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コミュ障召喚士の自分召喚物語  作者: なんてこった
コミュ障召喚士の始まり
2/62

2話 召喚術

 召喚術・・・コミュ障のハルファスが10歳の時に適正の出た魔術で他によく出る火魔術や水魔術などと一線を隔した凄まじい性能を誇る魔術である。


 例えば契約した者が使える魔術は契約者自身も若干使用する魔力が多くなるが魔法陣を媒介に使うことも可能になるし勿論、喚び出した召喚獣も召喚士の込めた魔力が続く限りフルスペックで戦う事も出来る、そして召喚者の魔力を上乗せすればその能力の上限すら突破できるとも資料などには載っている。


 ただしその素晴らしい性能の魔術も契約した相手がいてこそ成り立つのだが。


「また契約できなかった・・・はぁーこうやって一人でいたら喋れるのになんで相手の顔を見たら声が出なくなっちゃうんだろう・・・今回は相手の方から名前までいってくれたのに、また喚び出したら迷惑だろうし・・・はぁー途中まではいい感じだったのになー」


 盛大に溜息をつきまくる黒髪に金の瞳の青年ハルファスは伸び放題の髪をかき分けながら頭をかき何がいけなかったのかの反省を始める・・・いうまでもなくハルファスが一言も喋らなかったのが原因なのだが・・・。


「名前が分かってたら後は名前を言って私の従ってくれって言えば私の魔力量ならきっと契約できるはずなのになー・・・上手くいかない・・・喋れない・・・何あの顔怖すぎ、なんであんなにこっちの顔をじっと見てくるんだろう?あんなに見てられたら喋れないじゃん」


 自分が先ほどの悪魔を凝視していたことは棚に上げて悪魔に対して文句を言うハルファス、ハルファスの独り言でも理解できる方もいるだろうがここで召喚術の契約の流れを簡単に説明しておこう。

 

 まずは魔物でも何でもいいので相手を屈服させる、方法はなんでもいいので相手の心をへし折る、今回ハルファスが悪魔にしたのは魔法陣で縛り上げて一切の身動きを封じていた、次に屈服した相手の名前を聞きこちらから契約しないかと提案して相手に了承させれば契約完了なのだが・・・ハルファスはこの工程がどうしても苦手で相手と延々にらめっこをすることで未だに契約した者が皆無なのである。


「どうしよう・・・明日アイザム兄さんが家を引き継ぐから十中八九追い出されるし、あああああ私の明日が暗すぎる!なぜ神は私にこうも試練を与え続けるのか!」


 明日ハルファスの実兄にあたるアイザム・メイガス・グランドールが家督を引き継ぐことになっている、彼はメイガス家の長男で自分に厳しく実の弟のハルファスにも厳しかった、ハルファスはまともに自分の魔術が行使できないということで長年実家暮らしであったが今年で既に18歳、世間的には立派に働いていないといけない歳である。


「うううう、せめて私個人の魔力行使で使える魔法ならいくらでも食い扶持があったかもしれないのに・・・神様ただただ御恨みします・・・ハッそうだ神様を召喚して契約したら!・・・ダメっぽいな、イメージが沸かないし」


 魔法はイメージを形にする法、魔術は魔法を行使する術、コミュ障で一人の時間が長かったハルファスのイメージ力は他の魔術師の一線先にあるといっても過言ではないがさすがに神様まではイメージが付かなかったようだ・・・何々の神とかは何とかなりそうだがそれではさっきの悪魔と同じ帰結にしかならないだろう。


「くううう、こうなったらダメで元々だ!とにかく契約が出来るまで召喚しまくってやる!」


 と意気込んだハルファスはその魔力の限りを持ってかたっぱしから召喚し朝まで無意味なにらめっこを続けるのだった。


 朝の日差しで日を跨いでから12体目のにらめっこ相手が「もう朝なんで」と帰っていく・・・結局一晩中喚び出した相手との不毛なにらめっこで終わってしまったハルファス。


「終わった・・・このまま魔力制御だけで食っていく事になった・・・なぜこの世界は私にこんなにも厳しいのだ・・・」

 

 といったハルファスの呟きが終わったのを見計らってかハルファスの部屋の扉にノックする者がいた。


「こんな時間に・・・爺やかな?」

「ハルファス様、ご支度はできておられますかな?」

「いやまだだ良ければ手伝ってくれないかな」


 ノックと共に爺やの声がする、一応ハルファスも家族やそれに準ずるものとは喋ることはできる・・・顔は見れないが・・・。


「失礼します」


 入室してきた老人は執事服を身にまとう白髪の紳士である名前は。


「悪いねセバスチャン・・・今日昼過ぎからだよね?出席する時に来ていく服を頼むよ、ついでに髪も切り揃えときたいから手配も頼む・・・今日でここから追い出されるだろうから・・・」


 とセバスチャンに聞こえるか分からないほどの小さな声かつ早口で要件を言うハルファス・・・老人に対して少し酷であるがセバスチャンも大したもので半分も聞き取れてないだろうにてきぱき作業を進めていく。


「坊ちゃま、本日はこちらをお召になってください、着替えはご自分で出来ますな?では髪の方も手配してきますのでこれで失礼いたします」


 ハルファスに礼をしてセバスチャンは退室する、ハルファスは自分の荷物を纏めてセバスチャンが出て行ったことに気づかなかったようだ、いや気づいていたのだがセバスチャンの方を向こうともしなかったというべきか・・・。


「はぁー遂にこの家ともさよならか・・・この部屋で過ごした日々・・・」


 ハルファスは感極まったのか目じりに涙をためている。


「私もこれから一人の社会人として過ごさねばならない・・・いつまでも親に寄生していてはダメになる・・・何よりアイザム兄さんに許してもらえないだろう、あの堅物は私の苦労も知らないで召喚術だけがすべてじゃないなんていいくさりおって!今思い出すだけでも腹が立つ!!」


 と急にテンションが上がりだすハルファスだが当時のアイザムが言ったのは「召喚術だけがお前の全てじゃない、その魔力やそれを完璧に扱いこなすお前の努力こそ称賛されるべきものだ!」と言ったのだが・・・ハルファスは最初の言葉で頭に血が昇り最後までちゃんと聞いて無かったのだ。


 しばらくして落ち着いたハルファスの部屋にセバスチャンが手配していた美容師が到着しハルファスの髪を切る・・・美容師はいつも通りにハルファスに要望をこ訊こうともせずに黙々とセバスチャンからの依頼通りに丸刈りにした、それに対していつも内心憤慨するハルファス・・・だが文句を言おうにも顔を見たら黙ってしまう自分の癖にいつも通り美容師が帰っていくのを「じー」ッと見つめるだけだった。


「また・・・文句も言えなかった・・・結局私はあんな人の頭を丸刈りにするしか能の無い名ばかりの美容師にすら劣るってことさ・・・ははははは」


 乾いた笑いを放ちながら体についた髪を洗い流すためにハルファスの部屋に備え付けられたシャワーを浴びに行く、魔力を込めてイメージしたら込めた魔力の分だけイメージした温度の水が出るという優れもののシャワーだ・・・持ち運びは出来ないのでハルファスがこのシャワーを浴びるのはこれが最後だろう。


「持ち運びできたら便利なのになこのシャワー・・・」


 そして体をひととおり洗い終えて用意してあった服に腕を通す、頭もすっきりしたため眼の下のクマを除けばスーツ姿の立派な紳士に見える、そしてその姿見の鏡を見ながらいつものアレを始める・・・。


「あ!い!う!え!お!」


 そう発声練習だ。


 彼はいつも誰にも見えないところで常に努力を続けてきていた、自分に何が足りないかを常に考えて何を練習するかも考えて考えた結果、彼が出した答えはこの発声練習だ・・・努力の方向は間違っていないと思うが彼に必要なのは友人だったんじゃないかと少し思う。


 「こんこん」とノックが聞こえてきた、外を見ると日が真上に昇っていたようだ、そんなことを確認していたら入室の許可を求めて返事を待たずに入ってきた。


「そろそろ昼食の用意が出来ましたのでお呼びに参りました」


 メイガス家につかえるメイド長のメイサが勝手に入ってきてハルファスの緩めて着けてた蝶ネクタイをキュッと締めて「お待ちしております」と部屋を後にする、勿論その間ハルファスは一切目を合わせていない、そして文句も言えない。


「メイド長とはいえさ、返事くらい待つもんだろ?まだ私はここの家の住民なんだぞ・・・」


 言うべき相手がいなくなった部屋で負け惜しみを言うハルファス・・・召喚術がうまく使えないだけでここまで情けなくなるのだろうか?いやこの場合は単純にハルファス自身が情けないだけのような気がするが。


 父、2人の母、兄アイザム、その奥方、そしてハルファスで食卓も囲みそれなりに他愛のない会話を交わしながら食事は進む・・・もちろんハルファスは会話に参加できていないのだが。


 そして、食事がすみ遂に家督を兄が譲り受ける時間となってしまった・・・と言っても身内内での簡単な略式ではあるのだが、それでも父が、兄に家督を譲るのだ、なんやかんやで末っ子のハルファスに甘かった両親ともう一人の母親がハルファスに活を入れるために自他ともに厳格な兄に家督を譲りハルファスに活を入れる考えなんだろうというのはハルファス自身にも分かっていた・・・分かっていたのだが彼としては契約が1体でも出来てからにして欲しかったというのが本音であった。


 そして案の定ハルファスは兄アイザムに「広い世界をみて周り召喚術だけがお前に才能の全てじゃないと示して来い」と家から出て行く様に命令された・・・ハルファス的には勘当されなかっただけでもよかったかな?としか思ってなかったのだが。


 そして次の日の朝に旅たつことにしたハルファスはその夜にセバスチャンとキャッチボール出来ていない会話を交わしている内に気づく、自分はセバスチャンとは会話が出来るのにと・・・実際は出来ていないというのは野暮なことだろう。


「セバスチャン!」


 興奮して声が裏返ったハルファスの声に驚きハルファスの顔を見たセバスチャンは絶句した・・・いつもの怪しい輝きを放っていたハルファスの瞳の周りの白目の部分がこれでもかと言わんばかりに血走っていたからだ。


「どうなさいました坊ちゃん?」

「セバスチャン!実はお願いがあるんだお願いというのは他でもない私の召喚獣として契約してほしいんだ」


 早口でセバスチャンにまくし立てるハルファス、ビビるセバスチャン・・・しかしセバスチャンも歴戦の執事、ハルファスの早口は大半が聞き取れなかったがそれでもイエスとは言ってはいけないと直感が告げてきたので。


「申し訳ありません、私が今後仕えるのは兄上様のアイザム様です・・・幼少の頃よりお世話申し上げた坊ちゃまには申し訳ありませんが辞退させていただきます」


 とセバスチャンはハルファスの勧誘を振り切りハルファスの荷造りの手伝いに戻る・・・逆にハルファスはショックで動けない、セバスチャンに「NO」と言われたことが、では無く自分ではちゃんと喋れたつもりだったのに契約をすることが出来なかったことに対してである。


 あまりのショックに後の事を全部セバスチャンに押し付けて部屋を後にして庭に出る・・・テイマーである兄の1人によってテイミングされたハウンドと呼ばれる家の番犬代わりのモンスターがハルファスにすり寄ってくる。


「お前たちとはちゃんと喋れるのにな・・・なんで喚び出した奴らやノラのモンスターとは喋れなくなっちゃうんだろ、はぁお前たちにも召喚獣にならないか持ちかけられたら今の世が私にとってどれほど生きやすい世の中だったろうか・・・なんだよテイミングモンスターは既に主が定まっている為に契約は出来ませんって」


 とハルファスは愚痴る、実は過去の召喚魔法を修めた者が書き残した文献にテイマーによってテイミングされたモンスターに対しては契約を申し込むことが不可能だということが判明している・・・だがハルファスは一抹の希望を持って一度ためしたことがあり結果は契約失敗、会話にいたることすらできなかった。


「お前たちや鏡の前の私になら気兼ねなく話すことが出来るのにな・・・ん?」


 ハルファスは何かに引っ掛かりを覚えたのだが何に引っ掛かったか分からずに明日は速いからという理由で屋敷に入りその日を終えるのだった。

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