迎えに来たのです。
空から化け物が現れたのは、つい三日ほど前のことだった。羽が生えた双頭のドラゴン。伝記や神話に登場するようなそれは、突然天から落ちて来た。
歩くたびに地響きが轟き、鳴くたびに疾風が生まれた。
何が目的なのかも検討がつかないまま、いたずらに時間だけがすぎていく。
故意に悪さをしている様子もないが、悪さをしないと決まったわけじゃない。人々は毎日それに怯えて暮らしてた。たった三日間。それだけのはずなのに、その時間は一年にも十年にも感じた。
眠ることがままならないような緊張感が続く日々に、人々はだんだんと精神が持たなくなってきた。自暴自棄になり、ドラゴンへと戦いを挑もうとするものもいたが、その者のその後を知るものは一人もいない。
人々が死を覚悟した四日目に、ドラゴンが現れた空から、美しい白翼をもつ、天使が現れた。それをみた人々は、自分はもうしんでいたんだと思い、幸せそうに目を閉じた。
天から現れた天使はというと、周囲の様子を観察して、
「あれ……なぜ皆様眠っているんでしょう?あなた、何かしましたか?」
そう言うと、天使はジロリと訝しげにドラゴンに視線を動かした。
視線のあったドラゴンは、何もしていないとばかりに勢いよく首を振り続けた。
「そうですか……それで、神はみつかったんです?」
天使の問いかけにドラゴンは目を逸らすばかり。それをみて何かを察した天使は追い打ちだとばかりに
「まさか見つかってないなんていいませんよね?」
と、口にする。
その瞬間、それまではなんとなく気まずそうだったドラゴンの顔には絶望の色があらわれた。
それはもう、見つかっていないと言っているようなもので、天使はため息混じりに話を続ける。
「はぁ……仕方ないですね。はなからあなたになんて期待してませんよ。私が探しに行きますから、あなたはとっとと巣にお帰りなさい」
天使がそう話し切る前に、ドラゴンは逃げ出したかったと言わんばかりのスピードで、空の中に消えていった。
さて、探しますか。そう言って歩き出した天使は、まっすぐに歩を進める。まるでどこに目的のものがあるか、知っているみたいに。ある程度足を進めた天使のその目の前には、まだあどけなさを残した少年が眠りについていた。
「こんな所にいらっしゃったのですね、我が主様は。探しましたよ、早く天に帰りましょう」
そう口にしながら天使は、少年の膝の裏と首の後ろに手を差し込んで立ち上がると、背中に生えた純白の双翼を大きく揺らし空へと飛びたった。
それが"神"の天への帰還となった。
読んでくださって、ありがとうございます。
感想など、いただければ幸いです。