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七夕の夜に  作者: ささ
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分けようか悩みましたが、そのままで投稿です

興奮した神官達を横目にエメスは女を見続けた。顔を赤くして手を当てている姿は無害に見える。

先程のカルロの確認と神官達の質問であらかたの内容は把握した。そして、この女が御使いであること。これは最終確認しなければならない。御使いはこの世界とは異なる場所の者のはずだ。今、この時この場にいることは生まれ生きた世界から切り離されてしまったことに相違ない。


(守る。この世界でたった一人だ。何者にも代えて守ろう)


エメスは自然と思った。そして、まだ顔を赤らめたままの女に近寄ると、目を見開き怯えるように震える女に構わず頭を撫でた。


「守ってやる。何者からも。だから、もっと楽にしろ」


エメスは女の目を見つめ笑った。そして怯えが治るまで頭を撫で続けた。




女がエメスに慣れた頃、やっと神官達は興奮を内に納められるようになった。その中で上位に当たる神官が声を上げる。


「これから貴方様を連れて行きたい場所があるのです。ご足労願います」


神官達の鼻息荒く隠しきれていない気分の高揚を見て取りながら、カルロも女を誘導した。件の現場確認に行くのだ。



エメスは女を誘導しキシュウを呼び寄せた。女は目を輝かせて空イルカを見ていた。


「うわーっ。空飛んでる。夢ってすごい」


女は乗ってからも興奮しており、この世界では有名な騎獣を知らないことが丸わかりであった。


(空イルカでこんなに喜ぶとは。本当に何も知らないんだな。このままだと変なのに騙されるぞ)


エメスは女が落ちないように腕で囲う。女は周囲をキョロキョロと見回していた。


(なんとも落ち着きのない幼子のようだな。だが、楽しんでいるなら良い)


女が笑っていれば、それが良いとエメスは思った。




しばらくすると眼前に空ノ島が現れた。螺旋を描きキシュウは上昇する。空ノ島の端、天ノ川の下流から上流にのぼっていく。

やがて星溜まりが見えてきた。天ノ川の星溜まりの中州で儀式は行われる。

エメスは先にキシュウから降りると女を持ち上げゆっくりと中州に降ろした。


神官達も続々と中州に降りている。皆が落ち着いた頃にカルロが口を開いた。


「では、此処での確認を始めます。儀式担当者は何処に?」


二人の男女が現れ、中州の奥に行き座り込んだ。その姿を見て、次に女に声をかける。


「貴方は何処から彼等を見ていましたか?」


カルロの声に女は歩き出し、迷いなく天ノ川に入っていった。それを見てその場にいた者たちは息を呑んだ。


女は天ノ川に空イルカなくして立っている。

天ノ川は川と呼ばれているが川ではない。地があるわけでもない。直人が浮いていられるものではないので立っていること自体がおかしいことなのだが、女はそれを平然とやっているのである。


(話は聞いていたが実際に見ると衝撃が強いな)






私は思っていた。天ノ川に浸かるまでいろいろと。


(空飛ぶイルカっ。すごいっ。マジで空飛んでる。風が気持ちいー。あと、タンデムですか。こんの男性に後ろから抱えられる状態、私には耐えられんっ。はずかしっ。もーもーもーっ。さっきは頭を撫でるし、この夢の世界の男はたらしかっ垂らされまくりかーっ。怖さとか飛んじゃうくらい垂らされてるよどうしよぅ。おっつ、アレってバルスられる島かいな。空の島って言ってたけど、そのまんまやんけ。うわーキラキラしてんなー。ってあれ、前にも見たことあるような。なんだっけ)


(ぎゃふ。こう男性に両脇持たれて降ろされるなんて夢の中だからなのかいなっ。これって私の潜在願望。マジか。どれだけ乙女心が飢えをきたしているんだ。あぅー。なんともない顔してやってのけるエメスめ。たらしかっ)


カルロの声で二人の男女が出てきて奥の方に行くと座り込んだ。


(あー、見たことあると思ったら、リア充爆発はせんでいいから幸せわけとくれと思ったお二人さんじゃないか。現場確認って言ってたけど刑事ドラマにおける現場検証ね。変なところできっちりしてる夢だなぁ)


次に私はカルロに言われた通り天ノ川に入っていった。


(夢の登場人物多すぎ。それにしてもちやほやされたい願望が強いのかな。愛されたいとは思うけど、愛さないと愛されないからなぁ)


カルロに向かって二人の男女を前にしていたことを再現してみた。反応がないので不思議に思い顔を上げた。


(どうしたんだろ、みんな口開けてぽかんとしてる。間抜け面してんぞー)


どうしたらいいのか困って、目の前にいた二人に苦笑いを送った。彼等は満面の笑みを返してくれて、更に対応に困った。


間抜け面から回復したらしい神官さんが戻っていいと言ったので天ノ川から上がった。

すると奇怪な音が聞こえた。何かを押し潰したような音だった気がする。


(なんの儀式?)


神官さん達が空を見上げては転がっていった。ゴロゴロと何回転するのだろうか。


その内、渋い印象を受ける神官さんが近付いてきて『叶え星』について教えてくれた。その名の通り願い事を叶えてくれるらしい。

そしてその叶え星が今まで見たことがない程の数、力を持った状態で浮いているらしい。私の上で。見上げるとそこには柔らかい光が何個も浮かんでいる。数えるのが面倒になるくらいの数である。


(マジで。でも、願い事を叶えてくれる星なんて、持ってたら災いの元なんじゃない?小市民の私には夢の中だろうとも過ぎたものだ。管理とか無理っ。これを狙ってくる輩共の相手とか無理っ。平和が一番。何もない安定した生活を望むのよ。持っているだけで厄介事に巻き込まれるよ、絶対。よし、決めた)







徐に女は叶え星達に近付き、その一つを手に取った。見ている俺や神官達は亜然とする。叶え星が逃げることなく女の手に納まっているのは信じられない光景だった。その動きを目で追うしかできない俺等を置いて女は次の行動に移っている。誰かが声を上げた時には遅かった。


「あっ」

「キャッチアンドリリースッ」


女は叶え星を天ノ川に向かって投げつけたのだった。

やっとやりたかったことが出来ました。


お読みいただきありがとうございます。

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