないわよあなた?」
「うるさい!俺にもう構う…ってなんだこれ…」
どこかに行こうとした足を止め振り向くと、目前にいる少女は俺に見せつけるかのようにでかい画面を空中に掲げていた。その画面は周りにある背景を透き通るかのように薄い画面である。確か当時やってた頃は、システム上右下辺りをクリックすると出てくるpvや広告などのしょうもない映像ばかりだったが。
彼女が掲げていたその映像はしょうもないものではない、なにせそこに映っていたのは。
「あ…ああ?…なんだこれ…」
「ちょっと見えづらいけど馬鹿の君にも分かったかな?」
そこに映っていたのは黒焦げの少年が地面にうつ伏せで倒れている姿だった、確か俺が意識を無くした場所だ、間違いない。特に警察が集まる訳でもなく、医者が集まっている訳でも、マスコミが集まっている訳でもない。
「はぁ…はぁああああ?」
「ふふふ…あなたはこれがあなたのお望みだった事でしょう…ようこそジオトラートオンラインへ」