冥界受験地獄
「あちらに見えますのが阿鼻地獄でございます」
そう言って赤鬼は窓の外を指差した。そこにはまさに地獄絵図と言ったような光景が広がっていた。
ここは死後の世界、それも地獄である。俺は今、その地獄を一周する列車に乗せられているところだった。どこかの地獄に送られる前の見学ツアーと言ったところらしい。
ツアーガイドの赤鬼は次々と説明していく。
「あれが叫喚地獄、あれが大叫喚地獄、そしてあれが受験地獄でございます」
「受験地獄?」
俺は思わず聞き返した。
「はい。受験地獄です」
「どんな地獄だよ、それ」
「名前の通り、大学に行くための勉強をする地獄です」
「大学ってどこだよ」
「地獄大学です」
「地獄大学??」
なんだその大学は。行っても何も楽しそうじゃない。っていうかなんで地獄に大学があるのだ。
「そりゃあ、地獄ですからね」
「お、お前、俺の心を読みやがったな!.....まあ、いいや。で、どんな教科があるんだ?」
「へい。国語、地獄、理科、社会、英語です」
「待て待て待て。なに地獄って。そこは数学じゃないのかよ」
「だって算数ならともかく、数学って地獄で必要ないじゃ無いですか」
「そんなこと言ったら、他の教科だってそうだろ!」
「外人の亡者もいますから、英語は必要です」
地獄もだいぶインターナショナルになったものだな。
「じゃあ、社会は?」
「社会は地獄の地理と地獄の歴史、あと地獄の裁判制度を学びます」
「ううん、なるほど。じゃあ理科は?」
「物理と化学と地獄生物ですね」
「なんだその地獄生物って」
「そのまんまですよ。地獄の生物について学びます」
「じゃあ、物理と化学は?地獄でどう役に立つんだ?」
「物理は自分を押しつぶす岩の重さを計算できますし、化学は自分を溶かす酸の成分を知れます」
「そんなの知ってどうするんだ」
「恐怖が倍増しますね」
「バカヤロウ」
そこで、俺はふと考えた。
「....でもよ、国語なんかは本当に役に立たないじゃないか」
「そうですね。でも、それは現世でも同じでしょう」
「とんでもないこと言いやがる!」
「ま、国語は主に芥川龍之介の蜘蛛の糸とかを読みますね」
「へ、へえ〜」
「他に質問は?」
「そうそう、数学の代わりにある地獄ってのはどんな教科なんだ?」
「まあ、簡単に言うと総合問題ですかね。地獄に関する」
「ほお、例えばどんな問題だ?」
「私の好きな食べ物はなんでしょうか、とか」
「は?なんだその問題?どの教科?」
「地獄生物です」
「地獄生物の教科って地獄の生物の食べ物の好みまで聞かれんの?......っていうかお前、『地獄の生物』っていう括りなのか」
「ええ、まあ。ちなみに答えはその日の気分によって変わります」
「ふざけんじゃねえよ」
とっぴんぱらりのぷう。