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僕と記憶とメガネと精霊と  作者: 風紙文
始まりの章
2/20

契約したどうしの意思疎通

そして次の日

目が覚め、眼鏡をかけて辺りを見回した。

「おっはよー、晶」

ピスラはベッドの下から現れた。

「おはよう、ピスラ」

「今日退院だね」

「うん。でも別に入院してた訳じゃないんだけどな」

「そう言えばそっか」

「うん」

「この後どうするの?」

「先生は昨日誰か迎えをよこすって言ってたけど…」

「時間は?」

「うーん…」

時計を見ると、午前10時22分。普通なら学校で授業中だ。これでは先生も生徒も来れないだろう。普通に歩く事は出来るから一人でも帰れそうだけど、どうやら帰り道も忘れてしまっているようだ。

「多分、午後にかな」

「そっかー、じゃあ午前中は暇だね」

ピスラは病室をふらふらと浮いていた。

「……」

それを目で追っていてふと思う、僕は随分と対応能力が高いようだな…。

自らを精霊だと名乗ったピスラを受け入れ、契約まで結んでしまった。

…もしかしたら、神経が図太いというのかもしれないそして一夜が過ぎ、改めて考えてみた。

「ねぇ、ピスラは精霊なんだよね?」

「そうだよ? あ~、もしかしてまだ疑ってるの?」

「いや、そういう訳じゃ…でも精霊って事は何かしらの精霊なんだよね?」

「言ってなかったっけ? わたしはね、収縮の精霊なんだよ」

「収縮?」

「意味は分かるよね?」

「確か…縮める事だよね」

「その通り、わたしは持った物を収縮する事が出来る能力があるんだ。例えば…何か収縮してもいいものない?」

「えっと…」

僕はベッドの横にある棚の引き出しを開けた。中には学生鞄が入っていた。恐らく引かれた僕と共にここへ運ばれた物だ、昨日は気づかなかったな

鞄を開けて中を見ると教科書やノートが入っている。引かれた際に中身に以上が出ていると思っていたけど特に何か壊れている物は無いようだった。

筆箱を取り出し、一本のペンを持った。

「コレとかどう?」

「オッケー、貸して」

手を伸ばすピスラに渡すと、

「いっくよ~」

パシュン!

まさに一瞬の出来事だった。ピスラがペンを両手で持ったかと思うと、あっという間にペンが消え、代わりに一枚のカードのような物がピスラの手の中にあった。

「こんな感じだよ」

「うわぁ…凄い」

カードを手渡される。

裏返したりして見るがまさにカードそのものだ、中には先ほどのペンが書かれている。

「でも、まさか一瞬でここまで小さく出来るとは思ってなかったなー」

「え?」

カードは縦15センチ、横5センチぐらいの物だ。

「前のわたしなら、もっとこう…下敷きぐらいの大きさになるんだけど」

「へぇ…」

「多分、晶と契約を結んだからだよ」

「僕と?」

「契約を結んだ精霊は力が増すんだよ、だから晶のおかげだと思う」

「ふぅん…」

改めてカードを見る。

その時、病室の扉が開いた。

「!?」

驚いてそちらを見ると、

「おや、起きてましたか」

白衣を着た男の人が入ってきた。首にかかっている聴診器が見る限り、本当のお医者さんだろう。

「何か話し声のようなものが聞こえた気がしましたけど…電話か何かですか?」

「は、はい、そうです」

僕の目の前にはお医者さん。その更に前にピスラがいる。気づいていない所を見ると、見えていないようだ。とりあえず安心した。

その後お医者さんは心音やら喉やらをまるで風邪かどうかを調べているような診察をした。ピスラはその間お医者さんの回りをふよふよ浮いていたが、お医者さんは全く気にしていない、見えてないから仕方ないけど。

「ふむ…体の方に異常は無いようだね」

「はぁ…」

「でも。どうやら君は頭を強く打った時に記憶の方に障害が出たって聞いたけど、そっちの方はここじゃどうにもならないからね。何か思い出せない事はある?」

「えっと…」

思い出せないのだから思い出せない事なんだけど…とりあえず学校への帰り道かな、帰れたら一人で帰れるぐらい体は正常だ。

後は…友達、かな。

石榴先生は僕が性格さえ変わってしまったと言っていたので、その時の僕は一体どんな人と仲が良かったのだろうか…。

…こんな変わってしまった僕が学校に行ったとして、受け入れらるのだろうか…。


大丈夫だよ


「!?」

「どうかしました?」

「いえ…あの…」

今、声が聞こえた。

だが耳にではなく、直接頭の中に聞こえた気がした。

しかも、聞き覚えのある声ピスラの声だった。

探してみるとピスラは何故か僕の肩の上にいた。

『どう? 聞こえる?』

まただ…。頭に直接聞こえる声、これは一体…?

『答えられないだろうから一方的に言うけど、契約を結んだ精霊とは声を使わなくてもこうやって思った事を伝えられるんだ。今さっき思い出したから実行してみたんだけど、成功したみたいだね』

思った事を伝えられる?

『まさに以心伝心ってやつだよね』

そう…なのか?

「何か思い出しました?」

「あ、いえ、全く…」

「ふむ、では逆に覚えている事はありますか?」

僕は言われた通りに覚えている事を話した。

自らの名前、年組番号、物の名前や使い方等。

一通り終わった頃、お医者さんは、

「ふむ…やはり時間と共に思い出すのを待つしかないですね」

そう言い残して病室を出ていった。

扉が閉まるのを確認した後、まだ肩に乗っていたピスラに話しかけた。

「さっきのってさ」

ピスラは肩から浮き、僕の目の前に移動した。

「僕には出来ないのかな」

「多分出来ると思うよ、頭の中に伝えたい事を思って後は念じるの」

「念じるって…」

「大丈夫だよ、結構簡単に出来るって」

「うん…」

僕は頭の中に言葉を考える。

とりあえず、聞こえますかと思ってみた。

そして念じる…。


…聞こえますか?


頭の中で何回も繰り返すと、

『はいはーい、聞こえてるよー晶』

返事が返ってきた。

『も…もしもし?』

もう一度念じる。

『はいはーい』

返事が返ってくる。

『き、聞こえてる?』

『聞こえてるよー、あっさりと出来たじゃん』

「う、うん…」

こんな簡単には出来るとは思ってなかった…。

『誰かいる時はコレで話せばオッケーだね』

「そうだね」

「ふ~、でもコレって結構疲れるんだよね、頭使ってる感じが凄いあるから」

「そうなんだ」

『でも使わないとやり方を忘れちゃうからこまめに使わないとね』

『うん、了解』

『あはは、随分慣れたね』

その後僕達はしばらくの間その会話方法を試し続けた。


そして午後になり、迎えを待つ僕はとりあえず制服に着替えた。

黒のズボンにワイシャツ、そして紺色のブレザー。襟元には何かを型どったものだろう校章のバッジ。一体何を型どったのだろう疑問に思いながらも支度を続ける。

その時、病室の扉が力強く開けられた。

「おいっす晶!迎えに来てやったぜ!」

そこには、同い年だろう男子が立っていた。僕と同じ制服で、ツンツンとした黒髪だ。

この人が僕の友達なのか。

ペシン

「痛て」

その途端、その人の頭が何か板状の物で叩かれた。

叩いた人物をよく見ると…石榴先生だ。

「病院では静かにしろ」

「うぃ~っす」

ペシン!

「痛て!」

また叩かれる、さっきよりも強めに。

「返事は、はい、だ」

「はーい」

「ったく…まぁいいだろ」

先生は病室に入った。

「具合はどうだ?」

「お陰様で、大丈夫です」

「そうか、何よりだ」

僕達の会話を聞き、

「え?  あのー…先生?」

男子が尋ねてきた。

「何だ?」

「今…晶の様子に少し疑問を浮かべたんっすが…」

「勿体ぶるな、言え」

「…晶、大丈夫っすか?」

「今本人が言ったばかりだろう、ほれ、晶」

先生が僕を男子の正面に向かせた。

「コイツは西金 剛(にしがね つよし)、中紫の親友だった奴だ」

「はぁ…」

「先生何言ってんっすか? 晶は目の前にいるでしょ、それに知らない訳が…」

「えっと…ごめんなさい、実は記憶喪失になったらしくて、覚えていないんです」

「な…」

固まってしまった。

「ふぅ…こうなるだろうと予想して来てみて正解だったな」

先生は手に持った板状の何か…紙の束で西金さんの頭を叩いた。強めに。

ペシン!

「痛て! …は! 俺は一体…」

「中紫を迎えに来たんだろ」

「おっとそうだった、晶を迎えに来た…と」

西金さんは僕の顔を繁々と見てきた。

「あー確かに晶だな、何か最初は驚いたけど姿形は全く一緒だしな」

「は、はぁ…」

「でもその姿勢が何か前と全く違うんだよな」

「はぁ…」

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと中紫を案内しろ。帰り道が思い出せないからこうして待ってたんだぞ」

「はいはい、行くぞ晶」

「はい」

鞄を持ち、病院を出た。


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