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僕と記憶とメガネと精霊と  作者: 風紙文
入れ替えの章
13/20

調理実習の日、100回目

今は既に三限目、今日は三、四限連続の家庭科で、二組合同の調理実習、B組とD組の合同だった。

「そんじゃ、準備出来た所から始めていいぞ」

家庭科の大和先生が言った。因みに調理実習の班も二組合同で、2クラス合計五十人、一班五人の計十班、全て大和先生が考えたらしい。僕は七班だった。

他のメンバーは、同じB組の裏井さんと東真さん。そしてD組は南野さんだ。

「あれ? 一人足りなくないですか?」

「こっちの黒石よ、今日は休みみたい」

黒石はD組だったのか…ってそれ以前に、

「休み?」

「朝からいなかったわ」

確かに、黒石は朝僕が行く時もベッドの中にいた。

…さぼったのかな?

「とにかく、さっさと始めましょ」

南野さんはエプロンをつけて食材を洗い始めた。

…今日は本物…だよね?

「あの…南野さん…?」

「なによ?」

「昨日の…」

「そう言えば青が言ってたわね、晶にはバレたって」

今日は本物らしい。

「どうだった?」

「他の人にはバレてなかったみたいだけど」

「流石ね、毎回カツラを改良してるらしいけど、何でそこまでするのかしらね」

食材を洗い終え、まな板や包丁を洗い出す。

「…あの、南野さん」

「今度はなに?」

「何故そのような事をしてるんですか?」

「…別に対した理由は無いわ、あの子がそうしたいって言うから換わってあげてるだけよ」

「ですが…青さんの学校はどうしてるんですか?」

「多分休み扱いね、その辺は本人に聞いて」

「はぁ…」

「さっさと始めましょ、晶も手を動かして」

「は、はい…」

調理実習の献立は全四品。フレンチトースト・サラダ・コーンポタージュとフルーツパンチだ。

まずは食材を切り始める。

食パン、きゅうり、レタスとハム、それらを僕と東真さんとで切っていく、

「…本当に、晶ってなんでも出来るのね」

フレンチトーストに使う卵を溶きながら見ていた南野さんが言った。

「いえ、これぐらいどうって事無いですよ」

「ふぅん…」

南野さんはジト目で僕を見ている。

「どうかしましたか?」

「晶」

「剛? どうしたの?」

確か向こう側の班だったはずだけど…。

「やっぱそれも忘れてんのか、南野って料理が…」

「自分の班に戻れ!」

ビュン!

「うぉ!?」

「えぇ!?」

南野さんが卵を溶いていた菜箸を剛に向かって投げた!

「おま、それは洒落になんねぇだろ!」

「うるさい! さっさと自分の班に戻りなさいよ!」

「そうカッカすんなよ、俺はただ忘れている晶に真実を教えに来ただけで…」

「時を考えなさい!」

ビュン!

「危ねぇ!!」

もう一本の菜箸が剛のすぐ横を通り抜けた。

「どうしてくれるのよ剛! 卵が溶けなくなったじゃない!」

「俺のせいか!? お前が投げたからだろ!?」

ごもっとも

「いいからさっさと戻りなさいよ!」

「へーへー、じゃあな晶」

剛は自分の班に戻っていった。

「全く…」

「えと…南野さんは料理が出来ないんですか?」

「う……そ、そうよ、だからこうして卵を溶いてるんじゃない、包丁を使うものはダメなのよ」

「そうだったんですか…それなのにあんな事を言ってすみません…」

「いいのよ別に、それより菜箸どこに行ったか知らない?」

「えっと…」

「これか?」

裏井さんが先程投げられた菜箸二本を持っていた。

「一本は床に落ちたから洗っておいたぞ」

「それよ、ありがと」

「もう一本はどうしたんですか?」

「投げられたのを取った」

「え…?」

「手が止まってるぞ」

「あ、すみません」

僕は食材切りを再開した。


コンロに火をつけ、水の入った鍋を置く、これを沸かしてコーンポタージュを作るのだ。

「コーンポタージュは誰が作りますか?」

「俺がやろう」

コレは裏井さんが担当する事に、

「では、残りの3つも分担しましょう」

「あたしがフルーツパンチを作るわ」

南野さんがフルーツパンチ作りに志願した。

「後はフレンチトーストとサラダですけど、中紫さんはどちらがよろしいですか?」

「じゃあ…サラダを」

「分かりました、では私がフレンチトーストを作りますね」

こうして分担が決まった。僕は切られた野菜を皿に盛り付けていく。

別にサラダはこうするだけで簡単だから選んだ訳では無い、

「南野さん」

「なに?」

南野さんと話をする為だ。

「昨日の事ですけど、南野さんは入れ換わっている間は何をなさっているんですか?」

「特に決まった事はしてないわ、ただ他の生徒に見つかったら困るから極力部屋から出ないけどね」

「え…同室の方は?」

「居ないわ、あたし一人部屋なの。だから青が一泊しても大丈夫なのよ」

「そうなんですか」

「青は本当に自由よね。たしも入れ換わって青の学校に行ってみようかしら」

「あはは…」

…こんなにいい人なのに、それがあるせいで、南野さんはD組に、特に変わり者の集まりに入れられてしまった…

それについてはどう思っているんだろう…

…うん、聞いてみよう。

「あの…南野さん」

「なによ?」

「実は…」

僕は裏井さんに聞いた事を織り混ぜながら、D組の事を話した。

「知ってるわ、だってその原因を作ったのはあたしだもの」

「え?」

「初めて青と入れ換わった次の日に先生に聞かれたの。アレはどういう事だって、あたしは咄嗟に二重人格ですって言ったら受け入れられたわ、でも良く考えたら親族ぐらい調べれば簡単に見つかるものだからあたしに妹がいるのもすぐに分かる筈なのにね。もしそれが原因なら、その先生が調べなかったって事よ」

「はぁ…」

「でも別に良いのよ、あたしは自分が普通じゃないのは分かってるから、入れ換わってる時点でね」

「……」

特に変わり者が集められたというD組…。

なら、何故僕はそこに入っていないのだろう?

瞳を見て人の心の内を知り、高校に入ってから人助けを始めたという前の僕がだ。

そう考えると、

「…きっと、違いますよ」

「え?」

「特に変わり者が集められてるなんて嘘ですよ、それなら僕が真っ先に入っている筈なんですから」

「…そっか、ありがとね」

「いえいえ」

「2人共、終わったか?」

裏井さんが声をかけた。因みにどちらもまだ途中だ。

「こちらはもうすぐ終わるぞ」

「お手伝いしますね」

既に終わっていた東真さんが南野さんのフルーツパンチを手伝い始めた。

「ありがと」

僕も作業に戻った。


「それじゃ、今日はここまで」

先生が教科書をまとめて教室を出ていく。

今、六限が終わった。クラスの皆は各々の行動に移っている。

僕も教科書を鞄に詰めていると、

「晶、帰るわよ」

いつの間にか後ろにいた南野さんが声をかけてきた。

「南野さん、部活は?」

「今日は休みよ…と言いたい所だけど、実は青が今日帰るの、それを見送る為に今日は休むのよ、だから晶も一緒に来なさい」

「分かりました」

僕と南野さんは教室を出た。

正門を抜け、寮へと向かうその途中、南野さんが口を開いた。

「本当に良かったの? 実は何か用事があったとか…」

「いえ、何も用事はありませんよ」

「そう…」

それっきり、無言で歩き続けた。

そして僕達はあの横断歩道に差し掛かった。信号が赤の為、止まる。

その時、

「…ねぇ」

南野さんが沈黙を破った。

「はい?」

「晶は…青とあたしがしてる事を見てどう思う?」

してる事とは、入れ換わる事だろう。

「…そうですね」

「おかしいと思う?」

「え…い、いえ、そんな事はありませんよ」

「…じゃあ、良い事だと思う?」

「それは…」

本音を言えば、良い事では無いと思う。入れ換わっている間は南野さんがほぼ何も出来ない状況になるし、青さんも自らの学校は休む扱いになる

だからといって悪い事なのかと言えば…そうだとは言い切れない。

「…やっぱりね」

「…すみません」

「いいのよ、分かってるから…でも、こんな変な事をする奴は…嫌よね」

「そ、そんな嫌だなんて」

「でも…晶はあの時言ってくれた、嫌じゃないって」

「え…」

「別におかしくないって、むしろ……」

「南野…さん?」

「…あのね…晶」

南野さんはあの時のように僕に顔を近づけてきた。顔がすぐ前にあり、何だか甘い香りが……って、これじゃ前と同じじゃないか! 一体何を考えているんだ僕は!

「…あのね…晶…こんなあたしだけど…あたしは…」

その時

「お~い、お姉ちゃ~ん」

「!!」

横断歩道の向こう側で、青さんが手を振っていた。

「青さんですね。南野さん…南野さん?」

横を向くと、南野さんが地面に体育座りをして、膝の間に顔を埋めていた。

「ど、どうしたんですか!?」

「大丈夫よ…ちょっとどっと疲れただけだから」

「ちょっとどっとって…矛盾してませんか?」

「とにかく…大丈夫よ」

南野さんは立ち上がった。

「あれ~? もしかしてお邪魔だった~?」

「な、なに言ってんのよ! そんな訳ないじゃない!」

「あはは~」

信号はまだ赤だが、青さんは横断歩道を渡りこちらに向かってくる。

「ちょっ! 危ないわよ!」

「え~? でもそっちは青だよ?」

「え…?」

僕は信号を見る…赤だ。

でも青さんが見ているこちら側の信号は、ここからは見えないが青らしい。

つまり、片方だけが青なのだ。そんな事は普通あり得ないが……今ならあり得る。


その時だった


「っ…!」

頭に激痛が走った。あまりの痛さに手で頭を抑える、呼吸が出来なくなる。

これは……あの時と……同じ…。

「晶!?」

「中紫さん?」

遠くにいる青さんは道路の途中で足を止め、僕の状態を見ていた。


それが、いけなかった。


青さんが渡っていた今はまだ、信号が赤なのだ。

そこで僕は前のめりに倒れ始め、意識を失った。



その時に見えたもの




最後に見えたものは




青さんの隣にまで来ていた、一台の車だった。


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