クラスメイトたちの反応
…朝になり、目が覚める。
目線の上には木の板…二段ベッド二段目の底だ。
そうだ、僕は学生寮に帰って来たんだった。
身を起こして机の上に置いたメガネをかける。
『おはよう、晶』
鞄の中からピスラが出てきた。
『おはよう』
「今なら声出しても良いかな?」
「でも、黒石が起きてきたら不思議がられるかも」
「そっか、じゃあ」
ピスラは口を閉じ、
『これでいっか』
『うん』
『じゃあ、学校に行こうよわたし学校って初めて入るから楽しみなんだ』
『でも…黒石が』
二段ベッドの上を見る、黒石はまだ寝ているようだ。
『あの人言ってたじゃん、起きなかったら置いてけってさ』
『そういえば』
『だからさ、行こうよ』
『うん』
その時、扉が叩かれた。
「はい」
「晶、起きてるか?」
剛の声だ。
「うん、起きてるよ」
「入るぜ」
扉が開かれ剛が入ってきた。
「よっす晶、学校行こうぜ、まだ道がうろ覚えだろ」
確かに、病院からここに来るまでに学校を見たので、一人で行けなくはなさそうだったが、
「ありがとう、行こう」
「おっしゃ」
制服に着替え、鞄を持ち、ノブに手をかけた。
「黒石はどうするの?」
「あ? 勝手に起きてくるだろ、いつも来る時はギリギリっぽいしな」
「そうなんだ」
扉を開けた。
剛が前を歩き学校へと向かっている中、
『ピスラ』
鞄の中にいるピスラへ言葉を送る。
『なに?』
『昨日さ、あれから考えたんだけど…僕、記憶の精霊を探してみるよ』
『え?』
『僕の中で記憶が共有できたらさ、前の僕とも話が出来るかもしれないからね』
『話してどうするの?』
『えっと…どうしよう』
『むぅ…でもひょっとしたらひょっとするよね、今の晶と前の晶、2人がその中で動ければ今の晶も前の晶も出てこれるって事かな』
『そ、そうなるのかな…』
『でも、頑張ってみようよ、わたしも手伝うからさ』
『うん、ありがとう』
剛と共に学校へと向かう。周りには他の生徒がちらほらと見える。
前の僕もこうしてこの道を歩いていたのだろうか、
その時、ふと思う。
「前の僕の友達が今の僕を見たらどう思うのかな」
「ん? そうだな…」
剛は考え始めた、そして、
「よし、考えるより試してみた方が早いな」
「は?」
剛は後ろを振り向いた。
「よし、晶、少し止まれ」
「え、なに?」
言われるがまま止まる。
「何かあるの?」
「まぁ少し待てって」
後ろを見る剛に言われたまま少しの間立ち止まる。
周りの生徒は学校に向かい歩いている。
その時だった、
「わぷっ…」
「え?」
背中に何かが当たり、声が聞こえた。
後ろを振り返ると、一人の生徒がいた。
僕にぶつかったであろう女子生徒、顔にはメガネをかけ、髪は首ほどの長さで、一纏めにしている。
「あ、あぅ…ご、ごめんなさい…前方不注意で…あのその…」
あわあわと謝り続ける。
「え…いや、その…」
元はといえば僕が急に立ち止まったのがいけない。そして立ち止まった理由を作ったのは…、
「剛、どういう事?」
「よっす、東真」
僕の言葉をスルーして、剛はぶつかった女子に挨拶した。
「あの…え? 西金さん?」
東真と呼ばれた女子は、
「おはようございます」
頭を深く下げて挨拶した。
「いきなり悪かったな、今の俺が止めたからなんだ。で、いきなりだけどコイツ誰だが分かる?」
剛は僕を指さした。
東真さんは僕を見る。
「え、えっと…すみませんどちら様ですか?」
「あの…中紫 晶…です」
名乗った瞬間、
「えぇ!?な、中紫さん!?」
驚きの声が出た。
その声に周りの生徒が何事かとこちらを見るが、固まってしまった東真さんを見て、なんだ、という感じで皆また歩き始めた。
「ほ…本当に中紫さんなのですか?」
「は、はい…」
「い、一体何があったのですか?」
「えっと…交通事故にあって…それで記憶障害に」
「えぇ!?」
驚きの声が再び。
「に、西金さんはご存じなのですか?」
「昨日知ったばかりだ。でもいつも通りに接してくれって」
「そ、そうだったんですか、それは知りませんでした」
「多分今日のホームルームで言われるからな」
「そうですか…」
「とりあえず、忘れちまった晶に自己紹介してやってくれないか」
「は、はい」
東真さんはこちらを向き、
「改めまして、東真珠理といいます」
ぺこんと頭を下げた。
「あ、どうもご丁寧に」
つられて僕も頭を下げる。
「さ、自己紹介も終わったことだし、三人で学校に行こうぜ」
僕達は並んで歩き始めた。
数分して、学校についた。
「クラスは分かるのか?」
「うん、昨日黒石に教えてもらったから大体の場所は分かるよ」
「そっか、でも同じクラスだしな、一緒に行こうぜ」
「うん」
僕と剛、東真さんは揃って階段を上り三階へ、クラスのある教室へと向かう、
「ここな」
『2―B』と書かれた板がある教室の扉を剛が開いた。
「おーす」
右手を挙げながら入る剛の後に続いて教室に入った。その後に東真さんが続く、
「おっはよー! 西金!」
明るい声が返ってきた。
その声の主は机の上に座り、こちらに右手を挙げているショートカットの女子生徒。
「おーす、表方」
「ん~?」
表方と呼ばれた彼女は机を降りこちらに歩み寄ってきて、僕を見た。
「な…なんですか?」
表方さんは僕をまじまじと見てくる。
「ん~どこかで見た覚えがあるんだけど、な~んか思い出せないんだよな~」
「表方、コイツ晶だぜ」
「にゃ!?」
僕の名前を聞いた途端、まるで猫のように驚きの声を上げて飛び退いた。
「ななな、何だってー!」
その声でクラス中の視線を浴びた。
「本当に…中紫?」
「は…はい」
「ぬぅわんだってー!!」
急に大声を上げた表方さんはいきなり走りだし教卓へ向かった、チョークを手に取り何かを書き始める。
数秒して、黒板には、
ナカムラサキカワル! キュウヘンシテアラワル!
と全てカタカナでまるで脅迫状めいた文面が書かれた。
表方さんが教卓を叩く。
「皆! あの眼鏡の人、なんと中紫なんだって!」
クラス中に響く声を聞き、
「何だって!?」
「それ本当!?」
「マジかよ!」
クラスの皆が僕の周りに集まってきた。
「うぉ!」
「あぅぅ!?」
その波に剛と東真さんがのまれて見えなくなった。
「2人共!?」
僕を中心にクラスメイト達が輪を作って僕を囲んだ。
「確かに見た目そうだな」
「でも何かおかしくね?」
「何か違和感あるよね」
「なんだろう」
「でも見た目は中紫だよ」
「どうしたんだろう」
明日、クラスで注目の的になるぜ
ああ…剛の言った言葉が本当になった、予想はしてたけど、ここまでとは…。
その時、教室の扉がガラガラと大きな音をたてて開かれた。
教室の後ろ側に集まっていた生徒達はその開かれた前側の扉に目を向ける。
「おいおいお前達…ホームルーム始めるからさっさと席につけ」
石榴先生が入ってきた。
「あれぇ? 先生、まだ始業のチャイム鳴ってませんよ? 早すぎません?」
教卓の近くにいた表方さんが言うと、
「話す事が多いんだよ、いいから早く座れ」
「は~い」
「そこの屯ってんのもだ」
先生の言葉を聞きクラスメイト達が席に座り始めた。
「ふぅ…予想以上だな」
剛が隣に歩み寄る。
「あぅぅ…」
東真さんは床に倒れていた。もみくちゃにされたのか…。
「西金、東真を席に座らせてやれ」
「うぃ~す」
「中紫、お前はこっちだ」
先生に手招きされて前へ、教卓の隣に立たされる。
「えー皆はもう知ってると思うが、中紫は交通事故にあって記憶喪失に陥った。記憶を少しと性格を忘れた結果、今のこの状態だ」
クラスがざわざわする。
「交通事故?」
「いつの間に?」
「記憶障害だってよ」
「だから違和感あるのか」
変わった事は知っても交通事故の事は今聞かされた事だ、皆ざわざわと話す。
「おら静かにしろ、という訳だが中紫には気を使わずに今まで通りに接してやれ、その方が記憶の戻りが早いかもしれんと医者にも言われたからな、異論はないな?」
クラスの皆は、はーいと返事をする。
「よし、じゃあ中紫、何か一言」
「はい」
まるで転校生の気分だ。
「えっと…石榴先生が仰った通り、交通事故にあって記憶喪失になりました。皆さんの名前も忘れてしまっていますが、皆さんいつも通りに接して下さい、よろしくお願いします」
頭を下げる。
その直後、
「はいはーい!」
表方さんが手を挙げていた。
「どうした?」
表方さんは席を立ち、
「私は表方睦黄! 改めてよろしくね中紫!」
「は、はぁ…」
自己紹介をした。
「終わりか? じゃあ中紫の席はあそこな」
「はい」
石榴先生が指さした席、窓側の後ろから二番目の席に座った。
前の席は東真さんだった。
「それじゃ……ああ、特に言う事は無かったな、じゃあホームルームはこれで終わりだ。一限始まるまで静かにしてろよ、教室から出なければ多少は騒がしくてもいいからな」
何故か矛盾する言葉を残して石榴先生は教室を出た。
扉が閉められた途端、
ガタガタ、とクラスの僕を除く皆が僕の周りに再び輪を作った。
「あぅぅ!?」
前の席の東真さんがその流れにのまれて見えなくなる。
「中紫!」
目の前に表方さんが立った。
「な、なんですか?」
「うーん…本当に変わっちゃったよね~」
「そんなに違いますか?」
「うん、かなりだよ」
「かなり…」
「でも大丈夫! 私達は今まで通りに接するからさ! そうだよね皆!」
周りの輪からおー、とか、もちろんだよ、とか賛同の声が上がる。
「あ…ありがとうございます、皆さん」
その後、クラスメイト一人ずつ自己紹介してくれた。
暫くして一限が始まった。
一限は数学、前の僕が書いたノートの続きに黒板に書かれた言葉を書いていく。
『晶』
ふいに、ピスラの声が、
『どうしたの?』
鞄の中からピスラが出てくる。
『傘持ってきた?』
『え? ないけど』
『ありゃ、それはマズイね、この後降るよ。それも結構大粒のが』
『分かるの?』
『多少ね、天気関連の精霊と友達だからそういう話を聞いてるんだ。今日はかなり大粒の雨を降らすぞって言ってたもん』
『そっか…それは弱ったね、傘は持ってきてないよ』
『じゃあわたしに任せてよ、傘持ってくるね』
『え、でも…』
『大丈夫だよ、わたしは他の人に見えてないみたいだし、それじゃいってきまーす』
ピスラは開かれた窓から学校の外へと飛んでいった。
大丈夫かな…。
というか、今の誰かに見られてたかも、声は聞こえてないかもしれないけど…。
そんな事を考えている間に一限終了のチャイムが鳴った。




