助ける精霊、助けた人間
雨が降りしきる中、その子は傘を差していないのに全く濡れていなかった。
「あの子、きっと水関連の精霊だよ」
ピスラが声で伝えた。
「水関連?」
「今だったら雨とか、もしくは水溜まりとか、本域で水の精霊って事もあり得るかな」
「それはともかく…あの子は何で泣いてるの?」
「うーん…聞いてみるね」
ピスラが近づいていく、
「こんにちは」
「う…ひく…ふぇ?」
気づいたようだ。
「わたしは収縮の精霊、あなたは?」
「ぐすっ…水の…精…霊」
「何で泣いてるの?」
「それは…う…ひく…」
「ああごめん。思い出したく無いんだね、無理に思い出さなくていいから、とりあえず泣き止んで」
「ぐすっ……う…はい…」
どうやら泣き止んだようだ。
「どうしてここに?」
「あの…実は…」
『晶、ちょっと来て』
ピスラに呼ばれた。
『どうしたの?』
2人に歩み寄る。
「え…この方、私達が見えてるですか?」
「うん、わたしの契約者だよ、安心して」
「は、はいです…」
「えっとね、この子は水の精霊なんだって」
「そうだったんだ」
「それでね、この雨で拠り所が流されちゃったんだって」
「拠り所って?」
「わたし達精霊は必ず何かを司ってって、その拠り所が必ずある訳、例えばその傘には傘の精霊がいて拠り所はその傘になる。その拠り所が無くなるだけで精霊は力をほとんど失っちゃうの」
「へぇ…」
「あ、あの…それは少し間違ってますです」
「へ?」
「私の拠り所が流された訳ではなくて、私が拠り所から流されちゃったんです」
「ありゃ、逆だったか」
「はいです…」
「とにかく、この子の拠り所探しを手伝いたいんだけど…いい?」
「うん。別にいいよ」
「そんな…見ず知らずの方々にそこまでお世話になる訳には…泣き止ませて頂いただけで充分です」
「いいっていいって、ものは違うけど同じ精霊どうし、困ってたら助け合うものだよ。だからわたし達に任せて」
「うぅ…分かりました…です」
押しに弱い子みたいだ。
「すみませんが…よろしくお願いしますです」
とは言っても、何処をどう探せばいいのか。
「まずはどうすれば良いのかな?」
「うーん…ねぇ、あなた今幾つ?」
ピスラが水の精霊に訪ねる。
「え? …確か…七歳です」
「お! 結構若いんだ」
「ちょっとピスラ」
「ん? なに?」
「この子の年齢を聞いてどうするの?」
「えっとね、何処から話せばいいかな…うーん…」
ピスラは顎に手を当てて考える。
「あ、あの…」
その時、水の精霊が僕に声をかけた。
「はい?」
「あの収縮の精霊さん、ピスラさんっていうですか?」
「ああ、うん。僕と契約を結んだ時につけたんだけど、本人は気に入ってるみたいで良かったよ」
「そうですか…ピスラさん。良いお名前ですね」
「ありがとう、名付け親として嬉しいよ」
「あ、いえ…別にそういう意味で言った訳ではないですけど…その…あの…」
そういう意味?
「そういう意味って?」
「あの…少し…うらやましいなぁ…って…あ…い、いえ! そういう訳では…!」
何だろう…この子、誰かに似ている気がする。
「本当に…うらやましいな…と思っただけですので…」
「んー…じゃあ君にも名前をつけてあげるよ」
「え! そそ、そんな…私に名前なんてもったいないですよ…あったとしても呼んでくれる方なんていませんですし…」
「そんな事ないよ」
「え…?」
精霊が目を丸くする。
「少なくとも、僕とピスラが呼んであげるよ。うーんどんな名前が良いかな…」
「いえ…あの…その…」
「よし決めた。君の名前はアクアだ」
「あく…あ?」
「ピスラはラピスラズリって宝石からつけた名前なんだけど、君は水の精霊だから、アクアマリンっていう宝石から考えたんだ」
「アクア……」
「アクアはちょっと安易過ぎない? 晶」
「やっぱりそうかな、もう少し考えて…」
「い、いえ! 私気に入りましたです!」
「そ、そっか」
「ありがとうございますです、晶さん」
話をまとめたピスラが話す。
「わたし達精霊にも人間みたいに年齢があって寿命があって、寿命が来た場合精霊は拠り所から離れるの。その場合は代わりの精霊がその拠り所に移されるんだけど、アクアの場合、そういうのを見つけて次の代わりになる必要があるの」
「つまり、寿命が近い水の精霊を探す訳だね」
「まあね、でもそんな簡単に見つかるものじゃないからね、まず寿命を向かえる精霊が一年に数えるぐらいしかいないのに水の精霊と断定するとなるとね」
「寿命って幾つぐらい?」
「それも精霊しだいなの、短いのは十年とか、でも水の精霊は二百年は優に越えるからね」
「二百年!?」
「アクアは本当に生まれたてよね」
「はいです」
「うーん…とにかく、他の水の精霊を探すしかないのかな」
「本当にすみませんです…私なんかの為に…」
「いいっていいって、でさ、今日は雨だし、探索は明日からにして晶の部屋に行こうよ」
「え…良いんですか?」
「うん、別に構わないよ」
「で、では…お邪魔させていただきますです」
僕達は寮へと歩き始める。
その時だった、
「あれ? 中紫…さん?」
後ろから声をかけられ、振り返ってみると、
「こんな雨の中でどうしたんですか?」
東真さんが傘をさして立っていた。
「東真さんこそ」
「私は図書室での用事を済ませて今帰るところです」
「そうなんだ。東真さんも帰宅部だっけ」
「はい…あの、良かったら寮まで一緒に行きませんか? 道も同じですし」
「うん、いいよ」
僕と東真さんは並んで歩き始めた。
「ところで、あそこで何をなされてたんですか?」
「あ…えっと…」
マズイ…精霊と話していたなんて信じてくれる訳ないそれ以前に、あまりこの事を人に言いたくない。もともと僕は変わった人物らしいけど、それを踏まえてもこれを言う事は前の僕に対して悪い影響しかない。それに…精霊にも精霊の世界があり、精霊の生活があるんだ。見えているだけで僕がそれを他人に知らせるなど野暮というものだ。
なんとか誤魔化そう、
「ちょっと頭が痛くなって立ち止まって、痛みが引くのを待ってたんだよ」
「あ……すみません…」
「いいよ、もう大丈夫だから」
誤魔化せたみたいだ。
「何か思い出しましたか?」
「ううん、何も」
「それは残念ですね…」
「心配してくれてありがとう、東真さん」
「い、いえ! そんなお礼を言われるような事は何も…ただ…」
「ただ?」
「…中紫さん、前にやっていた事もお忘れですよね?」
「前…」
記憶を探してみると、出てくるのは昔の記憶、一番古いのが5、6歳頃。そして一番新しいのが…昨日の事、病院のベッドで目が覚めた時の事だ。
その少し前の記憶を探す……見当たらない、いや、思い出せないんだ。
探して出て来たのが中学の卒業式。事細かでは無いが中学時代も覚えている。
そこから昨日まで、高校生の間が…約二年間の間が全く思い出せないんだ。
「……」
おかしな感覚だ…。
思い出せない所を思い出す。思い出したのか思い出してないのか…はっきりしない。
「…思い出せないんですよね」
「…うん、ごめん」
「謝らないで下さい」
「うん…それで、昔の僕は何をしていたの?」
「…人助けです」
人助け?
「高校生になってからだと聞いていますが、中紫さんは他の生徒達を助けていたとか。南野さんもその一人なんですよ」
そういえば、剛がそんな事を言っていたような。
「そして…私もなんです」
「え?」
東真さんも…僕が助けた人の一人?
「僕の…助けた人…」
その時、頭に激痛が走った。
「っ!!」
痛みのあまり呼吸が出来ない、すぐさま手を頭に持っていき抑える形になる。傘が地面に落ちた。
「中紫さん!?」
東真さんの声が聞こえた。
そしてそのまま、その場に倒れ込んでしまった。
「しっかりしてください!? 中紫さん!?」
「晶!?」
「晶さん!?」
ピスラとアクアの声も聞こえる。
…ああ、そうか、
アクアって、東真さんに似てるんだ…。
そこで意識を失った。




