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僕と記憶とメガネと精霊と  作者: 風紙文
始まりの章
5/20

紅の友達、青の精霊

二限、三限と授業が行われていく、勉強に関しては忘れていないようで、安心してついていく事が出来ている。

そして今は四限…あれからピスラは戻ってこない。

時間的に数十分もあれば往復できる距離なんだけど、何かあったのかな…。

でもピスラは普通の人には見えない筈だ。それに寮の学生は今は学校、居たとしても少ないだろう。

大丈夫だよな、きっと、

そして四限終了のチャイムが鳴り、昼休みになった瞬間、

「とぅわぁいへんだ~!」と言いながら表方さんが教室を飛び出していった。

「?」

何が大変なんだろう。

「晶、飯にしようぜ」

剛が席の横に来た。

「うん、購買だよね」

僕は席を立った。

「そういえば、表方さんが教室を飛び出していったけど、何かあったの?」

「表方が?」

「なんか、大変だー、って言ってたけど」

「大変…」

剛は表情を強ばらせた。

それどころか、クラスが静まりかえった。

「ど、どうしたの?」

「…晶、表方はどっちに向かって走ってった?」

「え? 確か…右、かな?」

「…そうか」

剛は窓側に背を預けた。

「え? 何?」

「今一度確認するが、クラスメイトの名前は全部忘れてたよな?」

「う、うん…」

「じゃあ…他に覚えてた名前とかないか?」

「ううん。ないけど…」

「そうか…まぁ、平気か」

何だこの空気…。

クラスメイト達は何故か手前の方に集まってひそひそと話していたり、こちらを見ている。

「中紫さん…」

東真さんがこちらを向き、

「頑張って下さい…」

それだけ言った。

何だ…これから何が起こるというんだ…。

その時だった。

バァン!

「!?」

力強く扉が開かれた。

クラス中の視線がそちらに集まる。

そこに扉を開けた主がいた。長い髪を左右で結んでいる女子生徒…何故あんなに力強く開ける必要が…?

「……」

その女子生徒は無言のまま教室に入り、つかつかと歩き僕の前で止まった。

「…晶!」

名前を呼ばれる、その声には怒りのようなものが込められている気がする。

「は、はい」

恐々と答える。

瞬間、肩をガッ! と捕まれ、

「…本当に…わすれちゃったの? あたしの事も? 実は覚えてない?」

ガクガクと揺さぶられて問われる。

恐らく前の僕と何か関わりがあったのだろう、でも今の僕にしては始めましてだ。

「はい…」

「そ、そう…」

その子は項垂れてしまった。

「あ、あの…」

「なに?」

「すみませんが…どちら様ですか?」

「う…」

更に落ち込んでしまった。

「わ、忘れたのなら仕方ないわね、あたしは南野 紅(みなみの あか)、D組よ」

「あ、どうも…」

「…本当に忘れたのね」

「すみません、一体前に何があったんですか?」

「そ、それは…」

南野さん目を反らした。

「?」

それを見た剛が、

「晶、南野は前の晶に助けてもらった事があるんだ。それ以来南野は…」

「言うな!」

ドガァ!

「ぐはぁ!」

「えぇ!?」

ハイキックが剛に炸裂した。

「な、剛大丈夫!?」

「平気よ、コイツはそんなやわじゃないわ」

「お、おぅ…大丈夫だ」

ふらふらになりながら剛は立ち上がり、再び窓に背を預けた。それはその為だったのか…。

「とにかく、今まで通りに接すると早く記憶が戻るって聞いたわ。だったらそうするだけよ」

「誰に聞いたんですか?」

「睦黄よ、態々クラスにまで伝えに来たわ」

「はぁ…」

「そのままどこかへ走って行ったけど、まあ購買よね、態々ご苦労な事だわ」

「とか言って、それを聞いて突っ走ってきたのは何処の誰だ…」

「黙れぇ!」

ドガァ!

「ぐはぁ!」

「また!?」

ずるずると床に倒れる剛。

「剛! その口の軽さはどうにかなんないの!?」

「うぅ…」

「あの…剛は喋れる状態ではないんですが…」

「大丈夫よ、すぐに回復するから」

「はぁ…」

「…それにしても」

南野さんは僕に顔を近づけまぢまぢと僕を見た。

顔が近く、何だか甘い香りがする…て、何を考えてるんだ僕は!

「あの…近すぎませんか?」

「…ねぇ」

「はい?」

「今のあたしの目を見て…何が見える?」

「え?」

「前の晶はね、瞳を見るとまるで心の中まで見透かされてるようになるのよ」

…そういえば、そんな事を黒石から聞いた気がする。

恐らく前の僕はそれをして南野さんを助けたのだろう。でも、一体どうやって…。

そもそも、瞳を見ただけで人の心が分かるなんて常識はずれにも程がある。

だが前の僕は出来たらしい、南野さんの言葉が答えだ。

なら、今の僕には出来るだろうか…試してみよう。

目の前には南野さんの瞳、その前には僕のメガネがある、瞳をよく見る為にメガネを上にずらす。

「っ!!」

すると、南野さんは急に離れた、何故だか顔が赤い。

「ど…どうしました?」

「な、何でもないわ…」

目を反らされる。

「…やっぱり、忘れてるのね…仕方ないわ…はぁ…」

後ろにあった席に座った。

「な? 忘れてるだろ?」

いつの間にか復活した剛が南野さんに言う。

「えぇ…本当に…」

「あの…南野さん?」

「なによ?」

「前の僕と何があったのかは知りませんが…ごめんなさい…」

頭を下げて謝る。

「…顔を上げて、前の晶はそんな事絶対しないわ」

「はい…」

そうだ…僕が変わった事で悲しむ人もいるんだ。願わくば…すぐにでも記憶が戻ってほしい、

…少し…泣けてきた…。

「うぅ…」

「ちょっ! ちょっと泣かないでよ!」

「す、すみません…」

下げていた頭を上げながら上目遣いで前の南野さんを見た。

「っ!!!!」

途端、南野さんの顔が更に赤くなった。

「ど、どうしました? 急に顔が赤く…」

「な、なんでもないわ!」

目を反らされた。

「…あ、ああいう晶も悪くないわね…」

何か呟いている。

「はい? 僕がどうかしましたか?」

「え!? う、ううん大丈夫! 何でもないわ!」

「はぁ…」

南野さんは感情の起伏が激しい人だな、と思った。

その時、

「待たせたねみんな!」

開かれた扉の先には、先ほど出ていった表方さんだ。

腕いっぱいに購買で買ったであろうパンやら何やらを抱えている。

「ふっふっふっ…やっぱりみなみんはここに来たね、予想してパンを沢山買ってきて正解だったよ」

僕達の所へ来た表方さんは持っていたパンを僕の机の上に置いた、

これではまるで僕が食いしん坊みたいに見える。

「沢山買ったからね、みんなで食べていいよ、一つ百円でいいから」

表方さんはパンの山の中から一つ取り、近くにあった机の上に座って食べ始めた。

「サンキュー表方」

剛はパンの山から二つ取り、二百円を表方さんに渡した。

「まいど~」

「じゃああたしも」

南野さんもパンを一つ取る。

「晶も食べなさいよ、どれでも一つ百円よ」

「は、はい…」

僕は財布から百円を出してパンの山を見た。

「ど…どれにしよう…」

積まれたパンを見る。

「よく狙えよ」

剛が二つ目を食べている。

「しっかし、よくこんなに買えたな、コレなんて百二十円のコロッケパンじゃねぇか」

「えっへん!」

「それって、一つ百円じゃ損するんじゃ…」

言って一つを取り、表方さんに百円を渡す。

「そうでもないぜ晶、確かにコレは百二十円だが、晶の持ってるソレ」

「コレ?」

手に取ったパンを見る。

「八十円のコッペパンだ」

なるほど、百二十円を百円で売っても八十円を百円で売ればプラマイゼロに…、

「…ってえぇ!?」

「何だよ、そんな事も忘れてたのか」

「そういうのは先に言ってよ!」

「悪い悪い」

「うぅ…」

百円で買った元値八十円のコッペパンにかじりついた。



昼休みが終わり、午後の授業が行われていく…。

そして今、授業終了のチャイムが鳴り、放課後になった。鞄の中に教科書を詰めていると、剛が鞄を持ってこちらに近づいてきた。

「帰ろっか、剛」

「いや、俺はこれから部活だからさ」

「あ、そうなんだ」

「ちなみに…」

「それは今朝聞いたよ、僕は帰宅部でしょ」

「おぅ、だから悪いけど一人で帰ってくれ」

「うん、部活頑張って」

「おぅ」

そして一人昇降口へ、ふと窓を見ると、

「雨だ…」

灰色の空から大粒の雨が降りだしていた。

「傘を…」

そこで思い出した。ピスラが傘を取りに行っていたんだ。

「お~い」

その時、声が聞こえた。

「ピスラ?」

辺りを見回すと、ピスラがこちらに向かってきていた。

「お待たせ、本当に降ってきたね、はいコレ」

ピスラに渡されたのは一枚のカード、それには傘が書かれている。

「戻れ!」

とピスラが言った瞬間、パシュン! という音と共に傘が現れた。

「うわぁ…凄い」

「早く帰ろ」

「うん」


寮への途中、互いに言葉を送りあう、

『ずいぶん長かったね』

『いや~早すぎるのはどうかと思ってね、晶の部屋でのんびりして来ちゃった』

『そうだったん…だ?』

僕は立ち止まった。

『ん? どうしたの晶』

ピスラに訪ねられる。

『いや…今、声が』

『声?』

耳をすましてみる。

雨音が響く中…、


…う…ひく……ぐすっ…


まるで泣き声のような音が聞こえた。

『こっちだ』

音の方へと歩く、

すると、そこには何かがいた。

二つに別れた帽子を頭に被った、全長15センチ位の女の子だ。

それはどう見たって、精霊だった。


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