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精霊の拠り所

鞄を開けたら、中に入れた筈の教科書が無くなっていた。

「あれ?」

「あ、晶、急にびっくりしたよ」

「ピスラ」

ピスラが鞄の中、はじっこで座っていた。隣にはアクアも同じように体育座りしている。

「びっくりしたって?」

「アクアが起きたからお喋りしてたら上から教科書が降ってきてビックリしたの急にじゃなければ対処は出来たのに」

「あ、ごめん…」

あの時か…何だか今日はこういう事多いな…

「それで、教科書は?」

「そこらにあるよ」

ピスラが指さした鞄の底を見ると、数枚のカードが落ちていた。

「場所取りの為に収縮させてもらったよ」

「なるほど」

カードを取りだし、収縮を解除する。カードが教科書に戻った。

「戻し方上手くなったね」

ピスラが鞄の中から出てきた。

「あれ? そういえば普通に声で話してるけど大丈夫なの?」

「うん、黒石はまだ帰って来てないんだ」

「そっか、じゃあアクアも声出せるよ」

「はいです」

アクアが鞄の中から顔を出した

部屋の中をきょろきょろと見回している。

「どうかした?」

「い、いえ…なんでもないです」

「あ、もしかして」

机の上に置いていたそれを取り、アクアに見せた。

「これを探してた?」

「あ……」

昨日東真さんからもらったキーホルダーだ。

それを見たアクアはキーホルダーに手を伸ばした

手に取ったのを見て手を離すと両手で抱くようにキーホルダーを持った。

「本当に気に入ったんだね、それ」

「はいです…」

とても嬉しそうだ。

「さすがは水の精霊だね、中の水に引かれたんだと思うよ」

「そういえばピスラ」

「なに?」

アクアはうっとりしていて声をかけるのが悪い気がしたので、ピスラに声をかける。

「かれこれピスラが見えるようになって3日たったけど、見えた精霊ってピスラとアクアだけなんだよ」

「え? もっと回りの物から見えてるんじゃないの?」

「ううん、2人だけだよ」

「へぇ~、でも精霊だって基本は隠れてるからね、アクアやわたしみたいに人前に出てくるのは珍しいし、でも探せば見つかると思うよ、例えば…」

辺りを見回したピスラは

「あれとか?」

アクアが持つキーホルダーを指さした。

「何であれ?」

「ほら、あの中に水入ってるじゃん? 上手くいけば水の精霊が見えるかもしれないし」

「なるほど」

キーホルダーを見る。

「…とは言ったものの、どうすれば良いんだろう」

「だよねー」

「あ、あの…晶さん」

「どうしたのアクア」

「わ、私がこの中の精霊に呼び掛けてみるというのはどうですか?」

「呼び掛ける?」

「同じ水の精霊がいれば、私の言葉に応えて下さるかもしれないです」

「そっか、じゃあ試してみてくれない?」

「分かりました」

アクアは目を閉じ、キーホルダーをより抱きしめた。

「……」

「……」

部屋に沈黙が流れる

その時、沈黙を破る声を聞いた。

『…あなたは、誰?』

いや、聞いたというよりも頭に直接言葉が届いたような。そう、ピスラに教えてもらったあの感覚で言葉が頭の中に響いた。

『私は水の精霊です』

続けて同様にアクアの声が響いた。

『水の…あぁ、もうそんな時期でしたか』

そんな時期?

『いえ…私は拠り所から流されたはぐれ精霊なんです。あなたが思っているような者ではないです』

『そうですか…ですが…よい頃合いかもしれません…幼き水の精霊よ』

『あ…あの…』

『なんです?』

『で、出来ればその中から出てきて頂けませんか? これは…結構キツくて…』

『分かりました…少し待っていなさい』

再びの沈黙の後、キーホルダーの中から青い精霊が出てきた。

とても長い髪、手の隠れる程に長い袖を持つ服に身を包んでいる精霊。見た目だけで長い時間を生きている感じが目に映った。

「初めまして…私もあなたと同じ…水の精霊です」

「は、初めまして」

キーホルダーを持ったままアクアは頭を下げた。

「…おや?」

水の精霊は僕に気づいた。

「あなたは…私が見えているのですか?」

「は、はい…」

「そうですか…あなたも…あの方と同じなのですね…さて、幼き水の精霊よ」

「は、はい…」

「出会って間もなくですが、あなたに聞いて頂きたいお話があります」

「な、なんですか?」

「私は…もう老い先長くありません…ただ代わりの精霊が来るのを待つだけです…ついては、私の代わりにこの物を拠り所にしてはくれませんか?」

「わ、私がですか?」

「えぇ…この短い余生を楽しみたいのです、生まれてからこの物から離れる事の無かった私です…外の世界という物を見てみたいのです」

「良かったじゃんアクア、拠り所を探す手間が省けて、それにそのキーホルダー気に入ってたんでしょ? だったら断る理由なんてないじゃん」

「ちょ、ちょっと待って下さいです。あなたの拠り所はキーホルダー…それこそ外に持ち歩く物じゃないですか」

「…物の使い方は千差万別、正式な使用方法で使われるとは限らないのですよ」

「え…?」

「それに…これは不幸になる道具なのです」

「!!」

「あれは…彼女が高校生になった頃…この物を持った彼女がよい生き方をした所を私は見た事がありません…私は格好の的でしたからね…それ故に私は使われなくりました…光を見ない日も珍しくありませんでしたね…東真さんと仰いましたか、彼女は今…幸せですか?」

水の精霊が僕を見る。

「…恐らくは」

「そうですか…それは何よりです。さて、こんな話をしたばかりですが…幼き水の精霊よ、私の最後の願いを聞いて頂けますか?」

「……」

「アクア?」

「……私は」

「決して無理強いは致しません。自ら望んで不幸になる道具を拠り所にしたい精霊なんていません…私は選ぶ権利が無かったからこうなっただけ…ですがあなたには選ぶ権利があるのです。日が経てばもっと良い拠り所が見つかるでしょう、私は残りの短い余生を過ごすだけですが、今までの時に比べたら短いものです。すぐに過ぎてしまうでしょう、あなたは気にせずに新な拠り所を探して下さい」

「…分かりました」

「そうでしょう、自ら望む必要は全くな…」

「私…あなたの代わりになりますです」

「アクア!?」

「…何故です?」

「私は…あなたとは違う生き方をしてきました。様々な所を回り、様々な人を見てきました。あなたの気持ちは全く分かりませんが…あなたを助けられるのなら…私が代わりになりますです…あなたは、私のようにこれからを生きて下さい」

「…本当に…よろしいのですか?」

「はいです、それにあなたは決して不幸の道具なんかじゃないです、これを持った方が不幸だっただけです、あなたは決して悪くありませんです」

確かに…東真さんは中学の頃からいじめられていた。高校で出会った時には既にいじめられていたのだ。それはこのキーホルダーのせいでは全くないという事を示している。

「…分かりました、では幼き水の精霊よ、私の代わりとなって下さい」

水の精霊はキーホルダーから離れ、アクアに手を伸ばす、アクアはキーホルダーをその場に置き、その手を取り、繋いだ。

瞬間、アクアと水の精霊が青く光り、水の塊になった。2人はそのまま互いに近づき、混ざり合い、一つの丸い水の塊となった。

と思ったら再び二つの塊ができ、2人の形を作った。

「…これで完了です、幼き水の精霊よ、拠り所を任せましたよ」

「はい…」

「お二人も…」

水の精霊が僕達を見た。

「元を辿れば、あなたが彼女を助けた結果です。本当にありがとうございます」

「い、いえ…」

「では…私はそろそろ行くとします…幼き水の精霊…いえ、アクア、その物をお願いします」

水の精霊は宙に浮き、消えてしまった。

まるで…水が蒸発するかのように。

「…私の…名前を…」

アクアはキーホルダーを抱きしめた、そのまま僕達に向き直り

「ピスラさん、晶さん、本当に…ありがとうございまです」

ぺこりと頭を下げる。

「おかけで…拠り所を見つける事が出来ました…本当に…ありがとう…ございます…です…」

目には涙が溢れ、頬を伝っている。

「…あの方は…これから良い生き方をできるでしょうか」

「…きっと、大丈夫だよ」「そう…ですよね…きっと大丈夫ですよね」


「本当にいいの?」

「はいです、それは晶さんが頂いた物ですので晶さんが持って頂ければあの方も嬉しいと思いますです」

「そうじゃなくて、僕と契約を結ぶ事をだよ」

「あ、それはこちらからお願いしたい事です、キーホルダーを拠り所とする以上晶さんとは離れられないのと同じです。でしたら契約を結んで頂きたいと思いまして、いや…ですか?」

「ううん、そんな事ないよ、これからもよろしくね」

「はいです!」


ここまでが第1章です。

次から第2章、話の終わりへと繋がる重要なものが現れます。

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