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七夕の夜に  作者: ささ
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力の欠片

治療院に駆け込んだエメスは在中していた治療師数名と治療に当たった。途中から神殿神官も駆けつけて、広く治療しやすくしてあった室内は狭くなっていた。しかし、治療に馴染んだ人々の動きは滑らかだった。

女を寝かせた寝台を中心に幾重にもなる円を描き、力を送る。前列の力が尽きれば後列と交代し、力が回復すればまた前へと繰り返す。


「頭は終わった」

「右足できてるっ」

「右腕も治ってます」

「左腕、もう少し」

「左足、手を貸してっ」

「「はいよっ」」

「次、女性陣前に来てください。体幹は女性に。後ろから力を送りますよ、準備して下さい」

「左腕足終わった。あとはお願いします」


入れ替わり立ち替わり治療に当たる。力が少ない者は力を送る者達の支援に回っている。頭、両手足はうまく治療できた。次は体幹となり、男達は後ろに下がった。女達が前に行き、衣服を切り取っていく。息を呑む音が聞こえた。


「なんてこと」

「こんな、ひどい」

「はやく、治してあげましょう」

「「「はい」」」



ここまでひどい暴行を受けた女性はここ数年いなかった。

自然に治るはずの力が弱く、治療の力を注いでも効きが悪く流れてしまっているようだ。効いていないわけではない。本来ならばゆっくりと力を体に馴染ませ治した方が良いのだろう。しかし、女の状態はそんな時間を許さないものだった。無理にでも力を注ぐ。治れと強く念じれば力が湧いたように感じた。部屋の上空には淡い輝きがふわりふわりと浮いている。


治療で力を使い果たし者は次の段階に必要な物の準備に走り回った。


それぞれ見て聞いていたのだ。上位神官達が走り回り情報収集に慌てていた姿と声。

そして、この場にいる者が体験した治療術が効きにくい存在。

運び込んだ者がエメスという隊長であったこと。

どれも女が何か事件に関わる重要な存在ではないか、と考えてしまうには十分だった。


ただ、傷付いた女を治したい。その思いは強くみな同じであった。



やがて治療は終わる。準備された衣服を女に着せ、エメスは用意された部屋のベッドに女を寝かせた。

治療に当たった者達は静かにそれぞれの持ち場に戻る。その顔は疲労を滲ませながらも安堵が見て取れた。


エメスも部屋付きの者に声をかけると詰所に戻る。次に会うときは、その顔に笑みが浮いていれば良いと心に思ってキシュウに乗るのだった。



痛いのは飛んでいってほしい。

きれいに治りますように。

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