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百人一首  作者: 甲斐飛鳥
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百人一首(1)

序章

「あなたは誰かを殺したいとと思ったことはありますか?」

その質問を問いかけられたとき、『ある』と答える人は多いだろう。しかし、それを実行に移せる人間は何人いるだろうか。例え実行に移すことができたとしても大体は警察に逮捕されてしまうだろうし、逃げられたとしても殺したという罪悪感と捕まるかもしれない恐怖感に襲われてしまうだろう。しかし、稀にそういった感覚に襲われずにただ生き続けていく人間もいることは確かだ。彼らの大半は『殺し屋』と呼ばれる人間のことだ。今回の話はある特殊の殺し屋の話である。


第一章

 十二月も半ばに近い夜の空気は、肺が痛いほど冷たかった。

それとは裏腹に、彼のいる東京のとある繁華街はクリスマスムード真っ只中だった。すれ違う人々のほとんどがカップルばっかりで皆が皆、幸せな顔をしていた。しかし、彼の隣には誰もいない。勿論誰かを待っているわけでもなく、彼はクリスマスツリーの側のベンチに腰を落として、一人寂しく下を向いていた。

 

何かをするわけでもなく、俺はただただ座って下を向いていた。すれ違う人々はカップルばっかりだったため、俺なんかには目もくれずに歩いていく。時には視線を感じるが、それはここに居るには場違いな俺に対する怪訝の目であった。

勿論、目的もなく俺はここに座っているわけではない。ただ俺は人を待っているのだ。

何時間ここにいるだろうか。夜も老けてきて、辺りには人はほとんどいなくなってきた。しかし、いくら待っても誰も俺の隣の椅子には座ってくれない。

「…………」

もしかしたら、来てくれるかもしれないという淡い期待はあったが、やはり彼女は来てくれない。当然といえば当然だ…、俺の待ち人はもうこの世にはいないのだから。

 

「…………」

誰も座ることはないだろうと思っていた隣の席に一人の人影が降りた。一瞬、彼女ではないかと目を疑ったが、それは全くの別物だった。黒い帽子に黒いコートの全身闇に染まった人物が隣に座った。男か女なのかは不明だが、はっきりとわかったのは、それが不気味で歪なものだということだ。

 俺は逃げるようにしてその場を去ろうと、立ち上がったら隣の人物が声を発した。

 「貴様は残されたものだ」

男か女かわからないその低い声は、俺の耳に深く残った。しかし、それは俺に向けられて発した言葉なのかはわからなかったが辺りに人影は俺と隣にいた人物以外見当たらなかった。

「貴様は残されたものだ」

同じことをもう一度言われた。

「残されたものって俺のことですか?」

「……そうだ」

何故見ず知らずの人間にそんなことを言われなければならないのか分からなかった。

 「貴様が何故残されたのかわかるか?貴様は何も出来なかった。だから取り残されたのだ…しかし貴様は本当にそれでいいのか。何もできなかったからこそ今何かできるのではないか」

反論することは出来なかった。いや反論する気も無かったのかもしれない。しかしそれは俺の心に深く突き刺さった。

「……」

「貴様はどうしたいのかよく考えることだ…」

そう言うと、黒い者は何処かへと消えていった。気配もなくどことなく消えていった。只そこには黒い便箋が折られて置いてあったのだ。俺はその不気味な便箋の中身を見ることを少し躊躇ったが男の言葉が気になり封を切った。封を切ると中にはまた真っ黒な紙が二つ折にされて添えられていた。開いてみると黒紙に対して白字で文字が書かれていた。


 次の日の夜に俺は紙にあった約束の場所へと向かった。そこは東京の中心区の住所を示しているが、最寄りの駅から15分歩いたそこは、都心とは全く違った異質な空気を放った商業区を示し、目的地はその一角にそれはあった。

 『黒猫』

外見は普通のBARを匂わせる佇まいであった。俺は恐る恐るお店の扉を開けたが、中は普通のBARと遜色がなく緊張して損した気分になった。それと同時に

「いらっしゃいませ」

お店の店主らしき人物が出迎えたのであった。背はそれなりに高く顔も二枚目な従業員であった。俺は店内を見渡したが辺りはまだ時間が浅いのか人一人いなかった。キッチンにもこの従業員一人しか見当たらず、このマスターが一人で切り盛りしているのだと思った。俺はカウンターに座り、手紙に書かれたものと同じものを注文した。

 「ブラッディ・メアリーを一つ」

その言葉に店主は一瞬怪訝そうな顔をしたが

 「かしこまりました」

そう言って準備へと入っていった。俺はこのあとどうすればいいのかわからず只只出来上がるのを待っていた。数分後、注文した物が目の前に置かれた。

 「ブラッディ・メアリーでございます」

トマト色をしたそれは美味しそうには見えなかったが俺は指示通りそれを一口口に含んだ。

……ううっ

飲んだ瞬間トマト味と同時にアルコール分が強いせいか意識が遠くなり、喉を通った瞬間意識を失った。


……うっすらとする意識の中目を開けてみると目の前には机と椅子が目に入り、椅子に一人の黒づくめの者が座っていた。

 「……目が覚めたか」

――――その声に聞き覚えのある俺は一瞬で意識を現実へと戻したのであった。

 「あなたは……」

そこにいたのは昨日俺の横に座っていた人だった。辺りを見渡すと机と椅子以外にはものは見えず、部屋は机の上のランプによって半径二メートル四方が照らされた寂しい場所であった。

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