8話 緊急依頼
複数のパーティで受ける依頼、それはこの世界でいうところの合同依頼というやつである、突然何を言いだすのかと不思議に思われるかもしれないが冒険者になって2,3日しかたっていないハルに今日それが舞い込んだからである。
メイガスに戻り何とか初日に泊まった宿に泊まれたハルはまとまった金額を手にしたので数日間、とりあえず10日間の契約で部屋を借りることにして5000コインを払っておいた。
朝になり何か依頼を受けようとギルドに向かい掲示板まわりの人ゴミを見てげっそりした表情になり近くの椅子に腰かけて人が減るのを待つ、するとしばらくして・・・。
「大変だ!近くにドラゴンタイプのモンスターの群れが出たそうだ!」
と言って駆け込んできた冒険者の出現でギルド内が騒然とする。
ドラゴン・・・いうまでもなくこの世界においても強大な力を持つ種である、ただし強大な力を持つ種であればあるほど群れなくなる為今回駆け込んできた男の情報から大した種ではないと判断は出来るが・・・それでも相手はドラゴン。
どんなに弱いドラゴンの種でも凄腕のベテラン冒険者ですら油断したら怪我では済まない相手である。
「領主様が騎士たちを率いて討伐にあたるそうだけど規模が大きいらしくって討ち漏らしがあるだろうから俺達にも依頼が回ってくるんじゃないかって話だ!」
息を荒くして駆け込んできた冒険者がギルド内で演説していた、演説が終わると今度はギルドの奥からパッと見た感じ長い白髪を三つ編みに束ねてレンズのちっさなメガネを軽くかけ、ボリューミーな鼻ひげを左右に伸ばし重力に従ってしならせた爺さんが手を後ろに回して「ふぉっふぉっふぉっ」と薄く笑いながら出てくるとギルド内にいる冒険者全員に聞こえる様に。
「これよりランドトルーパー討伐補助の依頼を受ける者を募集する!我こそはと思うものはこれより受付にて申し込んでくれ、多くの希望者を期待しておるぞ!」
そういうと爺さんはギルドの奥に帰っていった・・・ハルは受ける依頼をそれに決めていつもの列に並ぶ、周りの流れに乗ったというのもあるのだが何も考えないで並んだハルは依頼書を持っていない者が多く並んでいたのを後になって確認して一安心する。
「これはハルさん、ハルさんも今回のランドトルーパーの討伐依頼を受けるんですね?」
「・・・(こくり)」
「ではこちらに記入後控えを持って町の外で待機している騎士ラカン・メイガス・グランドール様にお渡しください。今回はラカン様が兵の指揮をとられるそうですので」
「ぶふぉ」
「はっハルさん!どうされました?」
慌てる受付嬢のぺリさんに手を上げて問題ないと示す・・・ラカン・メイガス・グランドールは言わずともわかるようにハルの兄である。
(よく考えたら領主の兵を指揮するんだから次兄のラカン兄さんが出てくるのは当然か・・・考えて無かったから盛大に吹き出しちゃった、絶対変に思われたよね)
因みにラカンはハルとは異母兄弟だがアイザムと昔から仲が良かったため三男四男と割と仲がいいという近年稀に見る仲良し兄弟である・・・四男は少しぐれ気味ではあったが、ついでに瞳の色なのだがメイガス家の生まれの物は何故か金色になるらしい、あとラカンの髪の色は赤みがかった茶色で角刈りである。
とりあえず記入を済ましてギルドを後にするハル、消耗品を買い直してから町の外の待機場所に向かう。
兵の数が多かったので楽に待機場所に合流出来たハルは早速近くの兵に依頼書を見せてラカンの場所を訪ねる・・・声を出さないで名前を指さすだけという方法で。
「ラカン様ならあそこのテントで冒険者たちを待っていますぞ?そろそろ挨拶が始まるからお急ぎくださいハルファス様」
「・・・(こくん)」
一応メイガス家の兵だからかハルの顔をしる者もいたようだ、久しぶりにハルは自分の名前を呼ばれてちょっとドキドキしているようだ。
ハルがテントについたらラカンと目が合う・・・しかも空いてる席の数を見るにハルが最後のようだ。
「オッフォン!それでは君たちに依頼の説明をする、と言っても難しい事でもないので気負わないで聞いてくれ」
と言った滑り出しから依頼内容の説明を始める、と言っても先にラカンが言ったように難しい事は無く指示された場所に控えて兵たちが討ち漏らしたランドトルーパーを退治してほしいという依頼だ、1匹当たり8000コイン、ランドトルーパーは滑走型と呼ばれる竜種で見た目を簡単に説明すると恐竜のラプトルという奴の後頭部に角と全身に羽毛が生えた奴、また完全武装の人が1人2人乗ってもスピードを落とすことなく走れるため騎獣としても人気だ・・・スペース的に大人は1人しか乗れないのだが。
依頼内容の説明の後に班分けが言い渡される、ハルは兵の展開する場所の右翼後方に陣取ることとなったのだが。
「ちょっと待ってください!」
班分けを言い渡されたあるパーティのリーダーが待ったをかける。
「なんだい?」
「この班編成ですと我々右翼後方の人数があまりに少ないと思うのですが、といいますか右翼自体の兵数も少ないですよね?」
「よく気づけたな君!実は右翼側には正直過剰な戦力を持つ者がいるからもっと削ってもいいんだがさすがに怪我人が増えそうだからこの数に抑えたんだよ!」
「過剰な戦力ですか?」
「・・・(じー)」
(説明聴きに来るのが遅かったからって酷くないですかラカン兄さん)
何とか交渉を試みた冒険者だったが相手が相手なので強く言えずに結局そのままで進めることとなった、話が決まる解散して指定の場所に各々向かう・・・のだがハルはラカンに捕まってしまい。
「なんだよ、そんなに急いでいかなくても大丈夫だって、それにしてもお前が参戦するんだったらこんなに兵はいらなかったのにな、なぁハロルド?」
「そうですな、正直我らが後詰でお二人で殲滅してもらったほうが早く終わったでしょう・・・しかしそれでは兵に緊張感が生まれませんし錬度も下がってしまいますぞ?」
「・・・(こくこく)」
(その通りですよハロルドさん)
ラカンの言葉をオブラートにダメだしする副官のハロルド、メイガス家に長く使える騎士の1人で歳は40手前で実力は折り紙付き、髪は抜けきりスキンヘッドだが濃ゆい眉毛が男らしさを一層引き上げている、体格はしいて言うなら熊の様でフルアーマー姿はまるで壁のようだ・・・そしてハルの方を掴んでいるラカンの師でもある。
そのため常軌を逸したメイガス家の4兄弟の実力をきちんと把握している者の1人であり、それでもメイガス家の力だけに頼ることを良しとしない武人の鏡のような人物である。
「ハロルドは固いんだから、まぁ今回は俺だけでも過剰戦力なんだし楽勝だな、だからハルも気負わないで行くようにな?」
「・・・(こくり)」
(ご安心を、私はもう今までの自分の魔法が使えなかった未熟者ではないんですよ!)
「それじゃあそろそろ狩りに行くか?」
気軽な感じでラカンの言った「狩り」という言葉にラカン自身の雰囲気が変わる・・・ハルも知っているラカンのお仕事モードだ、こうなったらしばらくはアイザムより厳しいのでハルは一礼して持ち場に向かう。
そして狩りが始まる、場所は草原兵の装備は基本フルプレートで前衛は槍、中衛は投擲用の槍と接近された際の槍、後衛は誘引や幻惑などの魔法を使って相手を惑わす支援と言った編成になっている、弱いといっても竜なので矢を放っても効果が薄いのだ。
舞台は広大で見晴らしのいいグラン草原のど真ん中、走ってくるのは200匹はいるであろうランドトルーパー、ランドトルーパーの群れが突然止まる・・・そこには事前に設置しておいた大量の魔物の肉をばらまいてある。
完全に群れの動きが止まったことを確認してラカンが一本のジャベリンを受け取りジャベリンにおのれの魔術を纏わせて投げつける纏った魔法は冷気、ラカンの扱う魔法は熱魔法、任意の範囲の熱量を自在に操る魔法だ・・・ただし起点を指定するためには自らマーキングする必要があるらしい。
ラカンの手を離れたジャベリンは初速から音速の壁を越えておりラカンの周りは衝撃波で吹き飛んでいる。
「相変わらずの化け物っぷりですな」
「茶化すな、兵たちよ我が槍に続け!」
ラカンの号令と共に兵たちが次々とジャベリンを投げる、ラカンの槍にまとわせた冷気の為に身動きが鈍くなっているランドトルーパーの群れは碌な抵抗もなくジャベリンの雨を受け続ける、が何とか冷気の範囲から逃げ出した竜が兵たちに突進してくる。
勿論それにも対処する兵たちだがそれでも数匹は囲いを突破して逃げ出してしまう奴もいるそういったモノを冒険者たちが狩っていく。
ほとんど一方的な蹂躙劇であったのだが、囲いの薄い右翼では少しドラマが起きようとしていた。