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『VR部』@オンライン  作者: 九日 一
チュートリアル編
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プロローグ

受験が終わってから本格的にやるつもりです。 それまではお待ちを



「ぜ、絶対に……部活になんか入りませんからねっ !!!」



4月15日 晴天


誰よりも平凡な高校生活をただ純粋に渇望していた少年の切なる願いは、入学式を終えて一週間と経たないうちに打ち砕かれた。


“死んでも部活動に入らない”


むげなるかな。 そう心に決意を秘めて校門をくぐった少年、つまり僕、壬狩 晃也(いかり こうや)の前に突きつけられたのは、


“在学生は必ず部活動に入ること”


という、《校則》の名を冠した逃れようもない《(カルマ)》であった。


今、平凡かつ不幸な少年と学校という名の無慈悲な監獄との仁義なき戦いが始まるーーーーはずもないワケで。



「おいおい……。 男のツンデレなんてこの世界のどこにも需要ありゃあしねぇよ」


この数日の間にすでにクラス内のイジリ対象をロックオンしたらしい我がアラサー担任教師は、無造作に生やした顎鬚を左手でじょりじょりと擦りながら、そのターゲットの一人たる僕に向かって意地の悪い笑みを投げかけてきた。 正直に言うと中学来のいじられ体質である僕の中では、この人に対する苦手意識が早くも刷り込まれてしまっていたりする。


「……こっちはいたって真面目なんですけど」


僕が不満を隠すことなく言い放つと、彼は年甲斐もなくくたびれたシャツの肩を大きく上下させた。


「まあまあ。 この学校には体育会系以外にもいろいろあるぞ。 ほら、勉強部なんてどうだ? 他にもオタク部とか、ホモサピエンス部とか、あとは……DJ部、JK部、JC部ーーーー」


「いや、遠慮しときます」


いかにも真剣そうな顔をつくって言ってくるが、僕は間髪いれずに拒絶の意を示した。 すでに二つ目から怪しげな雰囲気を漂わせていたし、なんだかDJ部を隠れ蓑に変な部活名が続いていたような……。


「そうさなぁ」


自分で言っておきながら説得できないと踏んでいたのだろう。 振る舞いと身なりのせいで幾分か老けて見える理科教員は、ボサボサとした髪を手にしたボールペンで掻きながら唸った。


果たして、周囲の生徒たちの好き勝手な雑談をBGMに1分ほど思考した彼は、不意に口の端をあげ、思いのほか白い歯を見せてこう提案した。


「よし。 んじゃあ1回、俺が顧問をやってる部活にいってみろ。 それでもう1週間くらいは保留してやってもいい。 ついでに言っとくが、入りたくなったら歓迎してやるぞ」


ーーーーやけに虫のいい話だな。


ギラリと光る彼の目に、僕は何かしらの策略を感じないでもなかったが、一応決定を先延ばしにできるのならそれに越したことはない。 見学したからといって、彼が言うようにその部活に入りたくなるようなことも恐らくないだろう。


そう考えた僕は二つ返事で承諾し、放課後に部活動見学をすることを約束した。


するとまるで測ったかのように、あるいはやらかしたな、と警告するかのように、軽快なチャイムがホームルームの終わりを告げた。


「ちなみに、どんな部活なんですか?」


特に興味もなかったが、何の情報も持たずに見学に行くのは相手方に悪いだろうと考えた僕は、クラスの生徒が1限目の準備に取り掛かり始めるのを横目に見ながらあくまで大雑把な説明を求めた。


しかし彼は答えを返すことなく、なにやら意味ありげな笑みをニヤリと浮かべて腰をあげた。


「ま、お楽しみってやつだ」


その言葉を聞いた僕はたっぷり3秒、この教師の自分勝手っぷりに呆れてから、やれやれと力なく首を振り、自分の座席へと歩を進め始める。 脳内を占拠していたのは、放課後に一体どうやって部員の先輩あるいは同輩を華麗にやり過ごすかという、高難易度ミッションの攻略プランであったのは言うまでもない。


だからであろう。 この時僕は、今まさに教室を出ようとした怪しげな教師がボソリと呟いた、「これでもう一人追加決定だな……」という一言を聞き逃してしまっていた。





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