comeclose ~始まり~
comeclose そのまま訳して、〝近づく終わり〝
終わりに近付いていますが、どうぞお楽しみください。
…何故、俺はこんな事をしているんだ?
よく考えたら、人とは何かと違うからだろう…
だったら…
ピシッ
「……」
…という所で目が覚めた。
今のはなんだろう…?
まさか…前の僕の記憶か? だとしたら、一体何があったんだ…?
「晶、起きた?」
横からピスラの声が聞こえた。
「うん。おはよう…」
「どうかしたの? なんだか顔色が悪いけど」
「ううん、大丈夫だよ」
「そっか、じゃあ今日こそ時計台に行こ」
「うん、準備するから待ってね」
今日は日曜日、僕が僕になってからちょうど2週間。入れ換えの精霊トルマと契約を結んでから5日が経っていた。
次の休日には時計台に行き精霊探しをする予定だった、本当なら土曜日だが、昨日は学校があったので今日になったのだ。
ベッドから起きる。
「おっはよー晶くん」
「おはようございますです晶さん」
「2人共おはよう」
服を着替えながら、先ほど見た夢を思い出してみる。
…やっぱりアレは前の僕の記憶だろう。
でも、こんな事をしているのか…とは何の事だろう?
『もしも~し、誰かいたら出てきて下さいな~』
トルマが時計へと声を送る。僕とアクアはそれを時計台の下から、ピスラはトルマの隣で見ている。
ふいに、隣にいたアクアが、
『大丈夫でしょうか…』
『分からない、でもトルマを信じてみようよ』
『はいです』
その時、
『…何か…用か?』
時計の中から一人の精霊が現れた。
白く長い髪が、左目を隠している精霊だ。
あれが記憶の精霊なのか?
『呼び出してすみません。あなたは何ですか?』
『…聞くときはそちらから名乗るのが礼儀だろう』
『あ、失礼しました。わたしは収縮の精霊です』
『入れ換えの精霊です』
『そうか…私は時計の精霊、この時計を拠り所として八十年になる』
『時計か、惜っしいな~』
『…いきなりなんだ?』
『すみません、この子こういう性格で』
ピスラはトルマの保護者みたいな立ち位置になっている。
『わたし達は記憶の精霊を探していまして、こちらにいらっしゃいませんか?』
『…悪いが探す場所を間違えているな、時計は記憶を持つ必要は無い…ただ時を刻めば良いのだ。記憶の精霊はいない』
『そうですか…ありがとうございました。他を当たります』
『うむ…期待に添えず悪かったな…では』
時計の精霊は時計の中へと消えていった。
ピスラとトルマが降りてくる。
『居ないって』
『うん、聞いてた』
『しっかし、あの精霊はずいぶんとご高齢だったね』
『八十年、だっけ?』
『うん、わたしやトルマよりも年上だよ』
『え? 2人は幾つなの?』
『女の子に年齢を聞くのは野暮ってもんじゃないかい? 晶くん?』
『あ、ごめん…』
『あはは、うそうそ、うちは今年で21だよ』
トルマの方が年上なのか、
『わたしは17』
『僕と同い年だね』
『そういえば言ってなかったね』
『アクアちゃんは?』
『わ、私は…』
『待ってアクアちゃん! うちが当ててみるから』
訊いておきながらトルマは自分で考えるらしい
『は、はいです…』
『う~ん……ズバリ! 30代前半でしょ!』
ビシッ! と指を差すけど、大はずれだ。
『あ、あぅぅ…私そんなに年老いて見えますですか…?』
『あれ? 違った?』
『アクアは7歳だよ』
『なんと!? うちの3分の1とは!?』
オーバーリアクションでトルマは驚いた。
…トルマが仲間になってから、かなり賑やかになったよな。
…物は使えば減る
物は無限ではない
無限な物は物と呼ばない
だが、ものは違う
ものはものと関わり無限に続く…
…だから俺は無限なものを使って無限なものを減らしている…
…堂々巡りさ
…夢を見た。
まるで昨日の続きのような、昨日のそれと繋がるような、そんな夢…いや、僕の記憶また記憶を思い出しだ。
ものは無限にある…ものを使ってものを減らす無限を減らしている…。
…僕は何をしていたんだろう?
昼休みの購買は戦闘だ。
最初の時は右往左往した結果コッペパンだけしか取れなかった僕だが、さすがに慣れてきた。
周りにいる生徒の間を抜けて前に進む
「おや? 中紫じゃないか」
ふいに声をかけられた。
それは正面に居た表方さんだった。
「表方さん」
「こんな所で奇遇だねぇ」
「人と話せる場所では無いですからね」
「まあね~私はもう買い終わって戻るところだよ」
「そ…そんなにですか?」
よく見たら表方さんは両手いっぱいにパンの入った袋を持っていた。
「コツがあるんだよ、なんなら教えてあげるよ?」
「あ、いえ、大丈夫です、自分で何とかしてみますので」
「そっか、頑張って」
「はい、ありがとうございます」
「あー、ちなみに」
「はい?」
「こうしてお喋りしてる間に良いものはごっそり持ってかれるよ」
「あ!」
そうだった、話をしている場合じゃなかった。
「そ、それでは!」
僕は前へと進みだした。
最後に見た表方さんは、こう言っていた気がした。
「…やっぱり、中紫だね」
「お~~い」
空の上から声が聞こえた。
しかも妙に間延びした声が、
「この声って…」
一番に反応したのはピスラだった。
僕達は声のした上空を見た。すると案の定、
「やっほ~、久しぶり~」
雲の精霊が降りてきた。
「あー! ちょっと、時計を調べたけど記憶の精霊なんていなかったじゃんよ」
「あれぇ~? そうなの~」
「そうだよ、時計は記憶する必要ないんだって」
「へぇ~、そうなんだ~」
「そうなんだって…まさか知らないで言ってたの!?」
「うん~、なんとな~くいそうだな~って思ってさ~」
「いそうだなって…はぁ、あなたに頼んだわたしがバカだったわ…」
手で頭を押さえてピスラが落ち込み始めた中、
「やっほ~い、うちは入れ換えの精霊です。あなたは何の精霊ですか?」
「雲の精霊ですぅ~、始めましてぇ~」
「始めましてー」
トルマが雲の精霊と話を始めた。
「ピスラさんと友達なんですか?」
「ピスラさん~? 誰の事~?」
「あの収縮の精霊の名前、ピスラさん言うんよ」
「へぇ~、お~~い~ピスラさ~ん」
「…え、あぁ、何?」
「呼んだだけ~」
「……」
更に頭を手で押さえた。
『ねぇ、晶』
ピスラの声が頭に送られる。
『何?』
『そろそろ行きましょ…ここにいたら疲れそうで…』
『あぁ…うん、そうしようか』
ピスラがここまで疲れてる顔をしてるなんて初めて見たかもしれない、前はペースにのまれなかったのに、トルマと組んだから大変になったのだろう。
「トルマ、アクア、そろそろ帰ろっか」
「はいよ~」
「はい~…あ…は、はいです!」
またアクアのしゃべり方が雲の精霊に移されてしまっていた。
「ばいば~い、またね~」
「もう大丈夫だからな」
「はい、ありがとうございました」
「じゃあな」
…ふぅ、これで何人目だろうか
数えるの疲れてきたな
…それぐらい、コレは減らないんだな
…まただ。
前の僕が誰かにお礼を言われている所だった。
そうだ、前の僕は人助けをしていたんだったな。
しかも、数えるのが嫌になるぐらいも。
でも、何だか疲れているようにも見えた。
…何故だろう?
という所で顔に冷たさを感じた。
「うぷっ…!?」
というか、まるで水の中に顔を沈めたような感覚を覚えた。
本当に水の中みたいで、い、息が…。
「ぷはぁ…!?」
慌てて顔を上げた。
顔に手をやると、びしょびしょに濡れている。
「え…何だ…コレ…」
その時、
「す、すみませんです…」
「アクア?」
アクアの声が聞こえた。メガネをかけていない状態なので姿は見えない。
「い、今の私がやりましたのです」
確かに水の精霊なのだからこうして水を僕の顔にかける事ぐらい簡単な筈だ。
だが問題は、
「な、何で?」
「あ、あの…何だかうなされていたみたいでしたので…そ、それで、顔を洗えばすっきりするかなと思いまして…」
水の塊が僕の前を、まるでシャボン玉のようにふよふよと浮いていた。
それはともかく…うなされていたみたい?
「僕、うなされていたように見えたの?」
「はいです…」
…特にうなされてるような夢は見ていない筈だけど…でも、夢の中の僕は疲れていた気がする。
それと関係あるのだろうか?
「あ、あの…晶さん、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ、少し息苦しかったけどね」
「あ、あぅぅ…」
「でも顔が洗えてすっきりしたよ、ありがとう、アクア」
「……」
メガネはかけていなかったが、浮いていた水の塊に、
「はいです!」
笑ったアクアが映っていた。
上からバケツが降ってきた。
バシャア、という音と共に水が辺りに流れ出た。
「うわ!」
僕は咄嗟に後ろに下がった。カランと音をたててバケツが床を転がり、止まった。
「何でバケツが…」
ここは三階と四階の階段途中の踊り場、幸い周りに他の生徒はいず、僕もズボンの裾を少し濡らしただけで済んだ。
「す、すみません! 大丈夫ですか!?」
上の階から東真さんが降りてきた。
「東真さん。もしかして…コレ…」
「は、はい…私が落としてしまった物です」
「そうなんだ…何でまた」
「掃除ロッカーを開けたらバケツが見当たらなかったので、事務室まで借りに行ってたんです。それで一階で水を組んでいけば早いなと思って組んで階段を上がっていたら、手を滑らせてしまいまして…」
…えーと、
今は清掃の時間である。僕も今ゴミ袋を焼却炉に運んできたばかりだ。
そういえば、剛がブラシとバケツを持ってどこかの掃除へ向かっていた気がする。
だからバケツが無かったのか…まぁそれはともかく。
別に一階でも四階でもバケツに水は入れられるし、そもそも階段の手すりは東真さんの肩ぐらいの高さ位まである。その状況で水の入ったバケツを手を滑らせて落としたとは…東真さん…ただ者じゃない。
「大丈夫でしたか? どこかに跳ねませんでしたか?」
「少しだけ濡れちゃったけど、大丈夫です」
「す、すみません…ご迷惑をおかけして…」
東真さんは顔を下げて落ち込んでしまった。
「だ、大丈夫ですから」
「はい…」
「顔を上げてください、僕は全然平気ですから」
「…はい」
東真さんが顔を上げた。
「とにかく、この零れた水をどうにかしないと」
「はい、私、事務室から雑巾をお借りしてきますね」
「お願いします」
東真さんは階段を降りていった。
「さて…」
バケツを持ち上げ、踊り場一面に零れた水を見る。
その中に、ある姿を見つけた。
「あ……」
「久しぶりですね…アクアの契約者」
あの時の水の精霊だ。
「まだこの辺りにいたんですね」
声を返す。
「行く前に…あの方を見て行こうと思いまして」
「東真さんですね?」
「彼女は今…幸せですか?」
「それは本人に聞いてみないと分かりませんが…僕が見る限りでは、東真さんは楽しそうに笑いますよ」
「…そうですか」
「お待たせしました」
東真さんが雑巾を持って戻ってきた。
「ありがとうございます。あの…東真さん?」
「はい?」
訊けない精霊に代わって、訊いてみよう。
「東真さんは今…幸せですか?」
「え……はい、もちろんです」
「そうですか…では始めましょう」
「はい」
僕達は零れた水を拭き始めた。
すると、ある一ヶ所にあの水の精霊が写っていて、
「ありがとうございます」
そう言葉を送り、見えなくなった。
「…どういたしまして」
届くか分からないが、言葉を送り、水を拭き取った。
ここで少し彼らの、人の話を
彼らの名前には、精霊達に宝石の名前がついているように、宝石の名前が隠れています。
それを探してみるのも、また楽しみのひとつですよ。




